第97話
それぞれの思惑が交錯する中、ついに祝勝会開催の日が訪れた。
――――
「魔獣の退治のみならず、騎士との決闘さえもものにされてしまうだなんて…」
「もはやラルク様の実力は、我々の想像のはるか先を行っておられる…」
「わ、私などがどれほど鍛錬を積んだとしても、越えられないところにすでにラルク様はおられる…。悔しいですけれど、現実ですから仕方がないですね…」
祝勝会ではありながらも、参加する騎士たちの話題はラルクの事でもちきりであった。そのように騎士たちから持ち上げられまくるラルクが、調子に乗らないはずもない。
「いえいえいえ、まだまだ僕の本当の力はこんなものではありませんよ??まだほんの1割の力も出してはおりませんからね♪」
「「な、なんですと…!?」」
「いきなり僕の力をすべてお見せしてしまっては、皆さんひっくり返ってしまわれるでしょう?ですから僕はゴホッ!?!?!?」
自由気ままな発言をするラルクの体に、目にもとまらぬ速さで繰り出されたセイラのパンチが命中した。当然その攻撃速度を目でとらえられた者などこの場には誰もいない。
「どうしましたお兄様??お腹の調子でも悪いのですか??それじゃあ私と一緒にあっちに行きましょうね~。騎士の皆様、うちの兄がどうも申し訳ございません」
セイラはそう言いながら、ラルクの体を引きずって騎士たちの前から引き離す。もう何度も調子に乗ってはセイラの鉄拳制裁をうけているというのに、まだまだラルクはこりてなどいない様子だ。
騎士たちは互いに挨拶を行ったり、雑談に花を咲かせたり、あるいは招待された一般の人々と触れ合ったりするなどして、祝勝会はきわめて明るいムードで進められていた。ラルクの元を訪れたいというものはまだまだ多いものの、セイラによって動きを封印されたラルクがそれにこたえることはできず、穏やかな時間だけが過ぎていった。
「相変わらずですねぇ、あのお二人は」
「それでこそだとも。さぁ、我々も祝勝会を楽しもうじゃないか」
セイラとラルクの姿を遠目に見ているのは、オクト団長とガラル副団長だ。…おそらく二人の目には、セイラの攻撃がきちんととらえられていた様子。さすがだと言わざるを得ない。
…しかしそんな祝勝会の場に、招かれざる客が訪れる…。
「どいつもこいつも浮かれてばかり…。騎士たちというのはこんなにもだらしのない奴らの集まりなのか?」
現れるや否や、挑発的な口調でそう言い放つ一人の男。ほかでもない、ファーラから伯爵の座をスライド譲渡されたクライム伯爵である。招待状を手にしていないとはいっても、さすがに伯爵に直接出向かれたら騎士団としても断ることはできなかった様子。
「…こんな連中に退治されたなんて、相当ひ弱な魔獣だったんだろうな。どこまでもおめでたい奴らだ」
穏やかなムードは一転、彼の出現によって雰囲気は一気に殺気立ったものとなる。騎士たちは敵対的な視線を彼に向けるが、あくまで貴族家である自分の方が優位な立場にあると確信するクライムは、そんな視線などもろともしていないようだ。
「あぁそういえば、シャルナって女はどこにいるんだ??父上が婚約の話を通してくれていたはずだが?」
クライムはそう言いながら、周囲をきょろきょろと見回す。すでにシャルナの顔は知っていた彼は、遠目にシャルナの存在を見つけると、そのまま足早に彼女の元へと歩み寄った。
「おいおい、伯爵たるこの僕との婚約を控えているというのに、挨拶もなしか?やっぱり温室で育った財閥のお嬢様、随分とプライドが高いのか?」
嫌味たらしくそう言葉を発するクライムだが、彼は大きな勘違いをしていることに気づいていない。
「婚約??何のことですか??私はあなたとは婚約しませんよ??だって私が思い描き、恋焦がれる方は、ほかにいらっしゃるのですから…!」
「……は??」
ライオネルから何も聞かされていないクライムは、この場で初めてその事実を耳にした。…そして負け惜しみを言うかの如く、みじめな口調で言葉を返した。
「は、はぁ??伯爵である僕よりもふさわしい相手がいると??いるわけがないだろうそんな相手!!」
しかし、情報だけはある程度仕入れていたクライム。その頭の中に、ある一人の男の名前が思い浮かんだ。
「…まさか、最近カタリーナ家と距離を縮めているっていう、あのラルクって男か?あんなろくでもない男のどこにそんな価値があるっていうのか、教えてもらいたいね。はっきり言えば、ラルクを気に入る人間にろくな奴はいやしない」
…その言葉は本来、シャルナに向けて発せられたもの。しかしクライムは必要以上に声を張ってしまい、その言葉は多くの騎士の耳にも入る結果となった…。
クライムの言葉を聞いた騎士たちは当然、その心の中でこう思った。
「はぁ?ラルク様を馬鹿にするのか?」
「あれほど素晴らしい実力を持っている方なんていやしない…それを理解できないとは、伯爵家もいよいよだな…」
「これはもはや、騎士団に対する挑発なのでは?もう家ごとつぶしてしまってもいいのではないか?」
…次第に自身の旗色が悪くなっていくことを、クライム自身も感じ取っている様子…。
「(な、なんだよ…。ラルクって男、なんでこんなに騎士連中から人気なんだよ…!?)」
じわじわと後を失ってきたクライム。今度はその矛先をラルクの妹セイラに向けようとしたが…。
「あ、兄が兄なら妹も妹だ。伯爵家を裏切るような真似をしたあんな女、誰が気に入るっているのかねぇ。いまだに騎士連中とつるんでいるらしいが、あいつを好きだっていうやつの気が知れないぜまったく」
当然その言葉は、オクト、ガラル、ターナーの耳にも入っている…。この場にいる全員を敵に回したと言ってもいいクライムが今後どうなっていったかは、想像に難しくないことだろう…。
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