第11話 魔物のすくつ
>キタキタ! 二階層ですくつとは、おパンティン持ってるな!
>え、これ普通にヤバくないか? スライムって素手じゃ倒せないよな?
>さすがに魔法使うだろ。使わなかったら普通に死ねる
>魔物の中でもスライムの大群はマジで厄介。殺意のある水に飲み込まれるようなもんだからな
>水は水でも、粘性のある水だからな。スライムの大群に飲み込まれたら死を覚悟しないといけない
>ただでさえパンティのせいで呼吸しにくいのに……
>いやそこはパンティ脱げよ
>は? ダンジョンとはいえ人の往来のあるとこでパンティ脱ぐとか変態かよ
>そうなんだけどそうじゃない
魔物の
ダンジョンで時折出現する、魔物大量発生イベントだ。これだけ魔物がいればドロップアイテムもよく落ちるし、このあと出現する群れのボスは、確定でアイテムがドロップするので、喜ばしいイベントと捉える人も多い。
が、日本のダンジョン研究の粋を尽くしても、いつどこに発生するかわかってないので、初心者はもちろんのこと、中・上級者の死亡原因としてもかなりのパーセンテージを占めるらしい。
といっても、対策は単純で、基本的には迂回すればいいのだが、このように階段へと続く一本道に現れるとなると、そういうわけにもいかない。
もちろん、これほどの撮れ高を前に逃げるつもりなどない。言ってもスライム自体は、典型的な塩対応魔物であまり撮れ高がないが、重要なのはこいつを殺した後の話だ。
スライムは、今は固形を保っているが、死亡すればただのヌルヌルの液体になる。言ってしまえば、天然のローションになるのだ。
これだけ大量のスライム。『おパンティンTV』の伝説の動画を、生配信で再現できるかもしれない。
「カメラマンさん、汚れないように気をつけてくださいね!」
俺は悠里さんにそういうと、スライムの大群目掛けて、拳の雨を降り注ぐ。ゴブリンと違い、消し飛ばさないようしっかり手加減をして、だ。
「「「「ふぎゅっ!?」」」
スライムの悲鳴がダンジョンに響き渡る。
ものの数秒で、三十匹ほどいたスライムは、瞬時にただのローションと化したのだった。
>は?
>は?
>ええええええええええええ!?!?
>嘘だろ!?!?
>すげぇ!!!
>今のはハッキリ見えたぞ!? スライムを打撃で倒した!?!?
>何驚いてんだよ。スライムみたいな雑魚倒せるの当たり前だろ
>スライムは打撃耐性を持ってるから、打撃で倒すのはめちゃ難しいんだよニワカ! その代わりそれ以外の攻撃ではあっさり死ぬけど
>いやいやいやいや、これマジでおかしいって
>これも魔法無しでやってんのかよ!?
スライムを一番簡単に殺す方法は、火の魔法を使うことだ。
というか、スライムに限らず、大抵の魔物は火に弱い。よって、探索者学校では、いの一番に教えられる魔法である。
当然俺も使えるが、火の魔法なんて使えば、せっかくの天然ローションが蒸発してしまう。そんなもったいないことができるはずがない。
……なぜ、先ほどのリアクションがあそこまでスベったのか、俺なりに考えてみた。
結論、おパンティンになって数日の俺には、まだ六十度のお湯は六十度のお湯なのだ。
オーバーリアクションを成立させるだけの”腕”が、今の俺には圧倒的に足りていない。現実は厳しい、けど、そんなことでいつまでも凹んではいられない。
だが、これだけ天然ローションが地面に塗布されていれば、素人とかプロとか関係なしに、滑りに滑る。俺のような素人でも、プロみたいに面白い絵面を引き出せるわけだ。
「ぐふ、ぐふふふ……」
さて、あとはこの群れの主をとっとと片付けよう。魔物の死骸は一定時間経つとダンジョンに吸収されてしまうからな。
その時、ダンジョンの上部あたりが、ピカピカ虹色の光が灯る。ダンジョン探索者なら誰もが見たことがある、魔物が生まれる瞬間の光だ。
群れの主というだけあって、群れよりも少しレベルの高い魔物が来るのが普通だ。ドデカスライムだったら、よりローションの足しになるぞ!
光が消え、一匹の魔物が現れた。
「えっ!?」
光が消えたにも関わらず輝くその姿に、俺は驚愕した。
ミスリルスライム、だ。
>は?
>ええええええええええええええ!?!?!?!?
>なんだこいつ? めちゃくちゃ硬そうでスライムって感じしないけど
>うおおおお!! ミスリルスライム!!! 動画で初めて見た!!!
>ミスリルスライムって、二階層で出てきていい魔物じゃないだろ!?
>魔物の巣窟の倒し方の難度や速さによって、出てくる群れの主の強さが変わるから、あり得ない話ではない
>いや、だとして、群れの主としてミススラが出るなんて話聞いたことないぞ
>スライムの巣窟って結構出現率高いし、めちゃくちゃ稼げないかこれ!?
>誰も素手でスライムの大群瞬殺なんてできないから無駄。できたとして、ミススラが倒せないしな
>物理はもちろん、火魔法も全く効かない上、倒したらそのミスリルの身体はダンジョンに吸収されてくからな。マジでクソモンス
>でも今回ドロップ確定だろ!? エグいって!!
>あまり好戦的じゃないから魔物危険度ランクはB+と低めだけど、今回は自分の群れを全滅させられてるからな。本気で来るぞ!
>詰んだあああああああああああああああ!!!
そう、これはまずい、なんたって。
まず、ミスリルスライムは、普通のスライムとは形が全く違う。
いわゆるダイヤモンド型、地面と接地面はあの尖り切った部分のみ。
そして何より、”ミスリル”スライムという名からわかるように、あいつの素材はミスリル。神が作りたもうたとも言われる、最高度を誇る金属でできている。有名探索者がこぞって装備に使っているやつだ。
そんなミスリルスライムが、もしこのローション塗れのヌルヌル廊下に着地したら……。
とんでもなく滑る!!!
予想通り、ミスリルスライムは、地面に触れた途端、つるんっと滑った。
ドガン!!
「ギッ!?」
まずは、勢いよく床に頭をぶつける。そして、そのままツーっと横の壁に向かっていくと。
ドゴン!!!!
「グギッ!?!?!?」
思い切りぶつかって、壁をボッコリ凹ませた。
俺は、恐る恐るコメント欄を見た。
>ミスリルスライムさんww
>www
>wwww
>wwwww
>草
>草
>草生える
>【朗報】ミスリルスライムの攻略方法、見つかるwwww
>まさかミスリルスライムさんも、あれほど大量のスライムを火の魔法で倒さない奴がいるとは思ってなかったんだろうなwwww
>意気揚々と現れてこのザマかよwww
俺の予想通り、コメント欄は草を生え散らかっていた。
「プフッ」
『おパンティンTV』は、そこらの配信者とは違って、画面に写っていないスタッフがあえて大きな声で笑って視聴者の笑いを誘う、通称”誘い笑い”を禁止している。純粋に動画の内容で評価してもらうためだ。
俺がおパンティンを継承してからもそのルールは変わっていなくて、現に悠里さんは、ここまでひと笑いもしていなかった。
俺は、恐る恐るカメラの方を向く。
悠里さんは、カメラを持っていない方の手で口元を覆い、必死に笑いを堪えていた。
「……お、お前ぇぇぇ!! ぶっ殺してやる!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます