第14話 強すぎるオーク


 オークと悠里さんと一緒にクレーターに落ちながら、俺は自分の不正がバレていないかどうか、恐る恐るコメント欄を確認した。



>は???????

>待て待て待て

>え、怖い怖い

>なんじゃこれ!?!?!?

>なんだ!? どう考えてもオークの攻撃力じゃないぞ!?

>っていうかオークとか以前に中層の魔物の破壊力じゃねぇ!?

>もしかしてバフ魔法使った?



「あっ!?」


 核心をついたコメントに、思わず声をあげてしまう。が、コメント欄は瞬時に否定で埋まった。



>にわかすぎるwwwバフ魔法なんて大した効果ないわwww

>超一流のバフ魔法の使い手でも、筋力1.5倍が限界。オークがこんな大穴地面に開けられるようになったりしない

>第一肉体の形までかわっちゃてるんだから、バフとかのレベルじゃないぞこれ

>バフで筋肉ムキムキになれるなら、見せたがりの探索者はみんなバフ使うだろ

>やっぱ特殊個体か

>間違いない。時折、異様に強いゴブリンとか出てくるし

>お、おいおい、待て!? 今ランク測定アプリでこのオークの危険度ランク測ったら、Aランクあるんですけど!?

>ヘ?

>は?

>オークって、高くてもD−の魔物だろ!?

>特殊個体だとしてもあり得なく無い!?

>ミスリルスライムといいとんでもない特殊個体といい、今日ダンジョンおかしくないか!?

>今日代々木ダンジョン潜る予定だけどやめとくわ。命がいくつあっても足らん



 ほぉ、Aランクとは、本当にミノタウロスクラスになったんだな。

 さて、そんだけ強いなら、俺を恐れる必要もないだろ? ほら、とっとと恥ずかし固めしてくれよ。


 着地、と同時に、オークは地面を蹴り俺に詰め寄る。


「ぶぎゃああああああああああああ!!」


 そして今度は、ちゃんと俺目掛けてアッパーを放ってきた。なるほど確かに、傾斜のある場所で恥ずかし固めはかけにくいもんな!


「ぐわああああああああ!!!」


 巨大な拳を思いっきり喰らうと、穴の外にまだ吹き飛ばされる。そして、ちょうど恥ずかし固めがしやすいよう四つん這いに倒れ込んだ。


 さぁ、オークよ! その力で俺を恥ずかし固めするんだ!


「ぶるあああああああああ!!!!」


「えっ?」


 しかし、穴から飛び出てきたオークは、今度は大ぶりのサッカーボールキックで、俺の腹を蹴り上げた。


 ギュン。


 耳を裂かんばかりの風切り音と共に、地面が急速に離れていく。中層第一階の全体が見渡せるほど高く飛んだとき、米粒サイズになったオークの筋肉が膨張すると、びゅんと跳躍。


「うびゃああああああああああああ!!!」


 俺の元まで飛んでくると、再び俺に拳の金槌を振り下ろす。


 今回はいつもの動画と違って生配信。モザイクもつけられないので、全裸になれば垢BANの可能性もある。


「チッ」


 これだから生配信は嫌なんだと、全身タイツに強化魔法をかける。

 しかし、魔物の殺害も出血も許されるのに、男の乳首を映すことはできないなんて、イカれてると思うのは俺だけか?


 直撃……ドゴオオオオオオオオオオオッッッン!!!


 俺は地面に叩きつけられ、再びどでかいクレーターを作ってしまった。



>うわあああああああああああああああああ!!

>死んだああああああああああああああああああ

>マジかよ

>これは……流石にキツいな

>うわ、人死ぬの初めてみた

>お前、ダンジョン配信は初めてか? 肩の力抜けよ。俺なんか、人が死ぬとこみたいから

>シールド展開してた!? そうじゃなきゃもう終わり

>土埃で見えねぇ!!!

>本当に火竜のブレスを魔法なしで耐えることができるのなら、生きているだろうねwwwwまあこの様子じゃ木っ端微塵だろうけどねwwwwww二宮アレンに恥をかかせた罰だよwwwwwww



「ててて……やっぱ、測定アプリって信用ならないな」


 ま、低めの判定が出てくれた方が、俺には都合がいいんだけど。



>……へ?

>生きてる!?

>嘘だろ!?

>おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

>良かったぁ……

>すげえええええええええええええええええええ!!!

>マジで耐久力どうなってんだ!?!?

>これ、現日本トップの耐久力を誇る佐々木悠里超えじゃないか?!

>この程度の打撃に耐えたからって笑別にオーク程度の攻撃を耐えたからと言って、火竜のブレスを耐えられるという証明にはならないがな



 ともかく、この程度の強さなら全く問題ない。厄介なのは、ステータス以外にも影響を与えてしまったことだ。

 どうやらあのオーク、バフが効きすぎた結果、狂戦士バーサーカー化してしまったようだ。


 ある意味で、狂戦士バーサーカーほど正々堂々と戦う者もいない。恥ずかし固めなんか、頭の片隅にもないだろう……ああもう、こうなったら最終手段だ!


「ぐるばあああああああああああ!!!!!!」


 地面に着地したと同時に、俺に飛びかかってくるオーク。その拳が、俺の眼前でぴたりと止まった。



>え?

>は?

>止まった?

>助かったけど、なんで!?

>特殊個体だからな。無茶苦茶な行動をするもんだよ

>いや、なんか、自分の意思で止まってるっていうか、魔法かなんかで動きを止められてるって感じだけど……

>え、なに、もしかして時止め魔法……ひらめいた

>通報した



 魔法は使ったが、そんな大したものじゃない。

 ただ、魔力を糸状にして具現化し、オークの身体に巻き付けただけだ。糸は透明化しているので、視聴者からすれば、オークが勝手に止まったように見えるだろう。


 もちろん、動きを制限するためではない。動かない敵なんて、リアクションの大敵だからな。


 俺は魔力の糸を操作し、一緒になってクレーターから飛び出る。

 そして、魔力の糸に神経を集中すると、オークの四肢が俺の思い通りに動き始めた。


「ぐがあああああああああ!!!!」


 オークは唸り声を上げながら抵抗するが、俺の魔力の糸を断ち切ることはできない。オークは俺の元まで歩み寄り、俺を抱え込んだ。


 このまま恥ずかし固めをさせてやると思った時、一つのコメントが目に入った。



>これだから劣等人種どもはwww魔力を細かく糸にしてから具現化し、オークに巻きつけて動きを封じたんだよ

>エルフ自認おじさんちーっす

>魔力の糸wwそんなもんであのバケモンの動き止めれるわけないだろwww

>その通り。ボクもエルフだが、そんなもの全然感じ取れない

>だいたい、おパンティンヒストリアだろ? そんな繊細な魔力コントロールできるわけない



 ……スベりすぎたせいで、俺は頭がおかしくなっていたんじゃないか!?


 魔力の感知能力に優れたエルフの中には、画面越しにも魔力の存在を感知できるものもいる! 五万人も見ているんだからだから、そんな人が視聴者の中にいてもなんらおかしくない! 糸を透明化したところで何の意味もないじゃない!


 そして、もし五万人の中にいなかったとして、エルフの中でも探索者として抜きん出た人が、この生配信のカメラマンを務めてるんだぞ!


 俺は、恐る恐る悠里さんの顔を伺った。


 まだ、怒ってくれているのならよかった。


「…………」

 

 しかし、悠里さんの目は、サングラス越しでもわかる位に、悲しそうだったのだ。


「っ」


 俺の胸は罪悪感に締め付けられる。


(俺は一体、何をしているんだ! スベり散らかしたショックのあまり、ヤラセを使ってまで笑いを取ろうとするなんて……こんなの、パンティの風上にも置けないじゃないか!)


 0度の熱湯を100度かのように扱ってしまった俺は、配信者、いや、人として失格だ。


 俺は、魔力の糸を切った。すると、自由になったオークが、すかさず俺目掛けて拳を振り下ろす。


 俺は、一切ガードしないころか、全身の気合いを抜いた。


 ぶちゅっ。



>うわああああああああああああああ!?!?

>あああああああああああああ

>潰れた!!!!!

>潰れた音したよな?!!?

>拳と地面に隙間なくない?……終わった

>今度こそ終わりだ……

>空中はインパクト時の衝撃を逃がせたけど、地面と拳に挟まれたらもう……

>配信切れ

>グロ注意

>ざまぁwwwwwww地獄で二宮アレンに謝るんだなwwwwwwwwwww



「……大変、申し訳ありませんでしたあああああああ!!!!」


 オークの拳の下で土下座した俺は、腹から声を出して謝罪したのだった。

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