勇者はやがて魔王となる

緑川 つきあかり

蛇足

世界観

 世界には周期的に魔王が誕生する。


 其は13年に一度、魔物の跳梁跋扈する世界の中心地に、忽然と膨大な魔力を放出し、顕現した。


 毒なる余波は、隣接する村々や国家に甚大な魔力災害を齎し、飢饉と夥しい数の魔物が遍く人々を襲うと云う、人智を超えた厄災を招いていた。


 何故、魔王が生まれるのか。人々は知る由もなく、ただ理不尽に訪れる恐怖に屈していた。


 そして、東西南北の最端に位置する四大国は、確実な魔王討伐を名目に、巨額の資金を費やして、貴族や王の子息らの集いし、勇者育成機関を設立。


 富に権力、地位に名誉と、あらゆるものが授けられる神々しい聖職に、誰しもが渇望し、方々からの入学者が後を絶えずにいた。


 臨む者、願う者、傍観する者、皆一同が、至極当然の事だと、考えすらせずにいた。


 勇者は其の中から生まれ出るのものだと。


 だが、事実は違った。


 26代目の勇者選定国に、選ばれた北大国の国王陛下の意向は違ったのだ。


 勇者選定規定日より、やや遅れた発表。

 数多の観衆が見守る会場での、北大国の大々的な公表に、世界中に戦慄が走る。


 名も無き勇者の爆誕。


 勇者として選ばれた者は、機関に属すことなく、出自さえも不明な、北育ちの青年。


 前代未聞の北の勇者の連続の選定に、各国は困惑し、連日連夜の猛抗議が殺到していたが、北大国の王は固く口を閉ざしていた。


 他国民からは、育成機関の内部入学や、貴族の庶子とやらの噂が、実しやかに囁かれていたが、未だに真相は定かではない。


 そして、選定日を大幅に過ぎ去った月日が、半ば強引な勇者選定を味方するように、その日は遂に訪れてしまった。


 


 そう。今日は、呪われた勇者と畏怖されし、26代目の名も無き勇者の旅立ちの日だ。


 勇者は王の命により、それぞれの生まれ育った東西南北の地の最果ての大国から、魔王城までの短き道のりを、三大国の一見の仲間とともに縦断する。


 其の縦断に疑問を投げかける者たちは少なくなかったが、王らは赤裸々に宣った。


 己の生きた証を故郷に刻むためにと。

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