第8話
――フランツ公爵視点――
屋敷を後にする二人の後ろ姿を、奥歯を噛み締めながら見つめる。一体何が起きているのか、さっぱり分からない…。ソフィアに、一体何が起こったんだ…
つい先日までただの気の弱い女だったというのに、婚約破棄を告げた途端別人のように豹変した。まるで、何かの力に目覚めたような…
そこまで考えて、一つの可能性が頭をよぎった。まさか、あれが本来の彼女の姿なのでは…
今までソフィアはこの私に逆らったことなど、一度たりとてなかった。どれほど私が一方的な命令をしようとも、彼女にとって受け入れがたい言葉をかけようとも、ただ静かに震えるのみだった。反撃などしてくるどころか、一言言葉を返してきた事さえないのだから。
しかし今の彼女は、どう見てもこれまでと同一人物だとは思えない。目的のためならたとえ困難な事であろうと、いとも簡単にやりとげてしまいそうな雰囲気さえある。だとしたらまずい。本当にまずい。ソフィアはその力で、私への復讐を目指していることだろう。私だけじゃなく、エリーゼにも…エリーゼだけでも何とか守らなくては…
その時、声が聞こえた。私にとって最愛の人の声だ。
「お兄様!こちらにいらしたのですね」
「エリーゼ、何かあったのかい?」
「お兄様!またソフィアお姉様が私をいじめるんですの…」
ああ、エリーゼはほんとに美しく可憐だ…その泣き顔もまた可愛い…と、今はそんなことを考えている場合ではない。
「本当にすまない、エリーゼ。あと二週間だけ、我慢して欲しい…僕のせいで、本当に申し訳ない…」
エリーゼには、今回のことは話していない。彼女に余計な心配をさせるわけにはいかないからだ。
「…私我慢しますわ。お兄様が、私のためを思ってくださっているのは分かっていますもの」
本当にかわいい子だ。もう死んでしまっても良いとさえ思う。けれどまだ死ねない。ソフィアから、何としてもエリーゼを守らなくては。その為に、最も合理的な方法は…
自分の中に、ひとつのアイディアが浮かぶ。この方法をとるのは公爵のプライドが許さないが、相手は内なる力に目覚めたソフィアだ。これでいくしかない…他でもない、エリーゼのために…
「エリーゼ、ちょっと行ってくる」
私はエリーゼにそう言い残し、家を飛び出した。馬に乗り全力で駆け、目的の人物を目指す。私が直々に向かえば、何とかなるはずだ。
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