持っているなら何かあるはず

日浦 杏

第1話 まくら

 昔、オーストラリアに留学したとき、ホームステイをした。滞在先に着いて、ベッドルームに入って、まず目についたのはおびただしい数のまくらだった。


 と言っても、3つだが。それでも、3つは多い。頭が3つあるわけでもなかろうに、

どうして3つもまくらがあるのか。海外の映画では大体、まくらのまくらの様なものがある。まくらの後ろに置いてあるまくらだ。あれは誰のためのまくらなのか。


 私は、大量のまくらに困り、使わないまくらを床に置いた。当時、私はまくらを使わずに寝ていたので、3つのまくらを床に置いた。


 翌日、ホストマザーはまくらをベッドに戻した。そして、夜になると、私が床に下ろした。ここから、長い攻防戦が始まる。と言っても、向こうはそれを戦いだとは思ってないだろうし、あるべきものをあるべき場所に置いているだけなのだが。


 そんなことを繰り返したある日、ホストマザーが尋ねてきた。どうして、床にまくらを置くの?私はこう答えた。床で寝るから。

 私は、酷い虚言癖を持つ。どうしても嘘をついてしまうのだ。虚言癖の厄介なところは、何の役に立たなくても嘘をついてしまうところだ。予想通り、ホストマザーは、こいつは頭がおかしいのではないかと言う顔をした。そして私はこう言った。

日本人は床で寝るよ。だって布団だから。でも、床では寝ないけどね。布団があるから。そしてそのまましゃべり続けた。すると、こう言われた。あなたの英語は上手いね。


 もう、話しても埒が明かないと思ったんだろうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る