【悲報】俺のせいでクラスのS級美少女共がオタクになっちまった件

斜偲泳(ななしの えい)

第1話 S級美少女共とキモいオタク

 昼休み。


 間啓二はざま けいじは教室で堂々とラノベを読んでいた。


 クラスメイトが「なにあれ」「うぷぷ」とバカにするような視線を向けて来るが気にしない。


 俺はオタクだ。文句あるか!


 それが啓二のスタンスである。


 そんなんだから友達もいない。


 恋人なんか論外だ。


 でも気にしない。


 オタクというのは忙しい。


 やりたいゲーム、読みたい漫画やラノベ、見たいアニメ、追うべき配信なんかが山ほどある。


 こうしている間にも時は過ぎ、新たなコンテンツが増えていく。


 一秒だって無駄には出来ない。


 友達なんか作ったらオタ活の時間が減る。


 恋人なんてもってのほかだ。


 寂しくないのか?


 いいやまさか。


 脳内には理想の嫁がちゃんといる。


 リアルと違って浮気はしないし死ぬまで一生そばにいてくれる。


 オタクとは一人で完結するパーフェクトな存在なのだ。


 ……が。


 そんな啓二を憐れむ視線がここに一つ。


 一年生ながらこの学校の非公式美少女格付けで規格外のS級認定を受けた鳳雛子おおとり ひなこである。


【天使】の二つ名が示す通り、慈悲深く優しい女の子だ。


 顔立ちもそんな感じで、ふわっとした栗毛とおっとりしたタレ目がチャームポイント。


 下ネタなんかわかりませ~ん! みたいな雰囲気だが、肉付きは良く胸は巨大だ。


 大抵の男子は彼女を前にエロい目をしないよう苦労している。


 魅惑のブラックホールボディである。


「……間君。いっつも一人で読書してるけど。寂しくないのかなぁ」

「どーでもよくね?」

「興味なしね」


 冷たく言い放ったのは同じくS級認定を受けた二人の美少女である。


「どーでもよくね?」は宍戸ししどテトラ。


 二つ名は【野獣】。


 ワイルド系と黒ギャルの二属性持ちだ。


 モデル顔負けの小顔&高身長で健康的に焼けた肌、藪睨みの目と金髪ショートといったビジュアルである。口調の粗さからも分かる通り男っぽい性格だが胸は巨大だ。

 制服を着崩したりスカートを詰めまくっているので大抵の男子は彼女を前にエロい目をしないよう苦労している。


 魅惑のブラックホールボディである。


「興味なしね」は辰巳海璃たつみ かいり


【氷の女王】の二つ名通りクール系美少女である。


 透けるような白い肌に華奢な身体、長い黒髪とこの世の全てを軽蔑するような冷たい目がチャームポイントだ。


 大物女優並みのオーラを持つ超綺麗系で他の二人と同じく頻繁に告白されているが全てバッサリ断っている。


 彼女の場合、冷たい目で罵倒されたいという理由でリベンジする者が少なくない。


 まぁ、そういうタイプの子である。


 ちなみに胸は無いに等しい。


 マジでビックリするくらいない。


 それなのにS級美少女に選ばれるのだから恐れ入る。


 いや、小さくても胸は胸だ。


 逆にそっちの方がいい系男子は彼女を前にエロい目をしないよう苦労しているし、そうでない男子も「え? こんなにないの!?」みたいな顔をしないよう苦労している。


 ある意味これも魅惑のブラックホールボディである。


 以上説明終了。


 本編に戻る。


「入学してから暫く経つけど誰かと喋ってる所見た事ないし……。むしろみんなに避けられてるような気がするし……」

「気のせいじゃねぇ。避けられてんだよ」

「暇さえあれば漫画か漫画小説か携帯でアニメ見てるのよ。シンプルキモいわ」

「そうだけど……。一応同じクラスの仲間だし。あたし、ちょっと声かけてみる」

「おい雛子! やめとけって! って、行っちまったよ……」

「言っても無駄よ。ああ見えて頑固なんだから」

「そうだけどよ……」

「なにかあったら助けてあげればいい。丁度退屈してたところだし。暇つぶしくらいにはなるでしょう」

「それもそうか」


 この判断が彼女達の今後を左右する事になるとは……。


 この時の三人が知る由もない。


 ポテポテと啓二の所にやってくると、雛子はスーハー大きな胸いっぱいに深呼吸。


「……えーと、間君?」


 雛子の呼びかけに、ジロリと啓二の視線が上を向く。


(ひぇぇ……)


 死んだ魚がまだ可愛く見えるような目に雛子は内心悲鳴を上げた。


 だめだめ!


 人を見た目で判断したらいけないんだから!


 雛子は必死に笑顔を作った。


「……なんか用か」


 とっとと失せろ。


 これが小説だったらそんなルビが振られてそうな声だった。


「用はないけど……。なに読んでるのかなぁ~って……」

「ラノベだよ。見りゃ分かるだろ」

「らのべ?」


 キョトンとする雛子を見て、啓二は面倒くさそうに舌打ちを鳴らす。


「ライトノベルの略だ」

「ライトノベル……。明るい小説?」

「そっちじゃねぇ。軽い方のライトだ」

「そ、そうなんだ……」


 そう言われても雛子にはよくわからない。


 エッチな格好をした女の子が沢山描かれた表紙である事以外は普通の文庫本に見える。


「お前らの言う所の漫画小説の事だ」

「なるほど……」


 その頃には啓二の視線はラノベに戻っていた。


(……き、気まずい)


 他の男子が相手なら黙っていても勝手にベラベラ喋ってくれるのに……。


 だめだめ! ここで怯んだら負けだよ!


 スーハ―スーハー巨大な胸いっぱいに深呼吸。


 その動きを目で追うモブ男子達には気づかずに。


「……ぁ、ぁのぅ」

「なんだよ。こっちは読書中だ。用がないなら話しかけんな」

「ピェッ!? ご、ごめんなさいっ!」


 思わず謝る雛子を見て、ガタンとテトラが腰を浮かせる。


「あの野郎! さっきからなんだよあの態度!」

「キモい上に失礼とか最低ね。テトラ。分からせてやりなさい」

「言われなくても!」

「二人とも!? 落ち着いて!?」


 いきり立つ友人にワタワタと手を振る。


 雛子はありったけの勇気を振り絞って笑顔を作ると。


「そ、そのぅ……。間君っていつも一人で読書してるから。ライトノベル? そんなに面白のかな~……って」


 ひくひくと、笑顔の端が引き攣った。


 啓二は溜息を吐き、パタンと本を閉じる。


(あぁ! あたしってば、なんてバカな事聞いちゃったんだろう!?)


 そんなもの、面白いから読んでいるに決まっている。


 嫌味の一つでも飛んでくるのだろうと覚悟していたら。


「そんなに気になるんなら読んでみるか」


 どう控え目に解釈しても好意的には見えない目で、啓二がラノベを差し出してきた。


「え、ぁ、その……」


 雛子は困った。


 ラノベなんか読んだ事ないし興味もない。


 むしろ、一人でそんなの読んでないでもっと他の子と話したりして欲しい。


(……でも、ここで断ったら逆効果だよね……)


 勘違いとは言え、ようやく啓二が友好的な態度を示してくれたのだ。


 こんなチャンス二度とないだろうし、二度とやりたくない。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずという故事もある。


 とりあえず読んでみて仲良くなれば彼がクラスに溶け込むきっかけを作る事が出来るかもしれない。


「やめとけって!」

「オタクが伝染るわよ」


 友人の止める声も聞こえるが。


「わ、わぁーい! ヤッタァー! 前から凄く気になってタンダー!」


 精一杯の演技力で喜んだ。


「でもいいの? この本、読んでる途中だったんじゃ……」

「予備がある」


 鞄に手を突っ込むと、当然のように同じ本を取り出した。


「……予備、デスカ」


 なんだか凄くゾッとした。


「布教用って奴だ。まぁ、どっちでもいいんだが」


 そう言って、パラパラとページを探す。


「布教用……」


 布教とは、あの布教だろうか。


「……質問なんだけど。それっていつも持ってるの?」

「あぁ。使ったのは初めてだがな」

「……いつも違う本読んでる気がするんだけど。いつも二冊買ってるの?」

「いいや」

「ですよねー」


 ホッとしたのも束の間。


「保存用も含めて三冊買ってる」

「意味が分からないよ!?」


 思わず叫んだ。


 こんな風に大声を出すなんて初めてかもしれない。


「別に分かって貰おうだなんて思っちゃいない。もういいだろ。用が済んだらあっちに行け」


 シッシと追い払われ、雛子は二人の元に舞い戻った。


「……なんか、凄い子だった」


 夢でも見ている気分である。


「ムカつく奴だぜ。雛子が止めなきゃぶっ飛ばしてた」

「クソ野郎よ。これだからオタクは」


 テトラが中指を立て、海璃が長い舌を出す。


 啓二はラノベに夢中で気付きもしない。


「ケッ! で、その本どうすんだよ」

「う~ん。借りちゃったし、一応読むけど……」

「やめときなさいよ。見るからにいかがわしい表紙じゃない。どうせろくでもない内容よ」

「そう思うけど、折角貸してくれたんだし。これをきっかけに間君と仲良くなれるかもしれないでしょ?」

「そんでクラスの間を取り持ってめでたしめでたしってか? 流石は天使様。お優しいこって」

「本当、雛子のお人好しには呆れるわね」

「だって、気になるんだもん!」

「まぁ好きにしろ。俺は止めたからな」

「明日になったら雛子もオタクになってたりしてね」

「そりゃ笑える。まるでゾンビ映画だ」

「もう! 茶化さないでよぉ!」

「「あはははは」」


 

 †



 チュンチュンと、小鳥の囀る翌朝の事。


 夢中でラノベを読み終えると、雛子は泣きそうな顔で本を閉じた。


「……どうしよう。この本、メチャクチャ面白いよぉおお!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る