第5話
ある程度近くにはいたはずだけど、俺ほど視力がよくなかったからか、オークがこちらに気付いた様子はない。
オークは手に大きな芋虫のような虫を掴んで、興奮しながら鼻をふごふごとさせていた。
どうやら虫は獲りたてほやほやのようで、うねうねと動いている。
ていうか、あの虫もずいぶんとデカいな……子犬くらいはありそうだぞ。
俺に気付いたわけじゃなくて、少しホッとする。
多分だけど、ごちそうである巨大芋虫を見て思わず叫んでしまったんだろう。
あのオークはもしかするとグルメレポーターなのかもしれない(絶対に違う)。
一心不乱に芋虫を躍り食いするオークを見つめる。
今のところあいつの意識は完全に芋虫に向いている。
不意打ちをするチャンスだ。
いきなり実戦というのは少し怖いけど、せっかくだし自分の魔法の威力をたしかめておいた方がいいのは間違いない。
……よし、とりあえずヒットアンドアウェイ戦法でいってみることにしよう。
俺は立ち上がり、オークに向けて右手を、左手を後ろに向ける。
そして左手で『自宅』のギフトを発動。
亜空間にある自宅を呼び出し、左手でドアノブを握り、そのままドアを開く。
すぐに逃げ込める状態を整えてから、右手で魔法を放つことにした。
とりあえず相手がどれだけの強いかわからないから……今俺が使える中でも一番強い魔法でいくか。
俺が練り上げるのは、雷魔法がLv10になると使えるようになる、今の俺が放てる最強の雷魔法。
自宅の中では魔法は使えなかったので、俺がしっかりと魔法を使うのは正真正銘これが初めてだ。
というか……初めて使うけど、使うまでに大分時間がかかるんだな。
準備するだけで10秒はかかってるし、誰かに時間を稼いでもらうこと前提の魔法なのかもしれない。
「――グングニル!」
雷魔法グングニルは、強力な雷の槍を射出する魔法だ。
魔力によって槍の形に成形された雷が、レールガンの要領で雷による更なる加速を受け、超高速で射出される。
上手いこと倒せればいいなと思っていたんだけど……結果は、想像以上だった。
ドッッゴオオオオオオオオオオオッッ!!!
俺が放った雷の槍が、ものすごい音を立てながら飛んでいく。
槍はオークの身体を貫通し、一瞬でオークの身体を炭化させた。
そして貫いてもなおその勢いはまったく衰えずに、そのまま物凄い勢いで草原を突き抜けていった。
バリバリと帯電しながら周囲に衝撃波を撒き散らしているおかげで、物凄い勢いで通り道にある草が焼け焦げていき、グングニルが通った場所だけ重機で掘り起こされでもしたかのようなものすごい惨状になっている。
今の一撃の音と光があまりに強かったからか、先ほどまで地面で種をついばんでいた鳥達は一斉に飛び立ち、先ほどオークが食べていたデカ芋虫が地中からすぽぽぽーんと飛び出してくる。
「……ちょっと、過剰すぎたみたいだ」
雷魔法が悪かったのか、LV10の魔法を使ったのがいけなかったのか……多分後者だろう。
……とりあえず、LV10の魔法はしばらく封印だ、うん!
「どっちに進めばいいのか見当がつかなかったけど……とりあえずグングニルが飛んでいった方に進んでいくことにしようか」
世界広しといえど、進む道がわからない時にグングニルを放った方に向かうするのは俺だけだろう。
もしかすると俺の魔法攻撃のせいで、人なり建造物なりに被害を出してしまっているかもしれない。
何も起きてないといいんだが……。
幸い、人的な被害は出ていなかった。
そして一つ、奇跡が起こった。
なんとグングニルの進路をなぞっていくと――明らかに人の手の入っている道が見えてきたのだ!
ちなみにだけど、道はグングニルの衝撃波で少しめくれ上がってしまっていた。
なので俺はあまり得意ではない土魔法でそっと直し、何事もなかったかのように進んでいく。
道を破壊してしまったという事実は、墓場まで持っていくことにしよう。
そして道なりに歩いていくことしばし。
オークやゴブリンなんかはLV1の魔法でも十分倒せることを確認しながら進んでいると、なんだか大きな街が見えてきた。
多分だけどあれが……グルスト王国の首都であるグリスニア。
――俺達一年一組を召喚した国の首都であり、本来であれば俺が転移するはずだった、因縁の場所だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます