第11話 訓練の日々

 私の訓練が始まって2日目今日の訓練教官は護衛隊の副隊長アレックスさんだ。アレックスさんは20代半ばくらいでで青い色の髪に青色の瞳をイケメンだ。身長は180センチメートル程の細マッチョ体系、いかにも女性受けの良い風貌をしている。私が女の子好きでなけりゃ一目惚れしてたかもね。

 

 さて、なぜ訓練教官がガルシアさんからアレックスさんに代わったのか、これは至極当然の理由がある。隊長であるガルシアさんは、というよりも護衛隊の皆さんは本来ロレーヌの護衛のために存在する。だから本来であれば私の訓練などという雑務にかまっている暇などないのだ。しかし、そこはロレーヌによる強権が発動。私をロレーヌの身辺警護員として育て上げろという命令が下ったことにより、これから毎日護衛隊の皆さんが代りばんこで訓練教官をしてくれることになったのだ。


「正にロレーヌ様様ですね」


「そうだね、だったらもう少し真面目に訓練を受けようか」


「そんな、私さっきから真面目に訓練してますよぅ」


 アレックスさんによる訓練の内容は、ガルシアさんの訓練から引き続き魔法と実戦の訓練。今は魔法の訓練をしている。だが、その訓練内容が中々に私の性格と合わないのだ。


「ただの座禅を3時間とかどんな地獄ですか」


「ルナちゃんの言うザゼンが何か分からないけど、ただ座って目を瞑る訓練じゃないよ。その訓練は魔法を使う上での基礎中の基礎、魔力感知の訓練なのだからね。そうやってリラックスした状態で自身に流れる魔力を感知し、可能であればその流れを操る。そうすればいざという時にほぼ反射に近い形で魔法を行使することができるようになるからねというわけで、今日は実戦の訓練はほどほどにして、その訓練をあと2時間は続けようか」


 ニッコリと笑いながらそう私に告げるアレックスさん。


「うへぇ~マジですか~」


そうして私の身辺警護訓練の二日目が過ぎて行った。


―――身辺警護訓練3日目


 身辺警護訓練の3日目は護衛隊隊員のロバートさんが担当してくれた。ロバートさんはスキンヘッドに2メートルはありそうな身長にガッチリ体系のいかにも兵士といった、厳つい顔をした口数の少ない寡黙な男性だ。


「今日は身体強化の魔法の訓練をする」


「はい!!」


「身体強化の魔法の発動条件はまず全身に魔力を充填させ、あとはイメージをするだけだ」


「はい教官!!」


「なんだ?」


「イメージってどんなイメージをすれば良いのですか?」


「強い自分だ」


「何ですと?」


「だから強い自分だ」


 駄目だ口数が少なすぎて、同イメージいたら良いのかわからない。


「もう少し詳細にお願いできますか?」


 私がそう言うと、ロバートさんは顎に手を当てて考え込む。そしてしばらくすると、再び口を開いた


「フタバ」


「ルナでいいですよ」


「――フタバ」


 うん、ロバートさんはまだ私のことを認めていないようだ。だけどルナちゃんはそんなことじゃへこたれないぞ。


「お前はあそこにある気を殴り倒すことは出来るか?」


 言いながらロバートさんは屋敷の庭木を指差す。何と言う種類かはわからないが立派な幹の木だ。私が何千発殴っても倒れないだろう。


「無理です」


「それを出来るとイメージして発動させるのが身体強化の魔法だ」


 なるほど、実にわかりやすい説明だ。


「それじゃあ身体強化の魔法を発動させてみろ」


「いきなりですか!!」


「そうだ」


 ロバートさんは大真面目に言う。言われた私はロバートさんの言うとおりに魔力を全身に充填させ、あの庭木を倒すイメージをして、そのイメージに魔力を通す。すると、


「うん、発動出来たようだな」


 ロバートさんがそう言う、ホントか?実感があまりに無さすぎる。あるとすれば全身に充填させた魔力の流れをさっきよりもはっきりと感じる程度だ。


「ロバートさん、あまりに魔法を発動させた実感がないのですが、ロバートさんはなぜわかるのですか?」


「見えるように目を強化したからだ」


「なんと!部分強化も出来るのですね」


「そうだ、しかし、実感がないか――」


 再びロバートさんが何かを考え込み、再び庭木を指差し口を開く


「殴ってみろ」


「あの木をですか?」


「ああ」


「わかりました」


 私は言われるがまま庭木の前まで行く、確かに殴り飛ばせるようにイメージしたけど本当に殴らせるもんかね。でも、本当に庭木が倒れることはないだろう。おそらくそれはロバートさんも分かっているはずだ。


「せえっの!!」


 私は思いっきり力を込めて庭木を殴る。するとドゴンという爆音と共に庭木が倒れてしまった。


「あり?」


 予想外の結果に私は驚くとともに庭木を殴るように指示したロバートさんの方を見る。


「……」


 驚愕に声も出ないのかロバートさんは口を開けて唖然としていた。

 なお、この後領主様のお説教を二人とも受けることになった。


―――身辺警護訓練4日目


 身辺警護員訓練4日目の訓練教官は護衛隊隊員のダグラスさんだ、ダグラスさんは緑色の髪を短く刈りあげた髪型に金色の目をしいて、体格はアレックスさんよりも少し筋肉質といった具合で身長も同じくらい

だ。

 

「よろしくお願いします!!」


「おう!よろしくな!!」


 そう爽やかに答えるダグラスさん。この人は人が良さそうだな。


「それで、ダグラスさん今日の訓練は何をするのですか?」


「そうだな、兵隊の基本はスタミナにあるからいっちょ走るとしようか」


 お、ランニングか今日は小難しいこと考えなくて済みそうだ。


「それじゃあルナ、身体強化の魔法をかけるんだ」


「ランニングなのに身体強化の魔法をかけて良いんですか?」


「むしろ身体強化の魔法が必須かな」


 おや、なんか雲行きが怪しいぞ。


「ルナが昨日ロバートに習った身体強化魔法は戦闘において必須技能でね、魔法を使える者は戦闘時に必ず身体強化魔法を使うんだ」


「なるほど、ランニングと並行して身体強化魔法を使わせることで身体強化魔法の効果時間を延ばさせることが狙いなのですね」


「そう、ついでに基礎体力の向上も出来て一石二鳥の素晴らしい訓練法だよ」


「ちなみにこの訓練法はダグラスさんが考えついたんですか?」


「だったら良かったんだけどね。この訓練法は昔から魔法使いに伝わる基礎訓練法だよ。それじゃ始めようか」


「はい!!」


―――1時間後


「あ……あの……ダグラスさん……これ……あと……どのくらい」


 私は息も絶え絶えの状態で走りながらダグラスさんに訊く、因みに身体強化の魔法は開始30分で切れていた。


「どのくらい走り続けるのかって?まだ喋る余裕があるからしばらくは終わらないかな」


 ヤバイ、この人爽やかな雰囲気をかもし出しているけど訓練の鬼だ。嬉々としてきつい訓練をさせている。だけどこの人の体力もどうなってんだ。私と一緒に走っているはずなのに汗ひとつかいていない。

 結局この日の訓練は私がぶっ倒れるまで続き、ぶっ倒れた後はダグラスさんの回復魔法で回復させられ再び身体強化魔法を使って走らせるの繰り返しを夕方になるまで延々と続けられた。


―――身辺警護訓練5日目


 身辺警護訓練の5日目の訓練教官は護衛隊の中でも一番若い19歳のジョンさんだ。ジョンさんは金髪に碧眼の若干幼さの残る顔立ちをした男性で、体格は筋肉質だが未だ発展途上といった印象をうける容姿をしていた。


「ルナ・フタバ僕はまだお前のことを疑っている」


 開口一番ジョンさんは私に向かってそう言った。


「だが、隊長たちはお前のことを信用しているし、僕一人だけお前の訓練を断るわけにもいかない非常に悩ましいことだ」


「はあ」


 ジョンさんが私のことを未だに疑っていることはわかった。それで私の訓練も渋々行うと……


「それでジョンさんは私に何を教えてくれるのですか」


「それを今考えているんだ。なにせ昨日までは姫の護衛で忙しかったからね」


「そうですか」


 嫌がらせのつもりなのだろうか、ジョンさんは顎に手を当てて長いこと考え事をしている。ならば、


「模擬戦なんてどうでしょう」


こちらから提案するのみだ。

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