クラス転移したら、なぜか引きこもりの俺まで異世界に連れてかれたんだが ~俺だけのユニークギフト『自宅』は異世界最強でした~

しんこせい

第1話


 俺の名前は鹿角勝。

 どこにでもいる普通の高校生……ではないか。


 だって俺は、高校に行ってないんだから。


 といっても、別にいじめられたりしたわけじゃないんだ。


 学校に行かなくなった理由は……未だに自分でも上手く説明することができない。



 ――元々俺は、人間同士で競い合う今の社会の仕組みというやつがあまり好きじゃない。


 けど真面目に取り組んでいるだけで自然と成績は上がっていくから、勉強は比較的得意な方だった。


 だから俺は親の勧めに従って試験を受け、私立の有名進学校に通うことになった。


 高校生活はそれほどつまらないわけじゃなかった。

 けど一年生を半分ほど過ぎた頃、ある日突然思ったのだ。

 俺は本当にこのまま、一生戦い続けなくちゃいけないんだろうか……と。


 この世界は、競争でできている。


 高校受験で競い、大学受験で競い、就職活動で争いこれで終わりかと思ったら、次は会社の中で競い合い……。

 永遠に競争に身を置かなくちゃ、上に上がっていくことはできない。


 当たり前といえば当たり前なこの事実がどうにも上手く消化できずに、俺はあまり勉強をしなくなった。


 そして気付けば、学校に行かなくなっていた。

 どうにも争うのに疲れたというんだろうか。


 なので適当なところで退学し、高卒認定を取ってからそこそこの大学に行き、そこまで争わずとも生きていける公務員試験でも受けようかなと思っていた。


 けれどそんな俺の人生のライフプランは、一瞬で崩壊することになる。


 なぜなら俺は――ある日突然、クラス召喚に巻き込まれてしまったからだ。











「――というわけで君達一年一組の皆は、異界の勇者を呼び出すための勇者召喚の儀によってグルスト王国に転移することになったんだ。とりあえずここまでの事情は理解できた?」


「な、なんとか」


 俺の前で転移が行われるに至ったまでの事情を説明してくれているのは、二十代前半くらいに見える金髪の美少年だ。


 長い髪を一つにまとめたその姿は正しく、ヘレニズム期の彫像のように美しい。


 俺はハリウッド俳優も顔負けの丹精な顔立ちの彼と、なぜかちゃぶ台を囲んで話をしている。


 なんでも彼は世界を管理する、神様なのだという。


 といっても地球……ではなく、俺達が呼び出される剣と魔法の異世界アリステラを支配する神様だ。


「あ、もしよければお茶飲んでよ。せっかく入れたからさ」


「そ、それじゃあ……いただきます」


 ちゃぶ台の周囲には、真っ白い空間が広がっている。


 温かい二つのお茶が置かれているうちの一つを手に取る。


 よく見ると、茶柱が立っていた。


 ちらと向こう側の湯飲みを見ると、あちら側も茶柱が立っていた。


 なんていう確率だろうと思い驚いていると、それを見た神様がふふんと自慢げに胸を張った。


「どうかな、わかりやすいかと思って使ってみたんだ。これは『確率操作』といってね。簡単に言えば自分が弄りたいと思った事象の確率を変えることができるギフトなんだ」


「は、はぁ……」


 俺を見て神様は、はぁと小さくため息。


 ギフトって聞いたら普通の少年なら目を輝かせるんだけどな……って言われても、反応に困る。


「とりあえず事情はわかりました」


「おお、わかってくれたかい」


 グルスト王国は現在、魔王と呼ばれる魔物の王が使役する魔物による被害に苦しんでいる。


 これ以上の被害を防ぐために彼らが苦肉の策として頼ったのは、既に王家の伝承として残っているだけの勇者召喚の儀だった。


 わらにもすがる思いで発動させてみると……それが俺達獅子川高校の一年一組をまるごと転移させる召喚魔法として発動したのだという。


 神様がさっきその時の映像を見せてくれた。


 教室全体を覆うような巨大な魔法陣が生まれたかと思うと、俺の知っているクラスメイト達がまばゆい光に包まれていた。


「いくつか質問をしてもいいですか?」


「もちろん」


「そもそも数多のクラスがある中で、どうしてうちの獅子川高校の一年一組が選ばれたんでしょう?」


「それは君が一番わかってるんじゃないかな。簡単に言えば君たちのクラスには、才能を持っている子――英雄の卵達が沢山いる。それに、『勇者』適性を持つ聖川(ひじりかわ)和馬(かずま)君がいるっていうのも大きいかな」


「転移ときて次は『勇者』ですか……」


 聖川和馬――聖川財閥の跡取り息子で、成績優秀。

 サッカー部は彼の力でインターハイに出たし、全国模試の順位も一桁から落ちたことがないという。

 文武両道の権化のような人間だ。


 それに加えて人柄も良好と来たら女の子達が放っておくわけもなく、クラス内では既に和馬ハーレムが築かれていたりする。


 人生三周目とかじゃなくちゃできないだろってくらい、この世の全てを手に入れた男だ。


 血のつながっていない義理の美人妹を持ち、裸を見られたことで生まれたせいで許嫁として名乗りを上げている有名な武家の娘を持ち、それ以外にも何人もハーレム要員を抱えている。


 たしかに彼以外にも、俺達のクラスにはダンガ○ロンパかよと思うくらい才能のある人達が揃っている。


 どうやら俺達は彼の異世界適性が高すぎるせいで、一緒に異世界に連れて行かれることになってしまったらしい。


 いや、それはいい。

 いいか悪いかで言うと全然悪いんだけど、まあそこはよしとしよう。

 もっと重大な問題が目の前に転がっている。


「……俺、引きこもりなんですけど?」


「日本の引きこもり問題は深刻だよね。なんでも四十万人を突破したとかこないだニュースで言ってたよ」


「いや、そういう一般論は今はどうでもよくて」


 あの時クラスにいたクラスメイト達がまるごと転移するというのは、わかる。


 何せ引きこもっている間はすることもなかったら、よくネット小説とかを読んだりしてたし。

 そういう物語の中でも、クラスがまるごと異世界に転移したりすることはないではなかったからだ。


 けど俺はあの時、普通に自宅にいた。

 エアコンをかけながらポテチをむさぼり、今期の覇権アニメである『錚々(そうそう)たるシュトーレン』を見て、ああシュトーレン食べてぇ……と呟いていたのだ。

 どう考えても、あの召喚の魔法陣からは外れていたはずである。


「引きこもりであっても、君は一年一組。つまりはグルスト王国が使った勇者用の召喚魔法では、そんな風に判定されたってことだよ」


「……」


 つまり一応はクラスに在籍していたため、実際に登校していなくてもあの召喚魔法の効果に入れられてしまったということらしい。


 こんなことになるんなら、さっさと退学しておけば良かったと思っても後の祭りである。


 後悔先に立たずという言葉は、きっとこういう時のためにあるんだろう。


「どうやら納得いってないようだけど……一応僕は、君のことを助けるために、わざわざこうしてやって来たんだよ?」


「助けるため……ですか?」


「うん、君と勇者の召喚魔法の魔法陣は少しばかり離れすぎていたからね。最後まで魔法が発動したら魔力が足りず、君の上半身だけがアリステラに……なんてことにもなりかねなかった」


「怖っ! 上半身だけ異世界転移て!」


 俺の反応を見てケタケタと笑う神様。


 案外感情表現が豊かなようで、大笑いする彼の目尻には、わずかに雫が溜まっていた。


「あーおかし……まあでも、そんな風に魔法陣が不完全だったおかげで僕が入り込む隙間ができた。通常であれば勇者の召喚魔法は転移する際、魔法陣を通り抜ける時に自動でギフトが与えられるんだけどね。君の場合は魔法陣と僕の転移魔法によって転移することになるから、手動で設定が可能なんだ」


 今から行く剣と魔法の異世界アリステラには、ギフトという元から持っている先天的な異能が存在する。


 通常であればもらえる確率は千分の一以下らしいが、勇者召喚の魔法陣を通る場合それが100%の確率で付与されるらしい。


 ギフトの力が、異界の勇者が強いという伝承の理由ということだった。


 けれど俺の場合、あの魔法陣を完全に通ってはいないため、自動のギフト付与がない。 


 それをかわいそうに思った神様が、ゴッドパワーで好きなギフトを一つくれるというらしい。


「――ありがとうございます!」


「うんうん、お礼を言われると悪い気はしないね。ちなみに、これがギフト一覧だよ」


 そう言うとちゃぶ台の上に、一冊のノートパソコンが現れる。


 画面にずらーっと並んでいるのが、俺が取得できるギフトの一覧のようだ。


 どうやら検索や並べ替えまでできるようになっているらしい。


 とりあえずは上から見ていくか。


 えーっと……




『勇者』……使用不可

『覇王』……使用不可

『剣聖』……使用不可

『賢者』……使用不可

『聖女』(女性のみ)……使用不可




 えっ!?


 上の方に並んでいる明らかに強そうなギフトは、軒並み使用不可になっていた。


 悲しみに打ちひしがれながら顔を上げると、片目をつぶりながら神様が謝ってくる。


「ごめん、強制力的な問題で既に付与されてるギフトは選べないんだ」


 つまりこれらのギフトは、既に俺のクラスメイト達に与えられているということ。


 『勇者』が聖川和馬君。

 『覇王』は多分、和馬君の幼なじみの不良の御津川(みとがわ)晶(あきら)君。

 『剣聖』は和馬ハーレムの古手川(こてがわ)朱梨(あかり)さん。

 『賢者』は……誰だかわからないな。


 そして男の俺では取れない『聖女』も、既に誰かが取っているようだ。


 といっても、俺のクラスメイト達分なわけだから、付与されているギフトは合わせて三十。


 ギフトはとんでもない量の種類があるらしく、手のつけられていないものも山ほどあった。


「ちなみにギフトの中には、まったく使えないものも結構多いよ。君たちの世界で言うところの、ハズレアってやつ?」


「その単語は一部の界隈でしか使わないと思いますよ」


 けど……どうするのがいいんだろう。

 『龍騎士』や『召喚師』なんかは残っているものの中では明らかに強そうだ。


 そしてそういったゲーム的にいうところの天職みたいなものばかりじゃなく、『体力回復』や『火魔法』といったステータスや技能に補正をかけるものもある。


 『呪い耐性』なんかを持って呪いの武器を使いこなすなんて選択肢もありそうだ。


 ギフトの幅は、本当に広い。

 スクロールしてもなかなか終わりが見えないくらいに多様性がある。


 そして神様が言うとおり、明らかに外れなギフトらしきものも多数あった。

 この『爆発(膝)』ってどんなギフトなんだろうか。

 本当に膝が爆発するのか……?


「膝が物理的に爆発するよ。膝に爆発属性を足す感じだね」


「こ、心を読まれた!?」


「まあ神様ですから。読心術くらいはお手の物だよ」


 どうやら神様は結構寛大なようで、俺がする質問にも気軽に答えてくれる。


 ステータスオープンといえば自身のステータスや見れることや、向こうの世界での常識のことなんかも教えてもらうことができた。


 どうやらあちらの世界では、手に入れた能力はスキルという形で可視化されるらしい。


「たとえばこの『召喚魔法』と『召喚師』であればどっちを取った方がいいんでしょうか?」


「僕のオススメは『召喚師』だね、魔法系と天職系だと最終的には天職系が強くなるから。『召喚魔法』のギフトは召喚魔法がめちゃくちゃ達者になるギフトで、『召喚士』は召喚に関連する周辺領域の魔法や能力、技能を色々使えるようになるギフトだ。最初の数年は『召喚魔法』の方が強いけど、何年もやっていくと『召喚師』が総合力で上回るようになるよ」


 他の魔法関連のギフトもそうらしい。

 『火魔法』のギフトを取れば火魔法が達者になるが、『火魔法使い』のギフトを取れば火魔法を使うのに必要な周辺領域の能力も手に入る。


 ざっくり分けるなら最初にスタートダッシュをかけたいなら魔法系のギフトを、長いことやっていける自信があるなら天職系のギフトを選ぶといいらしい。


「ちなみになんですけど、召喚魔法を使って自分を地球に召喚したりはできますか?」


「うーん……魔王を倒せるくらいまで極めれば、いけなくはないかも。そこまで行った人がいないからなんとも言えないかな」


「地球のものを召喚することは?」


「それならできると思うけど……かなり鍛えても手乗りサイズくらいのものを持ってくるのが限界かなぁ」


 どうやら一度異世界に行ってしまえば、もう地球に戻ることは難しいらしい。


 そう言われると、急に異世界に行くということが現実味を帯びてくる。

 途端に身体がブルブルと震え、その振動がちゃぶ台とノートPCをガタガタと揺らしていた。


 いきなりハードモードすぎだろ。

 俺、ついさっきまで引きこもりだったんだぞ。

 自慢じゃないけど、ここ最近外に出たのだって先月コンビニにアイスを買いに行った時くらいなのに。


 話を聞いた感じだと、アリステラの国の文明は中世くらいで、街道にも盗賊や魔物が出現するみたいだ。


 いくらギフトが与えられるとはいえ、ぬくぬくとした現代日本で引きこもりをやっていた俺がすぐに順応してやっていけるようになるとは到底思えない。


 翻訳機能はついているって話だから言語の問題はないけど、それ以前の問題で俺が人と上手いことコミュニケーションを取れるかはかなり怪しいところだ。


 久々だから相手の目を見て離せないだろうし、そもそも挙動不審になる自信しかない。


「だ、大丈夫だって! 大抵の人はなんとかやってけるもんさ!」


「それってなんとかやっていけない人もいるってことですよね?」


「うぐっ、まぁ……中には志半ばで倒れる人とかも多い……かな?」


 神様の言葉を聞いた俺は、震える指先でなんとかキーボードを打ち込む。


 検索ワードは『引きこもったまま生活が可能なギフト』。


 あるわけないと思いながら一縷の望みにすがって調べたら――出てきた。



 現れたのは、隠しギフト『自宅』の文字。

 隠し……ギフト?


「隠しギフトっていうのは……ギフトを授かる瞬間に強い思い入れがある者だけが発現させることのできる、再現性のないギフトのことさ。『自宅』のギフトが出たのは……ええっと今から何百年前だったっけ……」


「これにします」


「――ええっ!? ちょ、ちょっと待って――」


 俺は神様からの制止を振り切って、カーソルをはいに合わせてクリックした。


 強力なギフトなんかいらないし、激戦に身を投じたいとも思わない。


 そもそもうちのクラスには『勇者』も『覇王』も『賢者』も『剣聖』も『聖女』もいる。

 俺なんかがわざわざ頑張って戦わなくても平気なはずだ。

 世界を救うのは、彼ら英雄の卵達に任せればいい。


 そう考えると少しだけ気分が楽になってきた。

 さっきまでより開けた視界で、ぐぐっと身体を伸ばす。


 すると自分の身体が透け始め、徐々に感覚がなくなっていくのがわかった。

 多分だけど、転移の時が近付いてきたってことなんだろう。


「――ああっ、もう! 隠しギフトを再現させるのは大変なんだよ!? 結構神力を使わなくちゃいけないし……まあやっちゃったことはしょうがないけどさあっ!」


「ご迷惑をおかけします」


「いいよっ! ただ僕も頑張るんだから、君もこのギフトを使って世界を救ってね!」


「……? 何を――」


「ふふ、一つだけ教えてあげるよ。以前このギフトを発現させた男はね――」


 なぜか楽しそうな顔をしている神様の言葉を最後まで聞き終えることなく、俺は意識を失うのだった。





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