大学に行ったらほとんどの女の子が浮気するらしいよ、私はしないけどね

朱之ユク

第1話大学に行ったらほとんどの女の子は浮気するらしいよ

「ねえ、光。この世で最も大切な恋愛の真実を教えてあげようか?」


 高校といえば青春。青春といえば恋愛。恋愛といえば高橋梨沙。この方程式が完成していると言っても過言ではないほど高橋梨沙という女の子は恋愛に精通している。

 学校ではなんと恋愛マスターなんて言われているらしい。

 高校生にもなってそんな二つ名をつけられるなんて恥ずかしいことじゃないか。

 そんな女の子が僕に向かって何やら話しかけてきている。

 ここで取れる選択肢は三つ。


一つ。話を聞いてあげること


二つ。無視すること


三つ。適当に相槌を打つことだ


しかしながらこの梨沙という女の子は他人の感情の機微に大変厳しい人間であったため無視したら粘着され、適当に相槌を打つと僕が話しかけても適当に相槌を打ち返されることになってしまう。


 何が言いたいのかというと僕に選択肢は最初から話を聞いてあげることしかなかったというものだ。


「へえ、僕の知的好奇心が満たされるか試してみたいね。ぜひ話を聞かせてくれ」

「任せたまえ。私、いや僕だけが知っている恋愛の真実。それは」

「それは?」


 目の前の高橋梨沙は頬を赤く染めながら僕の視線をとらえた。

 そして大きく息を吐いて、唾の飲み込む。

 ゴクリ。

 わざとらしく僕の興味を惹こうと可愛らしく頬を膨らませた。


「大事なことだから2回言うよ」


 そんなことはどうでも良い。

 気になるからさっさと言ってくれ。


「大体の女の子は大学に行ったら浮気をするんだよ」


 いや、そんなドヤ顔で言われても反応に困ることだ。


「私は大学に行かないけどね」

「そこまで引っ張っておいてそんなことかよ」

「何その反応! 意外な真実でしょ! 私じゃないと知り得ない事実じゃないのよ!」


 いや別にそこまで行って目新しいことでもないだろう。

 大学で一人暮らし。

 彼氏とは遠距離生活。

 こうなったら浮気をしやすい環境は整っているわけだ。

 故に。


「そこまで目新しいことでもなんでもない。全員が全員浮気するかはわからないけど、別にみんな陰ながら理解していることだろう?」

「マジで!!!」


 常識とモラルとほんのちょっとの知的好奇心。

 この三つさえあればいずれ辿り着く真実だ。

 それに梨沙は勘違いしていることが一つある。


「別に女の子は大学に行かなくても浮気するぞ」

「いや、流石に高校生の時には浮気まではしないでしょ」


 バカが。

 じゃあ、カラオケで他校の先輩と浮気していた僕の元カノはどう説明すれば良いんだ。

 梨沙のやつ今更そんなことを思い出したのだろう。

 あっ、と呟いて申し訳なさそうにこちらをみた。


「惨めだね」


 笑うな。

 せめて慰めろ。

 非常に信じ難いことに大学生になるまでもなく寝取られを体験している僕にはその理論は通じない。


「大体、恋愛マスターなんていうのは自分を客観視できていない人間の言うものだ」

「そう言うあなたは客観視できているの?」

「当たり前だ」

「じゃあ、今の自分を客観的にみてみなさいよ」


 優しくて、誠実で、彼女を寝取られた。


「つまり惨めな男だ」

「すごい、客観視できるんだ」


 くそ。

 バカにしやがって。


「自分で言ったことも守れない女にバカにされたくないね」

「確かに私だけしか知らない事実ではなかったけどそんなことまで言わないで良いでしょ」

「そっちじゃない」

「?」

「大事なことは2回言うんじゃなかったのか?」

「ああ、そう言うこと」


 何かに納得した形で梨沙は「じゃあ、大事なことだから2回言うよ」と再度言う。

 ならば僕も受けて立とうではないか。

 宣戦布告を受けて普通でいられるほど弱くはないんだ。


「私は大学に行かないけどね」


 そっち?

 それってそこまで大切な情報なの?


「大切だよ」

「?」

「私は君の元カノと違って浮気しないからね」

「ふーん」

「私は君の元カノと違って浮気しないからね」

「2回も言わないで良い」

「大事なことだから2回言ったのよ」


確かに大事なことだ。


「大学に行かないのはあんまり良い選択肢とは言えないと思うぞ」


 この学校は新学校だ。それなのにわざわざ大学に行かないという選択肢を取る理由がわからない。

 なぜならば共通テストのためにたくさんの対策授業をしてくれるし、難関大学講座というものを解説してくれる。自習室には大量の赤本を保存しているし、わざわざ行かないという選択を取る理由がないと思うのだが、何か理由でもあるのだろうか。


「お金でもないのか?」


 それなのば奨学金を取れば全てが解決すると思うのだけれど、もしかして成績が足りないのだろうか?


「は?」


 おい、そんな呆れたような目で見るもんじゃない。

 人がわざわざ大学に行ったほうがいいとアドバイスを送っているというのにどうしてそれが聞けないんだ。


「本当に鈍感よね? そんなんじゃ一生女の子とエッチできないわよ?」

「別にそれでも困らないし」


 嘘だ。

 本当は誰でもいいからしてみたい。もしかしたら目の前の梨沙も頼み込めば一発やらせてくれるかもしれないかもしれない。

 土下座したらイケるかもな。

 いやいやいや。

 僕は一体どうしてこんな不埒なことを考えているんだ。目の前の恋愛マスターともなると流石に男に対するガードは硬いだろう。

 僕なんかがアプローチしても無駄なはずだ。諦めろ。


「話は変わっちゃうけど、なんか暑いね。汗かいてきちゃった」


 そう言って梨沙は制服を解放してパタパタさせる。

 なんてエッチだ。下着とかが僕に完全に見えているけど、そんなことは気にしないのだろうか。

 それにどうしてか梨沙の方からムワッとした熱気が溢れてくる。本当にエッチだ。


「なんか疲れちゃったね。どこかで休憩していく?」

「別に何もしてないでしょ?」

「なんか疲れちゃったね。どこかで休憩していく?」


 なんで2回言ったの?

 そう思っている僕の気持ちを理解したのだろう。梨沙は舌打ちをしながら僕のスネを蹴ろうとしてくる。


「なんか疲れちゃったね、ホテルで休憩していく?」

「だから別に疲れることをしてないでしょ?」

「なんか疲れちゃったね。ホテルで休憩していく?」


 だからなんで同じこと2回も言うんよ?

 意味がわからないんだよ。


「意味くらい分かりなさいよ。あなたのことを誘っているからに決まっているでしょ?」

「は?」

「意味くらい分かりなさいよ。あなたのことを誘っているからに決まっているからでしょう?」

「じゃあ、ホテルで休憩しよっか」

「え?」

「じゃあ、ホテルで休憩しようか」


 まあ、その後はどうなったかは言う必要がないと思う。

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