ゲーム序盤で経験値の肥やしにされるだけの悪役モブキャラに転生した俺。このままだと冒険者たちの餌になるだけなので、ドレインタッチで逆に吸い取ってやることにしました!(笑
坂咲式音
第1話
『グラン・エクスクエスト』という名のMMORPGがある。
よくある西洋風異世界ファンタジーが舞台の、剣と魔法ものの人気ゲームだ。
このゲームは日本で初めて本格的にサービス開始されたオンラインゲームとして一世を風靡した。
プレイヤーは冒険者としてこの世界に降臨し、色んな遊びができるというのが売りだった。
今でこそ当たり前のように存在している生産職と戦闘職の区分けだが、当時は本当に斬新で、まるで本物の異世界で現実とは違ったもう一人の自分として人生を楽しんでいるかのような、そんな錯覚すら味あわせてくれた。
だから、連日連夜、大勢のプレイヤーで賑わっていた。
かくいう俺もその一人だった。
俺は生産職の一つである鑑定士としてゲームを始め、鑑定スキルを持っていないプレイヤーが所持する未鑑定品を鑑定し、その見返りとして、プレイヤーたちが勝手につけた適正相場に従って鑑定料をもらって毎日楽しく商売していた。
また、このゲームにはテイムシステムがあり、本職のビーストテイマーでなくとも、ある程度の強さのモンスターだったら誰でもテイムすることが可能だった。
だから俺は副業として、テイムしたモンスターもうっぱらって金稼ぎしていた。
とまぁそんなわけで、ここまでの説明でわかる通り、このゲームは本当に『異世界で生活しているような感覚を味あわせてくれる』素晴らしいゲームだったのである。
しかも、オフゲーによくあるメインシナリオなんかもあって、大量のクエストまで用意されていた。
そんなクエストの一つに、最序盤で発生する居酒屋乱痴気クエストがあった。
いわゆる、酒場にいる頭にびっくりマークのついたNPCに話しかけると、イベントが発生するタイプのゲリラ型クエスト。
冒険者ギルドで請け負うクエストとかもあるけど、今言っているのはそれとは別。
なので、隠しクエストや連続クエストなどもあるわけだが、この最序盤乱痴気クエストは ほとんどもうチュートリアルなのでは? と思えるほどの定番クエストだった。
誰もが必ず請け負って、それを通じてクエストの流れを掴むっていうアレ。
クエスト内容も至って単純明快。
クエストを受けると、適当に会話イベントが発生し、酒に酔った荒くれ者が登場。
このクエストNPCにありもしない難癖つけ絡んでいって、それを止めようとしたプレイヤーが逆に絡まれて戦闘勃発。
そのままプレイヤーに敢えなく倒され、呆気なく御用となる。
そんなどうしようもない悪役モブキャラが出てくるクエストだった。
ただこのキャラ、運営の嫌がらせなのか、はたまたこういうシステムもあるよと教えようとしていたのかわからないが、プレイヤーの経験値を吸い取るというとんでもないクソスキルを持っていたのである。
その名もドレインタッチ。
このスキルを使われてしまうと、一定確率でプレイヤーの経験値が少し奪われるという、本当に傍迷惑な技だった。
当然、そんなもん、最序盤だろうと許容できるはずもなく、運営に対して大ブーイングが巻き起こったのだが、結局のところ、仕様が変更されることはなかった。
で、だ。
それはまだ百歩譲っていいとしてだ。
問題なのは、なぜかそんなクソ雑魚嫌がらせスキルを持った悪役モブキャラに、俺が転生してしまったということだった……。
◇◆◇
「やばいやばいやばいやばい……!」
俺はギルド兼酒場の一角に設置されていたテーブル席に一人座り、冷や汗かきながら念仏を唱えていた。
バッコロリー・ジョニー・ギアス。
それが俺の名前だった。
『グラン・エクスクエスト』というMMORPGの最序盤でプレイヤーキャラに倒されて経験値の糧にされるだけの残念モブキャラ。
それが俺だ。
ゲーム内では年齢設定とかそういったものはまったくなかったから、俺が何歳なのかはわからない。
見た目だけで言えば、二十代半ばの髭を生やした細マッチョといったところか。
ファンタジー世界なのに、髪型がなぜかピンクと青と緑のモヒカン。
プレイヤーに絡みに行って返り討ちにされるときに浮かべている表情が、これまたファンキー。
舌出して、目玉が泳いでいて、ゲラゲラ笑っている。
どこかの世紀末な世界みたいで、本当にしょうもない雑魚キャラだった。
なんでそんなもんに俺が転生してしまったのかはわからない。
前世、自分が何歳だったのか、最後に何をしていたのかはあまりよく覚えていない。
ただ、ゲーム好きで陽キャじゃない男の子だったということだけは覚えている。
そんなどこにでもいる普通の男の子だったのに、なぜか、気がついたときには既にこの酒場にいた、というわけである。
――そう。
つまりは、ついさっき、前世の記憶を取り戻したばかりという最悪な状態だった。
俺は最初、自分の置かれた状況がまったく理解できず酷く混乱したが、それでも、周囲の光景を目にして、あれっと思った。
見覚えのある酒場の風景。
俺はそれを理解し、すぐにここがあのゲーム世界だということを理屈抜きに理解していた。
初めて遊んだMMOがあのゲームで、かなりやり込んで思い入れがあったから、このギルド内の雰囲気を見てすぐにピンときたのだ。
あぁ、あのゲームだ!
あのゲームの中に転生したんだ!
って。
だけど、そんな喜びもすぐに失望へと変わった。
なぜなら、目の前に置かれていたグラスに自分の顔が薄らと浮かび上がっていたからだ。
忘れもしないあのクソ雑魚モブキャラ。
それが自分だとわかった瞬間、俺は絶望し、現在に至るというわけだ。
◇◆◇
俺は脂汗を流しながら周囲を見渡した。
この世界がゲーム通りに進むんであれば、本来プレイヤーキャラであるその辺の冒険者がきっとクエストのフラグを立てて、イベントが発生するだろう。
それがどのような形で行われるのかはわからない。
だけど、もしゲーム通りの展開になったら、俺は捕まった挙げ句にギロチンものだ。
だったら、今すぐこの場から逃げないと!
俺はそう思って、静かに席から立ち上がり、ビクビクしながら出入口へと向かった――のだが、
「あ! ちょっとそこのあんた! 金!」
突然、カウンター内にいた店の親父が大声を上げていた。
一斉に、酒場内にいた冒険者たちがこちらを向く。
俺は顔を伝わる止まらない冷や汗を腕で拭いながら周囲に視線を投げた。
そして気がついた。
「げ……」
あいつがいたのだ!
カウンター手前の席すぐ近くに、クエストを発生させるNPCが!
そして、そのすぐ近くには、冒険者らしき革鎧を着込んだ金髪ポニーテールなイケメン戦士と、美少女魔法使い。
「やばいやばいやばいやばい!!」
俺は一瞬のうちに死を覚悟して、思わずギルドの外へと逃げ出していた。
しかし、それが悪かった。
「おい、お前! 待ちやがれ!」
逃げる俺を、さっきのイケメンが追いかけてきたのである。
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