第8話 身の上話

なんじゃこりゃー!


 流石に口に出しては言わなかったけれど、心の中では思いっきり叫んでいた。


 私の髪がシルバーブロンドになった事…ではなく、カラーリング剤がすべて落ちてしまった事に対してである。


 昨日の夜に染め直したばかりだから、多少の色落ちはあるかもしれないけど、全落ちなんて有り得ない。


 そう。


 私は自分の髪の色がシルバーブロンドである事を知っていた。


 だけど、こんなにも紫がかっているとは知らなかったんだけど…。


 慌てふためく私や侍女達とは違って侍女長は流石に落ち着いたものだった。


 内心は同じように慌てふためいていたかもしれないけど、流石プロだわ。


「アリス様。この御髪については後ほど奥様にご説明をお願いいたします。さあ、皆さん。手を止めないで続けますよ」


 私はもう一度横に寝かせられ、髪を洗われた。


 再度湯船に浸かって体を温め終わると風呂からあがった。


 体を拭かれ下着を付けさせられたんだけど…。


 これが驚く程に何とも色気のない下履きである。


 短パンのような形でゴム紐ではなく普通の紐でウエストで縛る形だ。


 道理でパンツまで皆が興味津々で見ていたわけよね。


 当然ブラジャーも無く、キャミソールみたいな肌着を着せられ、その上からドレスを着せられた。


 ノーブラなんて小学生以来で恥ずかしい事この上ないんだけど。


 胸の突起が目立ったりしないわよね?


 ドレス自体は可愛らしいピンクのシンプルな作りだった。


 ガブリエラさんが昔着ていたものかしらね。


 最後にタオルで包まれていた髪が下ろされ、侍女の一人が一瞬で乾いた状態にしてくれた。


 …この世界の人ってみんな魔法が使えるのかしらね。


 乾いた髪もブラシで綺麗にくしけずられ、見たこともないほどツヤツヤとしている。


 私の髪ってこんなに綺麗だったのね。


 自分の髪をつまみ上げて思わずしげしげと眺めてしまったわ。


「アリス様。少しお顔を上げていただけますか?」


「あっ、はい」


 呼びかけられて顔を上げると、軽く化粧をさせられた。


 …これが、私?


 化粧のせいなのか、髪の色が違うせいなのか、ドレスを着ているからなのかはわからないが、まるで印象の違う自分が鏡に映っている。


「お綺麗ですわ、アリス様」


 侍女達がうっとりとした目で私を見ているのが妙に恥ずかしい。


「アリス様。よろしいですか? 奥様がお待ちですので…」


 侍女長に促されてまた先程のサンルームに向かう。


「奥様。アリス様をお連れしました」


 侍女長が扉を開けて私を中に入れてくれた。


 本を読んでいたガブリエラさんが顔を上げて私を見た途端、凍りついたように固まった。


「…クリス…」


 クリス?


 誰かに似ているのかしら?


 口を開こうとした所でガブリエラさんは、ハッと我に返ったように優雅な微笑みを浮かべた。


「まあ、よく似合うわ。流石にもう可愛い色を着れるような歳ではなくなったから、しまいっぱなしにしていたの。ところでその髪の色はどうしたのかしら?」


 侍女長に促されてガブリエラさんの前に腰を下ろすと、やはり髪の事に触れてきた。


 聞かれて当然だけどね。


 気付かない人がいたら顔を見てみたいわ。


「私は元々こういう色の髪なんです。ただ私の国では黒い髪が普通なので、黒に染めていました。私は捨て子だったんです」


 私はへその緒がついた状態で籠に入れられ、公園に捨てられていた。


 通りかかった両親が見つけて警察に届けたが、身元は分からず仕舞いで両親が育ての親となった。


 髪の色は元々シルバーブロンドだったらしく、アルビノかと思われたが、医者の診断でそうではないとわかったらしい。


 初めは染めずにいたが、幼稚園でいじめられて黒に染める事になった。


 幼い子供にカラーリング剤を使う事に両親は抵抗を覚えたらしいが、私が泣いてせがんだらしい。


 高校を卒業したら髪の色は好きにしていいと言われていたけど、まさかこんな色だったとはね。


 私が捨て子だとは両親から聞かされたわけではない。


 両親は私が高校を卒業するまで黙っているつもりだったらしいけど、何処にでもお喋りな親戚っているものよ。


 母親の祖父の法事で他の親戚が陰話をしているのを聞いちゃったんだ。


 親にも親戚にも似ている人がいないから薄々感じてはいたけどね。


 だけど、育ててくれたお礼も言わないまま、こっちの世界に来ちゃって、両親には申し訳ない事をしちゃったな。


 ごめんね、パパ、ママ。


 育ててくれてありがとう。


 淡々と話す私にガブリエラさんは真剣に聞いてくれた。


「そう。あなたの身の上はわかったわ。…ところでこれの事なんだけど…」


 そう言ってガブリエラさんが、ぱっと目の前に広げたのは…


 私のパンツだった!!

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