アルバムにいないあの子、いるこの子
母さんがとても楽しそうに抱えて持って来た俺のアルバムを、
相変わらず俺が写っている写真は俺の記憶のものと異なり、隣に
俺の誕生日に撮った写真。入学式や卒業式。遊園地で楽しそうにしている場面など。
母さんは俺と里奈を別れさせたいのか? どういう気持ちでこれを里奈に見せようと思ったのか謎である。
ただ、母さんは純粋に俺の成長記録を見せたかっただけで、常に隣にいる幼馴染の事まで気にしていないような気はする。
多分、きっと。
「この頃に出会ってればな……」
家の前に広げたビニールプール。三歳か四歳くらいの俺と羽那子が裸でぴちゃぴちゃ遊んでいる様子。
母さんと里奈のお母さんとは仲の良い先輩後輩関係なのに、子供同士を遊ばせる事はなかったのだろうか。
「仕方ないよね。私が中学に上がってからだもの、この街に引っ越して来たのは」
ん? 里奈も引っ越して来たのか。
俺とは中学で出会い、同じ高校へ進学したという事か。
「幼馴染って、恋人という言葉とはまた違った意味で大きな存在だと思うの」
ただ、俺の場合はその共に過ごした時間の記憶が全くないので、里奈と羽那子のスタートラインは同じだ。
いや、この俺自身の記憶では、林さんとは中学の頃からの知り合いなので、その分林さんの方が親しみがある。
ガチャッ!
「いっくん、このアルバムを忘れてたって!」
「羽那子、ノックくらいしろよ」
突然扉を開けて入って来る羽那子。階段を上る音は聞こえていたが、まさか声もかけずいきなり入って来るとは思わなかった。
そういう奴だというのは短い付き合いで分かって来ていたが、恋人同士の二人きりの部屋へ無遠慮に入るほどの配慮のない女だとは想定外だ。
俺がそう感じたように、里奈もムスっとした表情で口を曲げている。
「これこれ! キャンプ合宿のアルバム。懐かしいね!」
こちらの心情を察する事なく里奈の隣に座る羽那子。そして手に持っていたアルバムを開ける。
キャンプ合宿のものだが、何故羽那子が懐かしいと言うんだ? 羽那子は熱を出して行けなかったんじゃないのか?
「ほら、里奈さん。これがあたしで、こっちがいっくんだよ」
何故、羽那子がそのアルバムに写っている……!?
ベッドから身を乗り出してアルバムを確認する。
確かに、俺の隣には他のアルバム同様に、まるで合成したかのような形で幼い羽那子の姿が写されている。
「ちょっとアルバムを貸してくれないか」
返事を待たず、半ばひったくるようにアルバムを手に取る。
ページをめくり、写真一つ一つをじっくりと観察する。
「ちょっと、そんなにまじまじと見てどうしたの?」
「いない」
「いない? キャンプ合宿に参加したのはあたしといっくんだけだよ?
いっちゃんは年齢的に参加出来なかったから……」
「違う、
「美紀? ……美紀って?」
アルバムのどこを見ても、
髪の毛が長く、大人しい雰囲気の女の子。
キャンプ合宿で俺と出会い、それがきっかけでアウトドアが好きになって活発な性格になったんだと話してくれた女の子。
「羽那子、今日学校で変わった事はなかったか?」
「変わった事と言われても……、いつも通りだったよね?」
「うん、特に思い付かない」
羽那子が問い掛け、里奈が答える。
学校で、変わった出来事はなかった。つまり、転校生は来ていない。
東条美紀が、この世界には存在しない……?
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