Track.9 「喜劇/星野源」

唐突だけれど、私はシェアハウスで暮らしている。

というか、私は実家を離れてから他人が生活している家でしか暮らしたことがない。


それは、

「ひとりで生活することに自信がない」

「なんとなく寂しい」

「タイパがよくて楽(家賃と共益費を一括で払える&共有部に清掃が入る)」

とか。


そういう、ふんわりした理由が重なって、居心地のよさに繋がっているからなんだと思う。


ひとりでいるって、なんとなく不安だ。

別に、特定の原因があるからではなくて。

本当に、ただ漠然とした寂しさや悲しさがある。

でも正体のない寂しさは、ささいな人の気配で意外と打ち消されるものだから。

そんなちょっとした安心のために、私はまだよく知らない他人が暮らす家で過ごしている。


割と最近、星野源がアルバムを出した。

タイトルは「Gen」。

大きく出たなあ。

ちなみに、アルバムタイトルはなんとなく付けたらしい。

「自分がいいと思う音楽をどんどん作っていったら、自分をバンッと転写したようなアルバムになった」そう。

どんな顔でコメントしてるのか、不思議と頭の中に浮かぶ。


星野源ってずるいよなあ。

ひょうきんそうなトークで、さらっとなんでもなさそうなポーズを取ってるのに、音楽を聴くとどれだけ孤独に生きていたのかが伝わってくる。

いい音楽作れて、きれいな女性と結婚してて。

それでも、満たされない孤独があるんだろうなあ。

十代の頃の自分だったら人生の贅沢さに激怒してたかもしれないけど、今はしない。

持たなくても持っていても、平等に苦しみがあるということを知っている。


「Gen」を1曲目から通しで聴く、をn回したけどどれもいい。

POPSなんだけど、POPSじゃなくて、万人向けであるんだけど、マニアを刺しにきている。そんな相反したアルバム。

それぞれ独立した1番なんだけれど、「やっぱりいい曲だなあ」を再確認したのは、アルバム5番目の「喜劇」。

SPY×FAMILYのタイアップなのだけれど、ちゃんと作品にマッチしていて、それでいて普遍的。キャラクターのことを歌っていると思うのに、私のことを歌ってくれているとも思わせてくれる。


「喜劇」はもちろん家族愛の曲なんだろうけど、私は隣人愛の曲だとも感じる。

この世界に生まれた人たちっていう、広いくくりの「隣人」。

慰めるようなメロディーがそう感じさせるのかもしれない。

でも、この曲を聴くと、グレーの部屋に窓から陽の光が差し込んでくるみたいな。

穏やかで、さらりとした風景が浮かぶ。


今日は土曜日。

午前にインスタントコーヒーを飲んで、洗濯機を回した。

キッチンには、誰かが水に浸した炊飯器の羽釜がある。

こびりついたお米はジャスミンライスだった。

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