お友達を集めたらお友達同士が仲良くなってしまいぼっち化する現象

 空手はミリしらです(╹◡╹)


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 現在、私の主な交友関係は五つ。少ないね。


 一つは智洋くん。言わずと知れたおやつくんだね。定期的につまみ食いしていてとても美味しい。性癖がぐちゃぐちゃに歪んだまま固まっちゃったのがチャーミング。お隣ママの心はそろそろ私のものになりそうだ。


 二つ目は聡くん。挨拶がきっしょいお友達だね。中学生の頃の自分の顔を、毎日欠かさず見ている異常者だ。とても賢い子で、私のキラキラ候補ナンバーワン。賢いから異常者になったのか、異常者だから賢く見えるのか。卵鶏論争が始まっちゃうね。どっちも食べれば解決だ。


 三つ目は将太くん。空手にふけっているスポーツマン。幼い頃に刻まれた敗北の味が忘れられず、立派に成長した姿で帰ってきてくれた。私のキラキラ候補その2だね。刻み込まれた敗北の味のせいで、多分小柄な女性に乗られながら責められないと気持ちよくなれないからだになっていると思う。スポーツマンに有るまじき性癖だ。健全な肉体には健全な性癖を宿らせろよ。


 四つ目は美保さん。美保さんは、美保愛菜さん。私にしては珍しく、思考の中での三人称が苗字の人だね。……なんで他の三人とは違って苗字なのかって?お友達のことを名前で呼ぶとかちょっと照れくさいからだよ。言わせんなって恥ずかしい。野郎三人はおやつなチワワときっしょい珍生物とヤンチャな大型犬だからね。比べるのも失礼というものだ。


 そして最後は、大切な家族である妹ちゃんとママ様だ。目に入れても痛くなくて、口に入れるとちょっとしょっぱい妹ちゃんと、本当に人間が怪しいママ様。……交友関係に家族を入れるなって?入れないと寂しいことになるんだよ。察してよ。



 さてそんな数少ない交友関係をわざわざ説明したのは、このうちの過半数が一堂に会するという珍事態が起きたからである。試合をする将太くんと、一緒に行くことになった美保さんと、私とお出かけする智洋くんと、なんか暇だから着いてきちゃった妹ちゃん。聡くん一人を除いてみんな集まっちゃったっ!奇跡だねっ!……そもそも高校生になるまで、私の交友関係は三つしかなくて、学校では智洋くんと聡くん、家では家族と智洋くんがしょっちゅう揃っていた。なんだ、意外と過半数集まってたね。そう考えるとこれも大したことじゃないと思えてきたので、ちょっと上がっていた私のテンションは一気に下がる。なんかもういいや。みんな帰ってヨシッ!


 と、思っていてもさすがにそんなことは言えないので、みんな揃ったねと言ってそれぞれを紹介する。みんな私を中心に集まっただけあって、今日が初対面の組み合わせも多い。4人の組み合わせは六通り、数学の問題だね。その内、初対面が二組、ほとんど話したことないのが二組、面識ありが二組。……なんだ、初対面の組み合わせは3分の1だけか。思ったよりも多くなかったな。


 紹介のモチベーションまで下がったところで、私は栄養補給として妹ちゃんに引っ付く。私とそっくりということで外部進学組二人から注目を集めていた中で、突然大好きなお姉ちゃんに抱きつかれた妹ちゃんは恥ずかしさでお顔が真っ赤だ。荒んだ心にn-シュウチロリニウムが沁みるぜ。


 妹ちゃんの尊い犠牲によりモチベーションを取り戻した私は、将太くんの試合がしっかり見れる場所を確保する。ちなみに今は午前で、将太くんは夕方くらいまでちょくちょく試合するらしい。私たちはそれぞれお昼すぎくらいには用事があるから、賑やかなのは午前だけだね。みんなに見られていて楽しい試合が、静かで寂しい試合になった気持ち、今度聞かせてね。


 そうしてそれぞれへの紹介が終わったところで、将太くんが呼ばれたので早速観戦開始。実況は灯ちゃん、そして解説は不肖この光ちゃんが務めさせていただきます。どっちもかわいい女の子だ。やったね。声も一緒だから聞いている方は困惑待ったなしである。


 さて始まりました六角さんの試合、選手は既に入場済みです。ちゃんとした大会じゃないからその辺は緩いですね。両選手は現在、和やかに談笑などしております。これから血で血を洗う闘いが始まると言うのに、呑気なものです。……解説の真白さん、これはどういった状況なのでしょうか。


 解説の真白です。カラテはスポーツであり、同時にブドウです。どちらにおいても大切なのは互いに尊敬し合うこと。諂いにならない程度に礼を尽くすことですね。試合中にはライバルでも、それ以外なら同士。緊張感がなくならない程度に仲良くするのは良いことと言えるでしょう。


 なるほど、私にはココロエがないので勉強になります。おっと、そんな話をしているうちに試合が始まりそうですっ!両選手深々と礼をして見つめあった!


 互いに間合いを測っていますね。相手が動いてから対応できる距離と、自分が攻撃する際に届く距離、体格が同じであれば、基本的にそれは互いに一緒です。それらのバランスを兼ねあったものが、今の睨み合いですね。相手の出方を窺うものでもあります。


 ……なんて、腹話術を使いながら一人で実況と解説をやって遊んで見せれば、同行者の視線は試合ではなくこちらに集中してしまった。特に、勝手に名前を使われている妹ちゃんなんて、かわいそうになるくらい真っ赤だ。今日はシュウチロリニウムの日だね。


 心做しか、解説の対象になっている将太くんたちもやりにくそうにしていたので、実況ごっこはここで終わり。代わりに、もっとしっかり解説をしていく。今私と一緒にいるのはみんな、空手になんてほとんど興味のない人達だ。そんな彼らが楽しんでくれるように、よくわからないスポーツを既知のスポーツに変えてあげるのは誘った身である私の仕事。


 聞き取りやすさと、内容の理解がしやすいように抑揚に気をつけたルール説明をして、それぞれの試合で半ば定型化している選手同士の駆け引きなんかも説明する。将太くんの試合と、それ以外の試合もいくつか見ながら続ければ、みんなも何となく空手を理解した。


 説明ついでに、試合を終えてやってきた将太くんにダメ出しとアドバイスをして凹ませる。かっこいいところを見せたくて呼んだ相手からダメ出しされたら、しょんぼりさんになっちゃうよね。かなしいね。まあ、私なんて、将太くんにこそ負けなかったもののカラテは何年も前にやめた身だ。それほど参考になるアドバイスではないだろうし、なんなら的外れかもしれない。


「へぇ、灯ちゃん、絵を描くんだ。すごい上手だねっ!……お姉ちゃんの方が上手い?光ちゃんって絵もかけるの!?」


 私が将太くんの相手をしている間、暇を持て余していたらしい美保さんが、私にそっくりという理由で妹ちゃんに目を付ける。お嬢ちゃんかわいいね、何歳?どこ住み?てかLINEやってる?というような会話を、しかし本人に不快感を与えることなく可能とするコミュ力お化けの美保さんに、妹ちゃんはタジタジだ。聞かれるままに個人情報を垂れ流して、ついには私の趣味木工のことまで話してしまう。


 そんなに本気で隠しているわけでないとはいえ、あまり開けっぴろげにもしたくない話なので、クラスのみんなにはないしょだよと口止めする。友達価格でなんか描いてよ!タダでいいよ!みたいなお願いは、聞くだけで色々と削れるからなるべくされたくない。


「それなら誰にも言わないから、今度光ちゃんの描いた絵とか作った作品を見てみたいな。……だめ?」


 両手を胸の前で合わせて、ちょっと上目遣いになる美保さん。私より身長が高いくせに、こうして上目遣いなのはわざとやってるからだろう。めちゃくちゃあざといね。でも、そういうあざといの大好きなの。


 作られたかわいさとは、そうあるべしと望まれて生まれたものなのだから、時に天然物を上回るのである。品種改良された果物が原種より美味しいのと一緒だね。女の子はより自分のかわいさを引き出すために、十や二十の猫を被る。……猫の皮の出処?君のような勘のいいガキは嫌いだよ。


 今度遊びに来た時にねと約束して、その時には美保さんに猫耳をつけさせようと心に決める。ついでにリモコンで動くしっぽも用意しよう。ユラユラ揺れるしっぽと、ピコピコ動くネコミミ。あざとい。考えるだけであざとい。


 このやり取りをしているあいだ一人だけほっとかれた可哀想な智洋くんをみて内心ニコニコしながら、そろそろ時間になったから帰るねと将太くんに伝える。私はこれから妹ちゃんとおデートで、勉強の疲れをリフレッシュしてあげないといけないのだ。


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