勇者

 勇者とは、魔王とは何なのか。

 先ずは、其処から語らなければならないだろう。


 いや……むしろ、その目で直接見た方が早いかも知れないな。


 どうか見届けて欲しい。


 憐れで勇敢な一人の男の生き様を。




 三大国は各々の選ばれし一人の精鋭を、最北端の王国、エルダグロースに派遣した。


 召集された三人は、旅立ちを祝した御祭り騒ぎの群衆が犇く王都の応接間で、勇者の帰りを待ち侘びていた。


「ねぇねぇ!ここってさぁ、どれくらい人がいるの?」


 使用人に矢継ぎ早に質問攻めをする一人の少女。


「頼むから、静かにしてくれ……」


 使用人は引き攣った苦笑を浮かべながら辟易しつつ答え、其に頭を抱える白髪の少年たちであった。


「……」


 同時刻、某王都のとある地にて。


 彩り華やぐ花畑の中心にぽつんと建てられた石碑の前で、長身なる雄々しき一人の男が、白皚皚たる外套をそよ風に靡かせ、茫然と立ち尽くしていた。


 傷まみれの手には、煌びやかな黄金色の貴金属を叩いて薄く伸ばしたかのような、二つに割れた2.5センチほどの楕円の札を大事そうに握り締めていた。


 整った顔立ちの青年は、徐に天を仰ぐ。


 其の先には、澄み切った青空が広がっていた。


 カチャカチャと擦れ合う燦爛なる兜無き鎧に、煌々たる鞘に収められし白き大剣を携えて、無造作な向日葵色の短髪に散りばめられた紅の毫毛が覆い隠した、紅き虚ろな瞳から清澄な涙が頬を伝う。


 滴り落ちゆく雫は、黄色の花心を包み込む淡い紫の細き花びらに注ぎ撓む。


「……行ってきます」


 青年はふっと、ため息を零すかのように呟いて、疾くに身を翻す。


 仄かに赤く染め上げた猛禽違わぬ双眸で、石碑に背を向けながら歩みを進めていく。


 東西南北の諸国から著名人や偉人、そして四大国の王たちが一同に集いし、謁見の間へと。

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