二度目の追放

「イリスさんよ。お前を追放する」


「どうしてだい!?」




 学園からの追放を受けて二週間後。


 ここは学園がある王都からは大分離れた場所にある、アルイース。


 そこにある冒険者ギルドの一角で、イリスは声を張り上げて抗議をしていた。


 彼女の目の前にいるのは、先日から一緒に同行している冒険者パーティのリーダーである、『ロレンソ』という男だった。


 重厚な鎧で身を固めた、小柄なイリスでは見上げるほどの大きさの男で、体格もよく、縦も横も非常にでかい。


 そんな体格に見合った豪快な男であり、先日はイリスを快くパーティに受け入れてくれた男でもあるのだが。




「だって君達のパーティは魔法使いが不足しているのだろう? で、あればボクほどの適任はいないはずだ」


「いやぁ、まぁそうなんだが」




 ロレンソはバツが悪そうに、自身の短く切られた黒髪に手を当てる。




「しかしなぁ、ほら。俺としてももうちょっと様子を見てもいいとは思ってたんだぞ? ただなぁ、他の奴等の反応が」




 ちらりと、ロレンソが後ろを見る。


 冒険者ギルドはその名の通り、多くの冒険者達が集まりパーティを組んだり、依頼を受けたりする場所だ。


 彼等のちょっとした憩いの場として食堂も設けられているのだが、そこからの視線がイリスに突き刺さる。




「周りの連中がすぐにでも出て行かせろってうるさくてな……」


「どうしてだ? 控えめに言ってもボクほどの魔法使いを仲間にできる機会は多くはないだろうに」


「……そりゃ、だってよぉ」




 よく日に焼けた肌をした巨漢は、言いにくそうに、しかしリーダーとしての義務を果たすべく続きを口にする。




「お前さん、全然役に立ってくれねえじゃねえか」


「なぁ……!」


「俺達が戦ってるのをそっちのけで薬草採取したり、魔物を見るのが珍しいのかは知らないけど観察したがったり、果てはうちの魔法使いを泣かせただろ?」


「……うぬ……。いや、うん。その、前者に関してはボクがちょっとだけ悪かったかも知れない。でも最後のはボクだけの責任じゃないだろう? 同業者がどんな魔法を使うのかを知りたかっただけだ」


「だからってあんなに質問攻めにすることはないだろうよ。学園に行かずに独学で学んでる魔法使いだっているんだからよ」




 ロレンソのパーティには一人だけ魔法使いがいる。年齢も近いし同じ女の子、これは是非仲良くなりたいとイリスから色々と話しかけたのだが……。


 共通の話題である魔法についてあれこれと質問攻めをしているうちに、どうやら彼女が触れられたくないことを色々と聞いてしまったらしい。




「初めて友達ができると思ったのに」




 イリスのあまりにも残念な呟きを、ロレンソは聞かない振りをしてくれたようだった。




「そういうわけだな。申し訳ないが、他の連中からの非難が凄いんだ。だから、うん。追放だ」




 きっぱりと、ロレンソが告げる。


 イリスにとってそれは、学園から追放されるよりも遥かに大きな衝撃だった。




「そ、それは困る! ボクは今殆ど一文無しなんだぞ! 冒険者になって金を稼げるようにならないと……!」




 イリスは冒険者ギルドに出入りしているが、厳密にはまだ冒険者ではない。


 ギルドでの登録を済ませると、まずは見習いとして数えられる。そこである程度経験を積んだ先輩と一緒に活動し、働きが認められれば晴れて冒険者になって自分から仕事を受けることができるという制度だ。


 つまりはここで追放されると、イリスは冒険者にはなれない。




「俺達以外の奴等と頼む」


「……君達以外にはもう断られたんだ!」




 魔法学園を追放された、子供にも見える体格の偉そうな魔法使い。


 そんなイリスが冒険者達に受け入れられるわけもなかった。途方に暮れていたところを拾ってくれたのが、ロレンソだったのだ。




「ぬぬぬ……! だが諦めるわけにはいかない! ボクには目的があるんだ、それを果たすまでには何があっても」


「申し訳ねえが、そりゃ個人でやってくれや」




 どうやら面倒見のいいロレンソもそろそろ嫌になってきたらしい。明らかに態度が雑になってきている。




「くぅ……まさか二週間で二度も追放されるとは……ボクの何処に原因があると言うのだ……?」


「……多分性格じゃねえかな」




 去り際にぼそりとそう言ってくれたのは、恐らくロレンソの最後の親切心だったのだろう。


 もっともそれがイリスに伝わったかどうかはまた別の話ではあるが。

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