第3話
「まさか自分の腸をこの目で目の当たりにする時が来るとはな……なんかお腹が痛い気がする……」
先ほど俺の身に起こったことを話そう。
まず神様と出会ったあの空間から戻ると同時に、俺は謎の異空間の中へと入っていった。
そして次の瞬間には自分の身体がまるで製造工場の飴のようにぐるんとねじ切られそうになり、俺の身体から大腸なんかがボロンと出てきた。
けれど痛みを感じるよりも早く全身が発光し……気付けば俺は、謎の空間にやってきていた。
……しかも、なぜか上半身裸で。
そう、今の俺は上裸なのだ。
けどそんなことはどうでもいい。
なぜならそんなことより重大な問題があるからだ。
「『自宅』のギフト……なかなかすさまじいな……」
今俺がいるのは、恐らくクラスメイト達がいるであろう王城の中でもなければ、危険極まりない魔物が跋扈する薄暗い森の中でもない。
俺が居るのは――自宅だった。
既にここに来てから三十分前後は経っているため、家の捜索は終わっている。
ここまでに把握できたことがいくつかある。
まずこの家は自宅に似ているだけで、あくまでも自宅ではないということ。
その証拠にベランダから外を見ても真っ暗な空間があるだけであり、少し先も見えないほどのまっ暗闇が広がっていた。
多分だけどここは特殊な空間か何かになっているんだと思う。
家の中には一通りの食料が揃っており、試してみたところ、電気・ガス・水道のライフライン類は通っていること。
ただネット回線は通っておらず、動画やネット小説を読んだりすることはできない。
現在自宅に貯蔵されている食糧は無洗米の米が三十キロほどに大量の冷凍された肉や魚介類、そして母さんが買ってきた大量の激安ロールパンや賞味期限が切れかけのレトルト類もざっくざく。
父さんがふるさと納税をしまくり母さんが某会員制スーパーで買い物をしまくるタイプだったので、とりあえずしばらくの間食料には困らなそうだ。
これだけあれ余裕で一年……いや切り詰めれば二年はもつはずだ。
賞味期限とかは心配になるけどな。
しかし魔法の世界だからなんでもありと言われたらそれまでだが……至れり尽くせりだよな。
とりあえず色々と考えられる精神的な余裕ができた。
って、そういえば家の中の確認に夢中でまだステータスを見てなかったか。
「ステータスオープン」
鹿角勝
LV1
HP 120/120
MP 102/120
攻撃 25
防御 45
魔法攻撃力 78
魔法抵抗力 58
俊敏 20
ギフト
『自宅』LV1
スキル
光魔法LV1
火魔法LV1
水魔法LV1
土魔法LV1
雷魔法LV1
時空魔法LV3
これは、うーん……強いのか?
ゲーム的な感じならLV1時点でのステータスとしては高い気もするが、俺達は勇者として召喚されたわけだし、これでも一年一組全体で見たら下から数えた方が早い……なんてこともあるかもしれない。
ただ、魔法を既に六属性会得してるっていうのはすごいんじゃないだろうか。
時空魔法に関しては、既にLVが3まで上がってるわけだし。
というか、MPが既に減ってるな。
あれか、もしかして『自宅』のギフトって中に入ってるだけでMPを使うんだろうか。
だとしたら問題だな、ここらへんは要検証だ。
「しかし、魔法のスキルがあるって言っても、どうやって使えばいいのか……ってこうやって使えばいいのか!」
火魔法を使いたいと念じた瞬間に、まるであらかじめやり方を知っていたかのように自然に魔法の扱い方がわかる。
とりあえず家の中でぶちかますのはあれだから、バルコニーから外に目掛けて打つことにする。
「ファイアボール! ウォーターバレット! アースランス! ライトニング!」
LV1の魔法を放ってみるが……何も起こらなかった。
見ればMPも減少していない。
この空間では魔法が使えないってことなんだろうか?
「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」
とりあえずやけになって連打しようとするが、それでもまったく変化はなし。
どうやら自宅の中では魔法は使えないと考えた方が良さそうだ。
まあ自宅が便利すぎるからな、何かしらの制限があるのは当然っちゃ当然……
ぐぅ~~。
思考をぶった切るかのように、主張の激しいお腹の音が鳴る。
……そういえば転移前って、ちょうど昼飯時だったっけ。
さっきまでそれどころじゃなかったので気付かなかったが、かなりお腹が空いてるみたいだ。
鏡で見たら髪の毛もテッカテカだったし、一旦飯食って風呂入ってから今後のことについて考えることにするか。
「……あれ?」
風呂から上がり、MPはどれくらいのペースで回復するかを確かめようと再度ステータスを見てみる。
するとスキル欄に、風魔法LV1が新たに生えていた。
それに先ほど食事の間に回復したMPがまた減っていて、大体トントンくらいになっている。
この空間では新しい使えなかったはずだし、風魔法風魔法……もしかして。
一度洗面台に戻り、ドライヤーをコンセントに差し込んだ。
そして強風を出してみる。
再度ステータスを確認してみると……予想通り、MPが1減っていた。
「つまりこの自宅の中にあるものは、MPを消費させることで動いていると……」
おまけにあのドライヤーの件からもわかるように、ただ家電を動かすだけでどうやら魔法のLVを上げるために必要な経験値が溜まっていくようだ。
水を出して洗いものをしてから、再度米を炊く。
それぞれでMPが1ずつ減る。
どうやら何を使っても、MPは1ずつ減っていくらしい。
対して回復するMPは、およそ10分で1くらい。
家電なんてそんな頻繁に動かすことはないだろうから、とりあえずMP切れに関しては心配しなくても良さそうだ。
ただどうやら明かりは点ける度にMPを消費するみたいなので、点けっぱなしにしておくことにしよう。
一日かけて調べてみたが、どうやら待機電力や使用中の電力についても気にする必要はないらしく、本当にオンオフだけで判断をしているらしい。
なので暖房はつけっぱなしにしてもすぐに消しても消費MPは1で変わらない。
そして一日かけて、変化が起きた。
俺のステータスを見てほしい。
鹿角勝
LV1
HP 120/120
MP 112/130
攻撃 25
防御 45
魔法攻撃力 78
魔法抵抗力 58
俊敏 20
ギフト
『自宅』LV1
スキル
光魔法LV2
火魔法LV1
風魔法LV1
水魔法LV2
土魔法LV1
雷魔法LV2
時空魔法LV3
MPと光・水・雷魔法のLVが上がっている。
神様の説明では、MPというのは魔法を使い続ければ上がるということだった。
これは俺の推測だけど、家の中で各種電化製品を動かしたり『自宅』というギフトを使い続けているという状態が、魔法を使い続けていると判定されているんだろう。
つまり俺はただ普通に生活をしているだけで、魔法の練習をしているわけだ。
多分だけど、効率も良いはずだ。
普通に考えれば、スキルのLVってこんな簡単に上がるものじゃないと思うし。
「それならとりあえず自宅で引きこもりながら力を溜めて……十分に力をつけてから、外に出よう」
魔法と同様、『自宅』のギフトの使い方も既に頭の中には入っている。
この自宅から出る方法は一つ。
それは――玄関のドアを開けること。
ガチャリとドアを開けば、その先に広がっているのは異世界だ。
ちなみにどこに繋がっているかは、完全にランダムなようだ。
自分の任意の場所にドアを設置するためには、『自宅』のギフトのLVを上げる必要があるらしい。
この『自宅』は、いわば俺の城だ。
『自宅』には俺に対して害意を持つ生き物が入ることができない。
つまり何かあっても『自宅』に逃げ込んでしまえば、ついてくることはできないということだ。
「魔王が出てくるような世界観なわけだから、力が必要。でも可能なら、クラスメイトの皆との合流も目指したい……」
一瞬、脳裏にクラスメイトの姿がよぎる。
何度も家に来てくれた有栖川未玖さんの笑顔を思い出す。
彼女は異世界でも上手くやっていけているだろうか。
なんにせよ、この力があればクラスメイト達に快適な生活を提供することも可能。
まずは彼らと合流できるよう、強くなりながらギフトのLVを上げていくことにしよう。
――そして、一ヶ月の月日が経過した。
「よし……行くか」
父さんが着ていたインバネスを羽織りながら、俺は身軽なままドアノブに手をかける。
ずっと自宅で生活していたからなかなか開けられないかとも思ったが、別にそんなこともなく。
ドアは抵抗もなくガチャリと開く。
その先に広がっていたのは――草原だった。
なんだかちくちくしそうな尖った葉が並んでおり、遠くにはそれを食んでいる魔物の姿も見える。
ドアの設置場所を王国の首都近くのエリアに指定したおかげか、魔物の脅威度もさして高くはなさそうだ。
「行ってくるって言っても、またすぐに帰ってくると思うけど」
そう言ってドアの向こう側へ向かう俺の足取りは重い。
久しぶりに外に出るからか、身体がガチガチに緊張していた。
緊張をほぐすため、俺はこの一ヶ月間の成果を呼び出すことにする。
「ステータスオープン」
鹿角勝
LV1
HP 120/120
MP 604/618
攻撃 25
防御 45
魔法攻撃力 83
魔法抵抗力 61
俊敏 18
ギフト
『自宅』LV3
スキル
光魔法LV10(MAX)
闇魔法LV5
火魔法LV7
風魔法LV8
水魔法LV9
土魔法LV2
雷魔法LV10(MAX)
氷魔法LV5
時空魔法LV10(MAX)
正直半月くらい経って『自宅』のLVが上がった時点で外に行けるようにはなっていたのだが、出たくないという気持ちと可能な限りLVを上げておきたいという思いで、ずるずるとここまで伸びてしまった。
今朝俺の『自宅』のLVが3になったところで、一念発起して家を出る覚悟を決めた。
ここから俺の異世界生活が始まるんだ。
久しぶりに人と話すと思うと、なんだか緊張するな。
というかクラスメイトの皆は無事だろうか。
俺は少しだけぎくしゃくしながら、異世界への一歩を踏み出した――。
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