第11話 ぶち殺すぞ

「……なにが悲しくて放課後にお前らと公園で企画会議をしなくちゃいけないんだ」


 近所のマックから徒歩三分、良い子のみんなはお家に帰った後の無人の公園で、啓二は一人冷たいベンチに腰かけていた。


「だって〇ック混んでたし。食べ終わったら帰らないと迷惑でしょ?」

「肝心のキャストサービスの話だって一ミリもしてねぇし」

「私が当てたハルン(宇宙船版)交換してあげたでしょ! もうちょっと付き合いなさいよ!」


 ギーコギーコとブランコを軋ませながら雛子は言う。


 テトラはジャングルジムの天辺で胡坐をかき。


 海璃はバネ付き木馬の遊具でビヨンビヨンとバカみたいな前後運動をしている。


「だったらお前らも当たり前みたいな顔して遊具で遊んでるんじゃない! それと、俺だってハルン(人型インターフェイス版)交換してやっただろ!」

「だって~。〇ックでオタ語りしたらテンション上がっちゃったんだも~ん」

「公園とか小学校ぶりだしよ。誰もいなけりゃ遊びたくもなるだろ」

「あんたと違って私達は目立ちまくりのS級美少女なのよ? こんな機会でもなかったら恥ずかしくって遊具でなんて遊べないじゃない!」


(それなら俺だって不審者扱いされるから遊具で遊ぶ機会なんかないが?)


 張り合った所で虚しいだけなので言わないが。


「だったらせめてもうちょっと恥じらいを持てよ! お前らはスカートなんだぞ!」


 見たくもなければ興味もないが、先程からパンはパンでも食べられないパンが視界の端にチラついている。


「うるせぇな。別にいいだろ! お前以外誰もいねぇし。お前だってオレ達なんかモブ同然で興味ねぇって言ってたじゃねぇか」

「ね~! それとも間君もやっぱり男の子で、女の子のおパンチラは気になっちゃうのぉ? キャー! 間さんのえっち~!」

「最低ね! 美少女なんか興味ありませんみたいな顔して、私達を油断させてラッキースケベを引き出す作戦だったんでしょう! この変態策士! エロ孔明!」


 ジャングルジムの頂上で気持ちよさそうに風を感じつつ、面倒くさそうにテトラが言う。


 雛子は言葉通りハイになっている様子で、ニヤニヤしながら〇ずかちゃんのマネ。


 海璃もテンションがおかしくなっているようで、地面すれすれをびょんびょんしながら訳の分からない罵倒を繰り出してくる。


 カスの3連撃に啓二のこめかみにビキリと青筋が浮かんだ。


「ファックユー。ぶち殺すぞ」


 マジギレの気配に三人がざわざわ……する。


「そんな怒ることないだろ……」

「ちょっとふざけただけなのに……」

「ぶち殺すぞは言い過ぎでしょ……」


 テンション駄々下がりでしょんぼりし、遊具から降りて啓二の周囲に集まる三人。


「うるせぇ。何度も言うが俺がとっとと帰って積んでるゲームをやりたいんだ。キャストサービスについて助言が欲しいならさっさとしろ」

「あ。そこはちゃんと相談に乗ってくれるんだ」


 ジロリと睨まれ、雛子が余計な事は言いませんと口元で人差し指を交差させる。


 ここでケリをつけなければ明日も絡まれるのは確定的に明らかだ。


 啓二はげっそり溜息を吐き。


「前も言ったが、キャストサービスなんか適当でいいんだよ。色々試してみて上手く行ったのを取り入れればいい」

「そうだけどさぁ~」

「その色々が思いつかねぇんだよ!」


 コクコクと海璃も頷く。


「なら他の連中のをパクれよ。人生相談とか、マッサージとか、アニメ同時視聴とか」

「でも、そんな事したら先輩達に嫌われない?」

「ドグマさんが人生相談やってるのに同じ事やったら喧嘩売ってるみたいだろ」

「そうよそうよ! それに、どうせやるんならオリジナリティーのある奴がいいわ!」

「なにがオリジナリティーだバカバカしい。そういうのを考えるのは店でのキャラ付けが定まってからでいいんだよ! お前らはそれ以前の問題だ! 最近オタクに目覚めたばっかの素人未満。素人を超えたド素人だ。大体店の連中だって気分で他の連中と同じようなメニュー入れる事あるし。そんなんで一々怒る程ケチじゃねぇよ」

「そうなんだ?」

「だったらいいけど……」

「でも、折角かっこいい設定があるんだし、それを活かしたサービスをしたいじゃない……」


 ホッとしたように雛子とテトラ。


 海璃は不満げに口を尖らせている。


「なら生かせばいいだろ。大体、オリジナリティーなんてのは黙ってもも勝手に滲み出て来るもんなんだよ。例えば人生相談だ。最近妙な女共に絡まれて困ってます。お前らならどう答える?」

「モテ期だと思って受け入れよう!」

「勘違いだ。調子に乗んな」

「絶対何か裏があるわよ! 慎重に相手の意図を探りつつ、もしもの場合に備えて反撃の材料を集めるべきね!」


 得意気に答えてから数秒後、不意に三人はハッとした。


「「「今のってあたし(私)(オレ)達の事!?」」」

「ただの例えだ。ともかく、他の奴と同じ事をやったって同じようにはならねぇんだよ。あとはメニューの名前を天使の人生相談みたいな感じに工夫してやればそれっぽくなる。それより大事なのはお前らのやる気と適性だ。やりたい事と客にウケる事は違うからな。そこのバランスを見極めて続けられそうなネタを選べばいい。だからとにかくやってみろ。そうすりゃその内どうにかなる」


 啓二の助言に三人は神妙な表情で黙り込んだ。


「……なんだよ。まだ納得いかないのか?」

「……そういうわけじゃないんだけど」

「普通に良い事言うからビビったっていうか……」

「感心なんかしてないんだからね!」

「あまり俺を舐めるなよ?」


 頼っておいてなんだこいつらは? と思うが。


 ともあれこちらの意図は通じたらしい。


「とにかく、わかったらもう一度自分の頭で考えてみろ。俺が考えてやるのは簡単だが、それじゃお前らの為にならないしなにより俺が面倒くさい。俺から言えることは以上だ。解散。終わり。閉店ガラガラ」


 ガシャンとシャッターを閉めるジェスチャー。


「なんか上手い事誤魔化されたような気がしないでもねぇけど……」

「間君と話したらなんとかなりそうな気がしてきちゃった!」

「っていうか、こいつに出来るんだから私達に出来ない理由はないのよ! 私達にはS級美少女と呼ばれるだけの圧倒的美貌があるんだし! あっと言う間に人気になってナンバーワンの座を奪ってやるんだから!」

「別にナンバーワンの肩書なんか興味はないが、やれるもんならやってみろとは言っておく。お前らみたいなにわかオタクがいきなりトップを取れる程温い世界じゃないんでな」

「それいいね! 目標が出来たら俄然やる気出て来ちゃった!」

「あぁ。こう見えてオレは負けず嫌いな性格だ。てめぇを蹴落として吠え面かかせるのが今から楽しみだぜ!」

「そうと決まれば早く帰って明日のバイトに備えないと!」


 というわけで、その日はそれで解散した。


「やれやれ……。やっと解放されたか……」


 気付けばすっかり日が暮れて、暗い夜道を一人で歩く。


 と、そこで不意に啓二は気づいた。


「……喉いてぇ。喋りすぎたな……」


 バイト以外でこんなに誰かと話すのは初めてだ。


 だからどうしたという事はないが。


 神の視点から物を申せば。


 家路を急ぐ啓二の足取りはそこはかとなく軽やかだった……かもしれない。

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