【短編】ひつ恋!〜吸血鬼を惑わせる血を持つ俺は、厄介な吸血鬼に目をつけられる〜
渡月鏡花
第1話
赤い髪をかきあげて、エリカはニヤッと笑みを浮かべた。
笑みを浮かべた口元から覗くのは、吸血鬼特有の牙だ。
その牙が俺に近づいてくる。
エリカの真っ赤な瞳が、俺をうっとりとした表情で見つめる。
その視線に見惚れていると、エリカはどこか嬉しそうな声で言った。
「ほら、太陽。怖くないから安心しなさい」
「……とっととしてくれ」
「ふふ」
そう言って、エリカの牙が首筋に触れた。
その瞬間、背中越しにユキノの少し不機嫌そうな声が聞こえた。
「ちょっと、エリカさん!太陽くんのことを誘惑しないでくれませんか?魅了の能力を使うだなんて卑怯ですよ!」
きっと今振り向いたら、今のユキノの表情は、不貞腐れたように少し口元を曲げていることだろう。そして、長い灰色の髪をくるくるとして、ちらっとこちらを見て『ふん』と言うことだろう。
しかし幸いにも幼なじみである不機嫌なユキノの意識の矛先は、エリカだった。
そのエリカは俺の首筋からスッと離れて言った。
「あら、幼なじみさんは、醜い嫉妬でもしているのかしらー」
「おい、エリカ!ユキノを煽るな」
「太陽くんは黙っていてくれませんか?」
「あ、はい、すみません」
くっそ、ユキノのことをフォローしようとしただけなのに……
なぜ、俺が怒られなければならないのか。
理不尽にも程があるだろっ!
そんなの俺のことなんて歯牙にもかけずに、エリカは続けた。
「ふふ、ユキノ——あなたからこの勝負を仕掛けてきたんだから、文句を言える立場ではないでしょ」
「そ、それはそうですが……で、でも、無闇やたらにただの人間である太陽くんに吸血鬼の能力の魅了を使うだなんて……卑怯です!」
ただの人間か……。
そうだったらどれだけ良かったことか。
エリカは一瞬だけ俺のことを見て、それから視線を逸らした。
「ふん、『ただの人間』?そんなこと知らないわよ。それに私の体質上、勝手に魅了が発動してしまうのだから仕方ないでしょ?」
「そ、それはそうなのかもしれませんが……」
「じゃあ、もういいかしら。早く勝負をしましょ?」
「はあ……もういいです!」とユキノは諦めたようにため息をついた。
「さあ、気を取り直して始めましょうか」
エリカはそう言って、もう一度俺の首筋へと口を近づけた。
微かに甘い吐息が首筋にかかり、くすぐったい。
そして——がぶっと噛まれた。
快楽なんてものを感じるまでもなく、急激に体内から血が抜かれていく感じがした。
一瞬、立ちくらみがしたが、後ろに控えているユキノが支えてくれたようだ。
「……もう、しっかりしてください。この勝負は太陽くんにかかっているのですから」
「——」
「私とエリカさんのどちらの吸血行為が、吸血不感症である太陽くんにより大きな快楽を与えることができるのかの勝負なのですから」
……あ、やばいかも。
視界が重い。
てか、流石にエリカのやつ、遠慮なさすぎだろう。
一瞬で大量に俺から血を抜き取ったようだ。
くっそ、何が『人間の血は苦手なの!』だ。
全然、苦手じゃないだろ……
ああ、だめだ。
俺の意識は重い海の底に沈んだ。
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