第17話 準備
翌朝、スッキリとした頭で目が覚めた。
前の世界の事を夢で見たりするのかと思ったが、そんな事は一切無い。
実の親ではなかったとはいえ、十七年も育ててくれた両親の事ですら夢で見ないなんて、なんて薄情なんだろう。
それどころか顔や声ですら曖昧になってしまっているなんて、異世界転移の弊害なのかしら?
ベッドの中でモゾモゾしていると、
「アリス様、お目覚めですか?」
と、侍女から声をかけられた。
私の返事と共に天蓋の幕が開けられて、顔を洗う為のお湯が用意される。
洗面台がないから仕方がないとはいえ、こうして用意されるのも気が引けるわね。
かと言って右も左もわからない世界でこのお屋敷から放り出されても困るんだけど…。
明日、国王様に会ったら、ガブリエラさんにこのお屋敷で働かせて貰えるようにお願いしてみようかしら。
昨日、仕立て屋さんが持ってきてくれたブラジャーの試作品を身に着けて、ちょっと気分が落ち着いた。
ノーブラは楽だけど、胸の突起が気になって仕方がないのよね。
身支度を終えて食堂に向かうと既にガブリエラさんとエイブラムさんは食卓に着いていた。
「おはようございます。遅くなって申し訳ありません」
「おはよう、アリス。気にする事はないわ。それじゃいただきましょうか」
エイブラムさんはお仕事はお休みだけれど、食事の後は王宮に行って剣の訓練をするらしい。
今日一日一緒に過ごせるかも、と思っていたからちょっとがっかりだわ。
だけど今日はマナーの練習があるのだから、それにエイブラムさんを付き合わせるのは申し訳ないわね。
「それでは、母上。支度があるのでお先に失礼します。それじゃ、アリス、またね」
エイブラムさんは先に席を立つと食堂から出ていってしまった。
その姿を目で追って、エイブラムさんが消えた扉を見つめていると、フッとガブリエラさんの笑った声が聞こえた。
慌てて姿勢を正すとガブリエラさんが微笑ましいものを見るような目をしているのが目に入った。
エイブラムさんの事が気になっているのがバレバレみたいなんだけど、ガブリエラさんはそれには触れてこない。
マナーの先生が来られるまで自室で読書をする。
あ、ガブリエラさんに『ヒール』が使える事を伝えるのを忘れていたわ。
マナーの先生にはお辞儀の仕方や、お茶会でのマナー等を教わった。
漫画なんかでカーテシーの場面を読んだ事があるけれど、実際にやってみると結構大変なのね。
歩き方の最終チェックもして貰って何とか及第点をもらえたわ。
午後遅くになって仕立て屋さんがドレスが出来上がったと届けに来た。
「お待たせいたしました。こちらがアリス様のドレスになります」
そう言って仕立て屋さんが取り出したドレスが、仮縫いの時より豪華になっているように見えるのは気の所為じゃ無いわよね。
いくら国王様に会うとはいえ、こんな豪華なドレスを作って貰っていいのかしら?
本当に下着の特許料だけで賄えるとは思えないんだけど、本当に大丈夫なのかしら?
「それから、アリス様が発案されたブラジャーと下履きですが、既に何人かの貴族の方からご注文を頂きました」
私の心配は無用だったみたいで、貴族の方に受け入れられたみたいね。
ドレスのデザインによってはパット付きのドレスにしてもいいものね。
夕方に戻って来たエイブラムさんとまた三人で食卓を囲む。
正面に座って食事をするエイブラムさん、いくら見ていても見飽きないわ。
でもあんまり見ていると変に思われるから、其の辺の加減が難しいわね。
ガブリエラさんの意味ありげな微笑みも気になるんだけど。
夕食を終えて自室に戻り、お風呂の支度が出来るのを待っていた。
明日はいよいよ王宮に向かうのね。
ゆっくり休んで万全の体制で臨まなきゃ、ガブリエラさんとエイブラムさんに恥をかかせてしまうわ。
私はお風呂を終えると早々にベッドに潜り込んだ。
これがこのお屋敷で過ごす最後の夜になるとは知らずに…。
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