第4章~血を喰らう者~

第27話 暗雲1

「あれ、アレックスさんとジョンさんが帰って来てる」


「やあ、ルナちゃん久しぶりだね」


 村長の家に着いた私たちを迎えたのは、先んじてウラッドの街に情報収集に向かっていたアレックスさんとジョンさんだった。


「隊長、その方がルナちゃんの師匠ですか?」


「ああ、なんとかの有名な翠の射手、サジ殿だ」


「あの翠の射手ですか?」


「ああ、そうだ」


「ルナちゃんすごい人に師事してたんだね。それに翠の射手の助力を受けられるとなると正に百人力だ」


「ちょっと待った。あたしはまだ協力するとは言ってないよ。まずは話を聞いてから、協力するかどうかはその後に決めさせてもらうよ」


「そうですか、それじゃあ早速話を始めましょう。どうぞ奥の部屋へ」


 そう言ってアレックスさんはサジさんを奥の部屋に案内し、私もそれについて行く。奥の部屋にはロレーヌの他、村長さんと他の護衛隊員であるダグラスさんとロバートさんがテーブルに着席して待っていた。


「おかえりなさいルナ」


「ただいまロレーヌ」


 そう挨拶を交わすと私はテーブルの席に座る。


「これで全員そろったな、それではアレックスたちの報告を聞く前に今回アレックスたちを情報収集に向かわせた経緯から話から始めるとしよう、村長お願いします」


「はい、ことの始まりと言っても噂程度ですが、兎に角、その噂が出始めたのは半年ほど前、領主様が代替わりしたその時から始まりました。その頃にうちの村に定期的に来る行商人からウラッドの街で吸血鬼が出たらしいとの噂を聞いたのです」


 吸血鬼とは……まさにファンタジーまっしぐらな噂だ。


「すみません一つ訊きたいのですが、この世界に吸血鬼なんているのですか?」


「いない、あくまで異世界人からもたらされた物語で語られる空想上の生物だ」


 私の疑問いガルシアさんが答える。


「ええ、だから私も何かの間違いだろうとその時は思っておりました。しかし、その行商人によるとウラッド街の貧民街で、血を搾り取られたように乾いた遺体が何体も発見されたようなのです。そしてここ最近では貧民街だけでなく富裕層の住む区画でも同じように乾いた遺体が発見され、ウラッドの街の住民たちを恐怖に陥れているようなのです」


 確かに乾いた遺体が発見されたとなれば吸血鬼の存在を疑うのは仕方のないことだろうしかし、


「それって本当に吸血鬼の仕業なんでしょうか?」


「それを確かめるためにアレックスたちを情報収集に向かわせたのだ」


 そうガルシアさんは言う。


「それじゃあ私たちの情報収集の結果の話をしましょう。まず噂の真偽から、確かにウラッドの街での吸血鬼騒動は本当にあったことのようです。実際に私たちも吸血鬼に襲われた遺体を見ました。が、これらの殺人を犯した者が吸血鬼であるのかは疑いの余地があります」


「それはまた何故」


「まず一つ、吸血鬼などと言う存在の発見例がないこと、まあこれは当たり前ですね。二つ目に遺体に吸血鬼のモノであると疑われる牙の後がなかったこと、三つめに、その牙の後の代わりと言っては不謹慎かもしれませんが、その遺体には何か鋭利な刃物で傷つけられたような跡が幾つもあったこと。以上の三つ点からこれは吸血鬼の犯行というよりも別の人物による犯行であることが予想されます。


「切り刻まれた死体って、それって吸血鬼って言うよりもジャックザリッパーの仕業なんじゃないですか?」


「それは言えてるね。けど、それじゃあ遺体が乾いていたことを説明できないんだ」


 この世界にもジャックザリッパ―は伝わってるんだ。しかし、カラカラに乾いた遺体か……私が思い至る答えは一つあるな。


「それってもしかしたら喰らう者イーターが関わっているんじゃないですか?」


「確かにね、血を喰らう者ブラッドイーターが実在するのならば、吸血鬼なんてものよりよっぽど信用できる」


「というか、犯人はそいつでほぼ確定だと思うんですけど……」


「あとは誰がその血を喰らう者ブラッドイーターを使う喰らう者使いイーターマスターであるか、という点だね」


「怪しい人の目星とかはついていないのですか?」


「一応はついている。けど……」


「けど?」


 アレックスさんが言い難そうにしている。なんだ?何か言い難い人物なのだろうか。


「先代の領主の娘が、現領主が転生者らしいとの噂がある」


「そんな!!エリザベート様に限ってそんなことありえません!!」


 突然の村長の発言に皆目を丸くする。


「エリザベート様は先代領主から代替わりされる前からこんな小さな村にも気をかけてくださり、最新式の井戸の設置や疫病の対策などを広めてくださったり、カズキの奴めがこの村で悪ガキどもと暴れまわった時にも自警団の必要性をいち早く先代様にかけあってくださるほど、先見の明がある優れた方なのです。そんな方が領民を食い物にするような真似をするはずがありません!!」


 ここに来て姉の名前を出されると中々くるものがあるな。しかし、村長さんはそのエリザベート様とやらが転生者であることを否定していない。


「村長落ち着いてください。わたくしたちはまだウラッド卿が犯人であると断定したけではありません。でしょうアレックス」


「はい、あくまでその可能性がある。と言ったまでです。当然、流れの転生者や転移者の可能性も十分考えられます。お気持ちはわかりますのがどうか落ち着いてください」


「はい……」


 不承不承といった感じで黙る村長、これ以上この話をここでするわけにはいかない。


「あの~」


 私は手を挙げて発言の許可を申し出る。


「なんだいルナちゃん」


「これ以上この話をするのもなんですから、直接ウラッドの街に行ってみるのはどうでしょう」


「姫の安全はどうする」


「それは翠の射手ことサジさんと私で徹底的に守るということで……」


「ちょっルナちゃん、あたしはまだ――」


「お願いしますサジさん、今回だけでいいので力を貸してください!!」


 私はサジさんに拝み倒さんばかりに手を合わせる。すると、サジさんは呆れたように短く息を吐き、


「わかった。貸し一つだよ」


「ありがとうございます。ガルシアさんもこれなら了承してくれますよね」


「ああ、お前や私たちだけでは多少不安があったが、サジ殿が姫の護衛に加わって下さるのならば許可しよう」


 よし、それならば善は急げだ。


「それじゃあ早速明日にでも出発しましょう。ウラッドの街はここからどれくらいの場所にあるのですか?」


「歩いて二日ほどだ」


「了解です。それじゃあサジさん明日からまた、よろしくお願いします」


「うん、お願いね」


 そう言うわけで私たちのウラッドの街行きが決まったのであった。


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