イヤホン忘れたら生きてけない

空峯千代

Track.1 「残響ダンス」

 年が明けて、早くも二週間くらい。

 冬の寒さが厳しさを増していて、「正直舐めてたな~~~」とぼやきながら明らかに悲鳴をあげている身体をベッドに寝かせてやる。

 身体的な疲労はもちろんだけれど、圧倒的に心の不調が目立っている。そして、こういう時は放置していくと本当によくない。どんどん心が腐っていく。


 なんも考えたくないな、でも頭ん中にいろいろ浮かんできちゃうな。

 そういう時にイヤホンの出番である。


 ベッドで横になって、帰り道に付けていたイヤホンをもう一度取り出す。

 そして、自分は音楽系サブスクリプション(私はSpotify)を開いて、プレイリストを流し始める。

 .....別にプレイリストはなんでもいいよ、その時の気分で決めたらいいし。


 この日の気分は、空想委員会だった。

 一番直近に行った西永福のライブで覚えたバンドである。


 「ブツカリゲイコ」って物騒な名前のコンセプトライブ(主にインターネットで活動してるボーカル&演奏者がメジャーバンドやアーティストのカバーバンドをやる、まあかなりニッチなライブ。大人になった軽音部みたいな)。

 そこで空想委員会のコピーを一曲だけやっていて、歌詞の青い感じとかなりテクいギターが琴線に触れたのだ。


 空想委員会だらけのプレイリストを流していて、いっちゃんいいなーとなったのが「残響ダンス」。


 裏拍を意識したメロディーと歌詞の「ポリリズム」に Perfumeみを感じながら、「ドシンプルにいい曲~~~~」と身体は微動だにせず心を震わせる。

 ギターのフレーズがかなりテクくて、歌詞はそんな長くないけど「好きなもの」への哲学とパッションになんとなく共感しちゃう。間奏のギターは何周もしたくなるくらいいい。ずっと聴いてたい。


「もうなんもしたくないマジ無理」を訴えていた脳は現金なもので、興味関心には欲が深い。

 「残響ダンス、ええやん」→「空想委員会ってそもそもどんなバンドなんだろう」「影響受けてる音楽は?」「バンドのメンバー構成は?」と広がっていく疑問を解決すべくインターネットを潜っていく。

 

 Googleくんは大層優秀なので、大体の疑問は解消してくれる。

 しかしながら、情報の拾いやすさとは残酷なもので。

 空想委員会のボーカルである三浦さんががんで亡くなられたことも、それを理由にバンドが解散してしまったことも事実として知ってしまった。

 「もっと早くに知っておけば.....」と思いはするもののしゃあない。恋と同じで音楽との出会いも一期一会なのだ。


 悔やまれはするものの、残された音楽は聴けてよかったな。

 せめて好きなものを感じて今日を終わらせたい、そんな誠に小さな願いはイヤホンをつけながらの寝落ちという形で叶った。

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