第24話 花と水面

 ふたりが去った後、その場にゆっくりと歩いてくる男の姿があった


「まじか……割と頑張って作った奴なんだがなぁ……」


 山賊の死体……それを男は片手でつまみ、掘り投げる


 途端、それは失い、土塊となって消えていく


「まあ、こんなもんか……うーん……ただの土塊には無茶をさせるもんじゃ無いなぁ……」


 ゆっくりと、彼らの通った道を眺める。


「まぁ、この程度ではあいつの力は測れないか……ある程度の話を聞いてはいたけど………凄まじいな……アイツも……メイも……」


 ──男は苦笑いをしながら近くの木に触れる


「兵力生成」


 木があっという間に人型に変化していく。

 それは先程倒された土塊と同じ兵士へと変化する


 ─するが


「……やっぱやめとくか……これ以上ちょっかいをかけて殺されるのごめんだからな」


 再び木はただの木に戻る。


 男は賢かった。男は異世界に来てから1度たりとも油断したことが無かった


 男はいつだって勝てない戦には手を出さない



 彼の名は『畑山 龍樹』誰が呼んだか……『将軍』……と、言われている


「いやぁ……やっぱり、戦は勝たないと……ね」


 彼はただ、楽しい戦をするのが趣味だ。この世界は彼にとってただのに過ぎない。




 ◇◇



「で?……どうだったぁ?!あいつらは強そうだったの?!」


 龍樹はどうでも良さげに、聞いてきたやつに返す


「─雑魚だね……全く強くない……むしろなんで他の奴らが負けたのか分からないくらいに……な」


 聞いてきたやつ、つまりは

『岩清水 冷華』もとい、ミズカ……は高らかに笑う


「アンタの戦力を見抜く目に狂いがないことぐらい知っているさ!…………ならあたしはどうやって殺せば…コウキ様に見てもらえるかしらァ!」


 そう言って、狂ったように笑うミズカを眺めて


 龍樹は心の中でつぶやく


「(……さてと……この戦いは俺を楽しませてくれる……よなぁ?)」


 彼は死ぬほど性格が悪い。そして、誰よりも頭がおかしい


 彼は自分でわざと見に行くことを志願したいや、正しくは


 自分の言葉を信じるバカがどんな最後を見せてくれるのかを期待していたのだ


 ◇



 ミズカと別れたあと、龍樹は地図を取り出してそこにメモを書き込み始める


 今回、ミズカに貸し出した兵力はざっと30000。その程度なら間違いなくあいつらに倒されるだろう


 だが、それはさしたる問題では無い。

 所詮ゴミクズの死体で作ったものだ、倒されればただの死体に戻るだけ。


 それに水の兵士も倒れればただの水に還るだけ


 俺はあの手紙が届いた瞬間から、1度も警戒を怠ったことは無い


 いや、正確にはもっと前からだ。あいつが追放されたその時から戻ってくることを想定していた


 何故他のみんなはあいつを追放しただけで満足していたのか

 それが俺には理解できなかった


「あいつは間違いなく……勇者、だぞ?」


 俺は辺りに人がいないことを確かめて、そうつぶやく


 そうだ。勇者になれるような奴を追放するようなクラスメイトなんだ……バカ以外の何物でもないはずだ


 ならば、最高の戦を見れるかもしれない。そう、俺は思ったんだ


 ◇




「どう思う?……どう見てもあれ誰かの差し金だよな」


 俺はメリッサの言葉をどうでもいいと言う感じに


「あ〜あれなぁ……まあほっといてもいいかなって……どうにもあれは俺を殺すような奴に感じないんだよね……」


 そう言って手を振る


 ──俺だってあの盗賊が人ではないことぐらい知っていた

 だが、あえて乗っかってやる事にした


 ……多分、こんなことをしてくるバカはどうせ龍樹ぐらいだろう……まああいつなら無視していい


「……んで?……そろそろ着くぜ?……お、見えてきた!」


 俺たちはそうして、その大きな市場にたどり着く


 ◇



「いらっしゃい!ここの魚が美味いぜ!」


「安いよ!安いよー!この酒もおまけでつけとくぜ!」


「5ルークスでまけてくれ!」「ダメだ!10ルークス!」


「だーから!これが」



 人、人、人人。……埋め尽くすほどの人がいた


 ──本当に沢山の人で賑わっていた


「おいはぐれんなよ〜ってもう見えねぇし!」


「私もそろそろ人型に戻っていいですか?……」


「ボクもいいかい?」


 俺は2人を元の姿に戻す。


 途端、ラジエルは近くの魚屋に走り出し……


「これみてください!本でしか見たことの無い魚!ですよ!……ぅぇ……思ってたより何か……グロテ……」


「ボク的にこの貝ってのに興味があるんだよ」


『あ〜アザトースの元ネタってこれですか……』


 俺は他の奴ら(アビスを除く)の首を掴むと


「今回はただ、鰹節を買いに来ただけなんだ……から着いてこいよー」


 不平不満を口に出しながらも、他の奴らは渋々着いてくる。


 なんと言うか、みんな微妙に人間に触れて人間味が増した気がする。


 ──気のせいだろうか?


 ◇



「あったぜ!鰹節!……いやぁこれよこれ!これがないと……味噌汁は始まらねぇんだよなぁ!」


「待て、カツオ?カツオがいるのかよ……?」


 俺はふと疑問に思う


「いるぜ?……川にな」


「……川?」


 俺はそれは見過ごせなかった

 ◇


「……うん……本当にすごいね……これ」


 俺は久しぶりに唖然とする


 俺は今近くの川に来ているのだが……そこにはどう見ても場違いなの群れ……というか、カツオの滝登り?

 的な何かを見せられていた


 ……そうかあ……異世界ってまじで異世界なんだなぁ……


 俺は久しぶりの異世界節を感じていた


 さすがに終末世界でもカツオは……いや、そもそも終末世界にはカツオ……なんぞ絶滅していたっけなあ


「……あれを叩き殺した奴を、『カツオの叩き』って言うらしいぜ?……」


「それ称号なのかよ!?……なんで異世界ってこうもぶっ飛んでんだよ……」


 なんだろうな……20億年生きたけどこう考えると案外想定外はあるんだなぁ……


 俺は目の前でばちゃばちゃ跳ねているカツオを呆れた目で眺める




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