第26話 バレました

 それから数日、キースが閉店間際の時間に顔を出した。


「もう終わりですか?」


 もうすぐウィスが遅めのランチにやって来る時間だ。


「キースさん! いらっしゃいませ。お食事ですか?」


「ええ、今日はなんだか来客が多くて昼飯を食べ損ねちゃったんです。それでここに来ればティアナさんにも会えるし、一石二鳥だなって思って」


 一気にティアナの体温が上がる。

 それを横目で見ながら、ララが笑いを堪えていた。


「どうぞ、もうすぐウィスも来るのでお時間さえよければご一緒しませんか?」


「時間はたっぷりありますから。ウィスはいつもここで食べているの?」


 ララが頷く。


「そうですよ。昼も夜もここで食べてます。彼は朝が早いので朝食は市場で食べているみたいです」


「羨ましいなぁ。やっぱり寮は止めてこの近くに部屋を借りようかな」


 ララが真面目な顔で言う。


「この近くの空き部屋を探してみましょうか? それとも部屋じゃなく一軒家がいいかな」


「一軒家だと管理が大変じゃない? でも騎士って意外と荷物が多いんだよね。制服も何種類かあるし、洗い替えもあるし、剣もかなりあるし、アーマーもあるしね」


 ティアナが笑いながら言った。


「部屋貸しの二階だと床が抜けますね」


 キースも笑いながら返す。


「そうだよね。私だけでもかなりの重量だし、やはり一軒家かな。でも管理がなぁ……」


 ランチ用のサラダを並べながらララが言った。


「だったら寮に住んで、この近くに部屋だけ借りてはどうですか? 外泊は自由なんだったら、荷物を寮に置いて、その部屋で寝泊まりすれば問題ありませんよ。ちょっと早く起きて寮に着替えに帰る必要はありますが」


「ああ、別邸を持つってことか。いいね、そういう人結構いるし。うん、いい。その方向で考えてみようかな」


「寮に入っているのに別の家を持っている人がそんなにいるのですか?」

 

 ティアナが聞く。


「半分まではいかないけれど、割と多いよ。さっきも言ったようにとにかく必要な荷物が多いんだ。それにもし盗まれでもしたら懲戒もんだしね。だから独身者や単身赴任者は寮が一番なんだけど、そこはね。やっぱりいろいろあるじゃない?」


 ララは納得したがティアナは小首を傾げている。

 キースがどう説明しようか悩んでいると、ウィスが入ってきた。


「お疲れさん、お腹ペコペコだ。ああキースさん、いらっしゃい」


 そう言うと慣れた手つきでティアナに花を渡すウィス。

 キースが不思議そうに聞いた。


「ウィスってララと付き合ってるんでしょ? なぜティアナちゃんに花を渡すの?」


 ウィスがキョトンとした。


「これはお店に飾る用の花です。代金はここで食う飯代で相殺してます。もちろん恋人にも花は贈りますが、アレンジが違うんですよ」


 キースが感心するように頷いた。


「では私もここで食事をさせてもらうなら、代価の他にも何か用意をしないとね」


 ティアナが慌てて言う。


「お代なんていりませんよ? 私たちの賄いは試験的に作ったものや残り物ですから。ウィスにも本当はお花代を払いたいところなのですが、受け取ってくれないから」


 ウィスが笑いながら言う。


「それを言うなら、売れ残った花を上手にアレンジして持ってきているだけだからね。明日の夜には店先で萎れてしまう花なんだ。それぐらいなら誰かに愛でて欲しいじゃない? だからお相子なんだよ」


 ララがどんどん料理を運んでくる。

 今日は予定よりお客様が少なかったので、賄い料理が豪華だ。


「さあキースさんも座ってください。今日はミートローフサンドイッチと白身魚のグリルです。香草は教会の裏庭で育てているものなんですよ」


 四人の前に紅茶が並び、食事が始まった。

 ウィスもララもいつも通りモリモリ食べる。

 キースは数秒だけ様子を見た後、遠慮なく自分の皿に料理を取り分けた。


「はい、ティアナちゃんの分。自分で作ったんだからちゃんと食べないとね」


「ありがとうございます。キースさん」


 一口食べて感心したようにキースが言った。


「とてもおいしいよ。あの立場の人がなぜこれほどの腕なんだ?」


 ティアナは食事をしながらぽつぽつと昔話をした。


「でもオース家と言えば隣国の名門伯爵家で、この国にも支店を持つほどの大商会主だ。その娘である王女様が貧しかったっていうのはおかしくない?」


 ティアナがアッと手で口を押えたがもう遅い。

 ララが助け舟を出した。


「キースさん、後でちゃんとお話しします。今は食べましょう」


 四人は再び食事に集中した。

 食後のデザート代わりに林檎を向いて、紅茶を淹れ変える。

 リンゴの皮とミントを入れたアップルミントティーだ。


「もし私が聞かない方が良いなら、無理には言わないでいいよ。でも私もティアナちゃんを守りたいって思っている人間の一人だということは忘れないで欲しいな」


 ティアナがララを見た。

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