つまるところ、嘘から出たまこと(3)

「こちらこそよろしく頼む。それでミナセ、これらスクルナグを加工したのはあなたなのだろうか?」

「はい。そうです」

「宝を生み出す宝……! よくぞディーカバリアに来てくれた!」


 クエルクス王子がやはりテンションが高いまま言って、私の両手を取る。その手をブンブンと上下に振られ、彼の全身が歓迎を表してくれていた。


「勿論、これら作品のすべてを持って帰ろう」

「! ありがとうございます」


 歓迎されるだけでも嬉しいのに、彼はさらに私を嬉しくさせる言葉をくれた。


「誰か、竜になって運ぶように」

「「では私が!」」


 王子の呼びかけに、使節団の皆さん全員が揃って声を上げる。挙手も綺麗に揃っていた。

 運び出す手段が馬車ではなく竜ときた。

 王子に選ばれた男性が、テーブル真横に移動する。それから彼は、彫刻の上に手をかざした。

 わっ、浮いた。

 ふわふわ。作品たちが浮き上がって運ばれる。一つの作品に十分なスペースが取られ、これなら作品同士がぶつかって欠けたり崩れたりはなさそうだ。


「先触れにスクルナグを持たせたのに一向に見かけないと思えば、ミナセに贈られていたのか。ミナセの技術を思えば、その判断は正しいな」


 うんうん一人頷いている王子に、早々に厄介払いされて私に回ってきたことは口が裂けても言えない。

 搬出作業の最中王子は、まるで大好物でも見るかのようなとろける表情で彫刻を見つめていた。その熱い眼差しは、口だけで「価値がある」と言っていた宰相さんのそれとまったく違う。上っ面だけでないのが、見ている人にまでわかる。

 これほどまでに私の作品に関心を示してくれた人は、それなりの評価を受けていた元の世界にさえいなかった。

 王子だけではない、使節団の皆さんの反応もかなり良い。私としては、冷遇が確定しているクノン国よりマシだといいなくらいの気持ちだった。であるからこのディーカバリア国の歓迎振り、良い意味で期待を裏切られた。

 異世界に来てまで『料理で相手の胃袋を掴む』という夢は夢に終わってしまったが、彫刻の方をこれだけ認められる世界で第二の人生が始まるのなら上々だ。私は先程の王子よろしく、一人うんうんと頷いた。

 と、そこへ「ミナセ」と名を呼ばれる。

 振り向けば、何故かそわそわした様子で私と彫刻を交互に見る王子の姿があった。


「その、ミナセは俺に贈られたのだったな?」

「はい、そうです」


 事実なので即答すれば、今度は何故かわくわくした感じの王子が「それならっ」と前のめりで彫刻を指差した。


「ディーカバリアに着いたら、ここにある作品すべて――俺がいいんだろうか⁉」


 しかしその切実なお願いに対し私は、「ん?」としか反応のしようがなかった。

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