第2話 出逢い

 グニャリとした感触が気持ち悪くて思わず目を瞑った。


 持っていたはずのカバンは何処に行ったのか、手ぶらになっている。


 柔らかい地面を踏んでいるようだった足元が、何処かに着地したような感覚を覚えて目を開けた。


「…ここは何処なの?」


 先程までの住宅街は消え去り、目の前には中世の田舎町のような建物が並んでいる。


 だが、その建物はあちらこちらで窓や扉が壊されたり、火事になって燃えている家もあった。


「一体何があったの?」 


 まるでこの地で襲撃か戦争でもあったようだ。


「誰かいないの?」 


 ぐるりと辺りを見回すが、人影は何処にも見当たらない。


 今通って来たはずの電柱も何処かへ消え失せている。


 所々に倒れている人が見えるが、着ている服が血にまみれているのをみると襲われた人達だろう。


 生きているのか、死んでいるのかは遠目ではわからない。


 どうしてこんな所に来ちゃったの?


 あのまま健斗と一緒にいれば、こんな所に来なくてもすんだのかしら?


 思わず泣きたくなったけど、泣いたってこの現状から抜け出せるとは限らない。


 とりあえず誰か探してここが何処なのかを知るべきだろう。


 そう決意した私は人を探して歩き始めた。


 歩き出した私の背後から人の声が聞こえた。


「おやぁ? こんな所に女がいるぜ」


 良かった。


 生きてる人がいたんだ。


 ここが何処なのか聞いて、それから…。


 そう思い振り返った私は愕然とした。


 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている三人の男達はどう見ても善良な人達には見えなかった。


 着ている服にはあちこち血が付着していて、ゲームとかで見るような剣を手に携えている。


 その剣が血にまみれている以上、どう見たって悪い奴らにしか見えなかった。


 …逃げなきゃ…。


 そう思うけれど足が竦んで走り出す事が出来ない。


 それでも何とか足を動かして少しずつ下がるけれど、男達はずんずんと私との距離を縮めてくる。


「変わった服を着てるな。お前何処から来たんだ? この村のめぼしい女は皆攫ったと思ってたがまだ残ってたのか?」


 女を攫った?


 つまりこの男達は人攫いの集団なの?


 倒れている人達は女性を守ろうとしてこの男達にやられたって事なの?


 クルリと背を向けて走り出そうとした私の手を男の一人が掴んできた。


「いやっ! 離して!」


 振りほどこうとしてもガッチリと腕を掴まれていて離れない。


 すると別の男がもう一方の手を掴んできた。


「なかなかいい女じゃねえか。ちょっと俺達で味見してやろうか」


 味見って、もちろん普通に「食べる」の意味じゃない事くらい私だって分かる。


 こんな男達に純潔を散らされるなんて、死んでもお断りだ。

 

 だけど今の状態では、死のうにも死ぬ事が出来ない。


 よく「舌を噛み切って死んでやる」という台詞があるけど、舌を噛んだくらいじゃそうそう死ねないらしい。


 それに即死じゃないから、死ぬまでの間にこの男達に好きにされてしまいそうだ。


 こういう時、小説や漫画ならばヒーローが現れてヒロインを救い出してくれるのにな。


 だけど現実は甘くない。


 そんなに都合よくヒーローなんて現れないし、大体私はヒロインでもなんでもない。


 抵抗も虚しく男達に半壊になった家に連れ込まれ、ベッドの上に押し倒された。


 そのベッドも板の上に薄い布団を敷いたような粗末な物だ。


 …あのまま地面に押し倒されるよりはマシだけど、あんまり嬉しくないわね。


 ブレザーの前をはだけられ、ブラウスのボタンを飛ばされた。


 露わになったブラジャーに男が目を丸くする。


「おい、何だこりゃ? 変わった下着を着けてるな」


 …ブラジャーを知らない?


 未開の地ならともかく、この村はそんな印象は受けない。


 こうしてベッドまであるんだからそれなりに発達しているはずだ。


「そんな事はどうでもいいからさっさとしろよ。後がつかえてるんだぞ!」 


 私の横で手を抑えている男が怒鳴ると、私にのしかかっている男は私のスカートを捲り上げた。


「いやー! 誰か助けて!」


 無駄とはわかっていても叫ばずにはいられなかった。


 男が私の下着に手をかけた瞬間、クワッと目を見開いて私の上に倒れ込んでいた。


 お、重い…。


 だが、その男の背中に剣が突き刺さっているのが見えて目を見開く。


「何だ、お前! グワッ!」


 その背中の剣が引き抜かれて他の二人の男が切り倒される。


 自由になった手でのしかかっている男を横に転がして起き上がると、長身の男が剣を手に立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る