第2話

「昨日は楽しかったな…。さて、今日はセイラと共に貴族連中との食事会か…。気は乗らないが、仕方あるまい…」


 いまだに気持ちの悪い笑みを浮かべるファーラ伯爵。それほど彼にとって、昨日レリアと過ごした時間は忘れられないものなのだろう。

 しかしそんな彼の表情は、もたらされた知らせによって奪われることになる。


「伯爵様!大変です!セイラ様のお姿がどこにも見えません!」


 使用人の一人が血相を変えて伯爵の元へ駆け寄る。しかし当の伯爵は全く焦る様子も見せず…。


「なんだそんなことか…。どうせ散歩にでも言っているんだろう。少しいないくらいで大騒ぎしよって、なんだ全く…」


「そうではありません!伯爵様が不在にされていた一昨日からずっとお姿が見えないのです!!」


 そこまで聞いて、彼はようやくその様子に変化を見せた。


「な、なんだって…?そ、そんなに長い時間いなくなっているのか??」


 自分がレリアと楽しんでいた間に、事件が起こっていたらしい…。瞬時に伯爵はそう察した。


「どうされますか伯爵様…?これはもしかしたら、セイラ様が伯爵様を捨てて家出をされたのかもしれません…!」


「っ!?」


 セイラに自分に逆らえるだけの力などあるはずがない。そう信じ切っていた伯爵は、驚きの感情を隠せなかった。


「お、落ち着け…。まだそうと決まったわけではない…。なにかの間違いでこうなっている可能性も…」


 まるで自分に言い聞かせるかのようにそう言葉を発する伯爵。しかし使用人は心の中の不安を口にする…。


「…やはり伯爵様はやりすぎたのですよ…セイラ様の優しさに甘えて、レリア様にばかり愛情をかけて…。こんなことになってしまって、もしも二度とセイラ様が戻らなかったら…。伯爵家は末代まで笑いものになることでしょう…!」


「っ!?」


 使用人からの言葉を耳にして、伯爵はようやく現実を見るのだった。


「(た、たしかに…。伯爵であるこの僕が相手に愛想を尽かされ捨てられたなど、そんな話が出回ってしまえば恥ずかしくて表を歩くこともできなくなる…)」


 しかし同時に伯爵の脳裏には、ある別の作戦が思い浮かんだ。


「そうか…。セイラにそこまでの度胸があったとは…。それは認めよう。しかし、このままセイラの思い通りになどさせてたまるものか…!」


 伯爵の思いついた作戦、それはセイラを早急に呼び戻し、嘘の婚約破棄を告げてその心に傷を負わせようという作戦だった。

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