作戦会議①

「あれ? お前らどこ行くの?」

 お昼休み。

 いつものように皆でお昼を食べようと近付いて来た工藤くんがお弁当箱を持って席を立つ私たちに声を掛けてきた。

「今日は女子会の約束してるのよ。たまには男女別もいいでしょ?」

 美智留ちゃんがそう告げて、私たちは教室を出る。


「あんまり人がいない方が良いんだけど、どこか良い場所あるかなぁ?」

 教室を出たはいいものの、どこで食べるかは考えていなかったらしい美智留ちゃん。

 私は「あ、じゃあ」と以前まで一人でご飯を食べていた場所に案内した。

 屋上に続く階段。

 勿論屋上は立ち入り禁止だし施錠されている。

 でも行く用事がある生徒なんていないから、その辺りはいつも静かなんだ。

 一人になりたい生徒が行くには丁度良い場所なのかたまに先客がいるけれど、今日はいなかったのでそこで食べることにした。


「こういうところで食べるのも何だか新鮮だね」

 さくらちゃんはそう言ってお弁当を広げながら少しキョロキョロと見まわしている。

 私はそんなさくらちゃんに「そうだね」なんて相槌を打ちつつ、いつ美智留ちゃんに日高くんとのことを聞かれるのかとヒヤヒヤしていた。


「それでどうしたの? 突然女子だけでお昼食べようなんて」

 食べ始めると、さくらちゃんが早速美智留ちゃんを見て話しかける。

 途端、美智留ちゃんはさくらちゃんを見てニヤッと笑った。

「うん。昨日花田の好みが分かったでしょう? さくら、好きって言われてたじゃない」

「ふぇ⁉ で、でも、別に私のことが好きって言ってたわけじゃないし……」

 言われた瞬間を思い出したのか、頬を染めるさくらちゃん。

 うん、可愛い。

 もっと可愛くなるようメイクしたい。

 ついつい欲求が出てしまったけれど、それは何とか抑え込んだ。

 危ない危ない、と笑顔の裏で自分を落ち着かせる。

 ついでに真っ先に日高くんとのことを聞かれずに済んで私はホッと力を抜いた。


「でもさくらみたいに面倒見のいい子が好みってのは分かったじゃない。もっとそういう部分見せていけばそのうちさくらが好きって方に変わるって!」

「そ、それは極端すぎなんじゃ……」

 力説する美智留ちゃんに押されつつも、さくらちゃんは冷静に答える。

 でも、美智留ちゃんの言うことも一理あると思った私はそっちの味方になった。

「そんなすぐに変わるわけじゃないだろうけど、花田くんの好みにさくらちゃんが当てはまるっていうのは確かでしょう? そういうところをもっと出してアピールするっていうのは理にかなってるとは思うよ?」

 恋愛初心者どころかもっと前の辺りにいそうな私だけれど、アピールしたいのなら間違った方向ではないと思う。


「そ、そうかな?」

 私も美智留ちゃんと同意見だと言ったことでさくらちゃんも意見が揺れる。

「そうだよ!」

 そして美智留ちゃんが強く頷いたこともあって、さくらちゃんは「頑張ってみる」と拳を握る。

 そんな決意する姿も可愛らしいなぁと思いながら卵焼きを口に入れた私はふと思い出した。

 そういえば、今日の分の栄養補給軽食を日高くんに渡していなかったな。

 何だかんだで作ってくる事も約束してしまったし、と思って持って来たのに……。

 先に渡しておこうと思っていたのに、忘れてしまっていた。

 今日は仕方ないって事にする?

 いや、でもそれだと日高くんは絶対栄養足りない食事しかしない。

 それは見過ごせない。

 ……仕方ない。

 戻ったらすぐ食べてって渡すしかないか。


 ちょっとため息混じりにそんな事を考えていると、お弁当を食べ終わった美智留ちゃんが「さて」と私を見て話し出した。

「灯里も話すこと、あるでしょ?」

 何だか少し楽しそうにニッと笑う美智留ちゃん。

 やっぱりその話もするんだ……。

 いや、相談でもしないと日高くんにどう接すればいいか分からないし、話さないことにはどうにも出来ないんだけどね。

「何かあったの?」

 何も知らないさくらちゃんは不思議そうに私を見る。

 その視線に話すのをためらっていると、まず美智留ちゃんが昨日カフェのトイレであったことを説明してくれた。


「で、恥ずかしくて言えないだけだって言うからさ、ちょっと時間をおいて聞こうかと思って」

 それで今聞いてみることにしたんだ、と締めくくる。

「恥ずかしいって、何があったの?」

 小首を傾げて不思議そうに聞いてくるさくらちゃんは可愛いけれど、だからこそ尚更言うのが恥ずかしい。

「それは……」

 美智留ちゃんには後で話すと言ってしまっていた。

 でも言いづらくて口ごもっていると、もう一度強めに問われる。

「で? 灯里、日高に何をされたわけ?」


 ……誤魔化せないし、言うしかないか。

 諦めた私は頑張って口を開く。

「その……き」

『……き?』

 二人が揃って私の言葉に注目する。

「き、ききき……キス、された」

 ものすごくどもりながらだけれど、何とか言えた。

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