告白の返事 題材 待

「好きです。付き合ってください」

 告白された。食事後の帰り道で、同僚の北澤きたざわれんに告白された。

 別に偏見はない。たださっきまで一緒に夕食を食べていた際、好きだという素振りなど見当たらなかった。

 それが愛の告白をしてきた。

 北澤は物静かなやつだが、俺は同僚として気にかけたりしていた。そしたらまあ、友達にはなった。

 まさかそれを「気がある」と勘違いしたのだろうか。

「あのさ。質問していい?何で好きなの?」

「いや。単に同性関係なく好きだなと」

「そっか」

 北澤は嘘を言ってるようにも思えなかった。本気で言っているらしい。

 俺はどうするべきか悩む。俺の様子を察した北澤が口を開く。

「あの。返事は待つよ」

「助かるわ」

「気持ち悪くないか?」

「気持ち悪いって?何が?」

「同性で、俺は男だし」

 どうやら北澤は俺に「同性愛への偏見がある」と思ったらしい。

 まあ、人によっては気持ち悪いかもしれない。そう感じる人は同性愛者から迫られたか、関わったことがないからかもしれない。

「別に異性愛者じゃないといけない理由もないだろう」

「ありがとう」

北澤はすごく嬉しそうだった。

 北澤が俺を好きになる理由が解らない。ただ彼は今、同性愛になったわけではなく、以前からだろう。 

 それで傷ついたことがあるのだろう。表情がそれを物語っていた。

「じゃあ。また明日」

「おう」

 俺は北澤と別れ、電車に乗る。

 俺はこれまで付き合った彼女とのことを思い出していた。

 北澤とはもちろん、女性という意味で全く違うタイプだ。

 これまでの彼女は自分の意見をしっかりと主張し、気が強いタイプだった。

 自分がある人だった。俺はそういう人に流されるように付き合った。

「あなたは人を好きになれない」

 こんなことを言われて別れたのが2回くらいある。

 解らないでもない。俺は人に興味がない。仕事で関わる人には気を遣うが、それ以外の人にはそうでもない。

 母親にも言われた。「お前は人に興味がなさすぎる」と。

 北澤が俺を好きなったのも「仕事で関わっている人で、外面しか俺は見せていない。だからだろう」と思った。乗っている電車内で、女子高生の会話が聞えてくる。

「告白されたけど。どうしようかな」

「え?マジで誰に?」

「田中くん、まさかと思って」

「へぇ。で。付き合うの?」

「解らないんだよね。物静かだし」

 物静かという言葉に俺は反応する。物静かな奴と付き合ったことはない。

 そもそも物静かな奴が俺に興味を示したことすらないからだ。引き続き、会話を聞く。

「私のことを好きになった理由、解らなくて」

「理由がなくても人を好きになることもあるのでは?」

 理由がなく好きになることってどんな時だろうか。俺自身も知りたい気がしてきた。耳をそばだてる。

「そうなの?」

「そうだよ。実際、付き合ってみれば?」

「え、どうなの?それ」

「ちょっと面白いかもしれないじゃん」

「なんか。人の気持弄んでるみたいじゃない?」

「そうかな」

 確かに「付き合ってみる」は真剣な思いを告げてきた人に対する侮辱に近いかもしれない。

 いきなり告白されて「付き合う」にしてもギャンブルに近い。軽いノリで付き合うのもどうなのかとも思う。

 女子高生は下車する駅に着いたらしく、降りて行った。

 俺自身は北澤を嫌っていない。けれど。恋人として付き合うとなると想像がつかない。付き合ってみれば解る。

 この意見はかなり乱暴に思えた。

 これまでもそういう感じで付き合って相手を傷つかせてきた気がするからだ。

 スマートフォンにメッセージが来ていた。北澤からだった。


『俺、返事ずっと待ってるから』


 俺はその真剣な思いに、応えを出そうと思った。新規のメッセージを立ち上げて、打ち込んだ。

了 42:41




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る