第22話 お節介な男

 キャロルは、咄嗟に俯いてその場をやり過ごそうとヒューの横をすり抜けて立ち去ろうとしたが、手を掴まれてしまう。


「お前、こんな時間に何やってんだ!」

「あなたには、関係ないでしょ!」

「女将さんたちに頼まれているのに、関係ないってことはないだろうが!」


 ヒューは、キャロルを見逃してくれそうもなく言い募る。面倒な男に見つかってしまったと苦虫顔だ。


「ちょっと出かけていただけよ。私だって、夜の付き合いがあったっていいじゃない」

「こんな遅い時間に、一人で帰らせるような男と付き合っているのか?」

「どうして男の人と会っていたことになるのよ?!」


 ヒューの目が、どうしょうもない者を見る目に変わる。


「違うなら、何をやっていたんだ?」

「だから、どうしてあなたに一々説明しないといけないのよ!」

「だったら、女将さんと旦那さんに話をするからいい」


 そう言って、ヒューがサティオの方に歩いて行こうとする。この男、一体なんなのよ? こんなにお節介なやつじゃなかったはずなのに!


「ちょっちょっと、やめてよ。女将さんたちに心配かけたくないのよ!」


 キャロルは、ヒューの背に向かって叫ぶ。それを聞いたヒューは、立ち止まりキャロルの方に向き直る。


「どう言うことだ? 怪しいことでも始めたのか?」


 ヒューが、眉根を寄せて怪しんだ顔でキャロルを見る。完全に、キャロルを疑ってかかっている。


「どうして怪しいことだなんて決めつけるのよ! ただちょっと、夜の仕事を始めただけよ」


 キャロルは、ヒューの目を見て睨みつける。この男に、そんな風に言われる筋合いはない。


「夜の仕事だと? お前、体を売ってるのか?」

「だから、どうして悪い方に解釈するのよ! 居酒屋で給仕しているだけよ」


 ヒューは、キャロルの言葉を信じてないのか疑わしそうな視線を向けている。


「本当だってば。どうしてもお金が必要なのだから仕方ないでしょ!」

「この目で確かめるまで、信用ならん」

「じゃー、どうしろって言うのよ」

「明日、俺も付いて行く」

「なっ。どうしてあなたがそこまでするのよ。関係ないって言ってるわよね?」

「俺には、お前を監視する役目がある。この街で良からぬことをされたら敵わないからな」

「そんなことする訳ないじゃない」


 キャロルは、段々と怒りがふつふつと込み上げてくる。これ以上、言い合ったら自分が何を言うかわからない。落ち着こうと、大きく息を吸った。


「わかったわよ。明日も仕事だから、そこまで言うならついてくればいいじゃない。夜の八時に店を出るから、来るならここで待ってて。女将さんたちに言ったらしょうちしないから!」


 キャロルは、それだけ言うと今度こそヒューを振り切ってサティオに足を向けた。今度は、ヒューが付いてくることはなく店まで無事に辿り着く。

 できるだけ音を立てずに、裏口を開けて中に入る。室内は静まり返っていて、既に女将さんたちは寝ているようだった。


 キャロルは、静かに階段を上り自分の部屋へと入る。見つかることなく、自分の部屋にたどり着いたキャロルはバタンとベッドの上に突っ伏す。

 一気に安堵感が広がる。流石のキャロルでも、夜に一人で街を行き来するのは緊張するものがあった。

 しかも、帰りにはヒューにばったり出くわしてしまい心臓は今になってバクバクと音を立てている。


「もうすぐそこだからと思って油断したー。明日どうしよう……」


 キャロルは、ヒューがどうしてあそこまで自分に突っかかってくるのか不思議だった。お店に連れて行ったところで、納得してくれるのかもわからない。

 女将さんたちに知られて、夜、外出しづらくなったらとても困る。考えると頭が痛いが、ヒューのことをどうするかいい案は浮かばなかった。




 翌日、朝起きていつもと同じようにサティオでの一日を過ごす。女将さんたちに、夜お店を抜け出したことがバレていないか若干の不安があったのだが、別段特に変わったこともなく大丈夫だった。

 しばらくは、何か言われるかもしれないと緊張感を持っていたが、お店が忙しくなるとそのことはすっかり忘れていた。

 お昼の一番忙しい時間が過ぎて人心地付いたところで、ヒューの案件を思い出す。なんとか穏便に済ませられないか考えるが、全く良い案が浮かばない。

 良案が思いつくことなく、出かける時間が来てしまう。仕方がないと夜の準備を始めた。昨日と同じように、グレイのマントを被る。

 耳を澄ませて誰も一階にいないことを確認し、音を立てないように階段を降りて裏口へと向かった。今日も女将さんたちに見つかることなく、店を出ることに成功した。


 キャロルは、無事に店を出られたことは嬉しいのだが、やはり黙って店を抜け出すことに少しの罪悪感を覚える。毎日、こんな罪悪感を引きずりながら店を出るのかと思うと心が重い。頃合いを見計らって、女将さんや旦那さんに話さなければいけないだろうなと考えながら道を歩いていた。

 すると、昨日約束した場所にヒューが待ち構えている。


 ほんのり忘れてくれないか期待していたが、そんなに甘くはなかったみたいだ。


「本当に来たな」


 疑わしそうな目で、ヒューがキャロルを見ている。


「嘘ついたってしょうがないじゃない! 時間がないから行くわよ」


 キャロルは、ヒューの横をスッと通り過ぎて居酒屋レストへと向かう。もう店に行くのも三度目なので、悩むことなく道を進んで行く。

 そんな彼女の後をヒューは黙ってついて来る。二人とも、言葉を交わすことなくひたすら黙って歩く。

 キャロルは、グレイのマントを深く被っているのでそこまで目立つことはない。ヒューも、夜の見回りをしていると思われているのか道行く街の人から不審な目で見られることもなかった。


 キャロルは、店に着いたら一体ヒューがどう出るのか色々なシミュレーションをしていたが、考え過ぎて疲れてしまい途中でなるようになると半ば開き直っていた。

 そうこうしている内に、居酒屋レストに到着する。


「このお店よ。これでわかったでしょ。もういいかしら?」


 キャロルは、鬱陶しそうにつぶやく。


「この店なのか?」


 なぜか、ヒューが驚いた顔をする。


(何でそんな表情するのよ?)


 キャロルが疑問に思った瞬間、ヒューが突然店のドアを開けて中に入ってしまった。


「えっ? ちょっと待ってよ」


 慌てて、キャロルも後に続いた。

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