8.紅白戦を終えて
「どうだった? 紅白戦は?」
俺は紅白戦を終え、家に帰宅した。そして父さんから今日の紅白戦について訊かれた。
「お父さん、公園でキャッチボールしない?」
俺と父さんは公園に向かい、そこでキャッチボールをした。しばらく無言でチャッチボールを始め、俺は意を決して父さんに気持ちを打ち明けた。
「お父さん、俺プロ野球選手になりたい!」
「なんでだ?」
「後悔したくない! それに一番のピッチャーになってすごい打者から三振を取りたい!」
俺の素直な気持ちだった。転生をした
「司の球から本気が伝わってくるよ。俺は応援する。もちろんお母さんもな」
「ありがとう! お父さん!」
俺は人生の目標が決まった。その次の日、高史と莉子にもそれを伝えた結果、二人共一緒にプロを目指してくれると言ってトレーニングをしてくれた。俺の第二の人生が今始まった。
■■
「剛、どうだった?」
「野神との打席は面白かった」
俺は息子の剛に今日の紅白戦の感想を聞いていた。結果だけ見ると3-7の圧勝だったが、内容の中には興味深いものをあった。
(野神君、あれはすごい投手になる。ベンチから見ていても小学2年生とは思えない伸びをしていた。それに球速も90キロ後半は出ていたはずだ。特に剛に最後に放ったストレートは一級品と言わざるを得ない)
剛もそう思ったのか、紅白戦が終わってからすぐに素振りをし始めた。心なしか楽しそうだった。剛は野球の才能がある。その才能のせいで、周りについてこられる子供がいなかった。それに剛の要求に答えてくれるピッチャーも。
「よかったな、剛」
「何が?」
「競う相手が居てってことだ」
ライバルのいない孤高の選手というのは悲しいと俺は思う。それにライバルが近くにいることで、練習に気合が入る。剛はあんまり感情を出さない奴だが、野神君に触発されているのは間違いなかった。
(楽しみだな、二人の成長が・・・)
元プロ野球選手として新たな芽の成長を喜んだ。
■■
「高史、今日この後受けてもらっていいか?」
「あぁ、もちろんいいぞ。ストレートのチェックか?」
「いやカーブだ」
俺は小学3年生に上がり、変化球に挑戦をしていた。もちろん、監督とコーチにも許可をもらっており、肘や肩、靭帯に怪我のないように留意することを口酸っぱく言われた。
「カーブって、お前いつの間に覚えたんだよ」
「覚えたと言うか、動画で見た」
俺の生まれた時代は前世で死んだ時と同じようにネットがかなり普及している時代だった。なんでも検索すれば出てくるし、SNSなんかでプロ野球選手が自分の変化球を解説している動画もある。俺は家のパソコンを使い、それでカーブの握りを覚えた。まだ実践では投げていないが。
「動画でって・・・じゃあまだ投げていないんだな。準備するから待っていてくれ」
「ちょっといいか、野神」
俺と高史が話していると磯辺君が俺達に話しかけてきた。磯辺君はすでにキャッチャープロテクトとミットをつけていた。
「俺はもう準備が出来ているよ。俺が受けてあげるよ」
「おい、磯辺」
「川谷、お前はもっと守備の練習をしたほうがいいんじゃないか。フィールディングがまだまだだろ?」
「俺はキャッチャーだ! まずはリードのことを考えているんだ! 監督にも許可をもらっている!」
高史と磯辺君はちょっと仲が悪い。理由は同じキャッチャーというポジションを希望しているからだ。俺の見た感じでいうと正直磯辺君の方が一歩リードという感じだった。ただ彼は足が速いので、別のポジションの方が輝けると思っている。
「あー磯辺君。俺先に高史と約束しちゃったから、高史と練習しようと思う。ごめんね!」
「・・・そうか、わかった。でもいつでも俺に声をかけてくれ。君のボールを受けて損はないから」
磯辺君はそう言うと、下級生のピッチャーの元へと行った。俺はコーチに事情を話し、マウンドで高史とカーブの練習をした。
「どうだ! 俺のカーブは!」
「・・・」
高史は無言で俺にボールを返した。そして高史は右打者のアウトコース低めを要求した。俺はそのミット目掛けてカーブを投げたが、手前でワンバウンドしてしまった。
(やっぱりコントロールはまだ無理か。こりゃ投げ込みが必要だな)
俺がそう思っていると高史が俺の元へ来た。
「なぁ司。お前本当に初めて投げたのか?」
「あぁ。握りは何度か家でやって、イメトレもしたけど、投げるのは初めてだよ」
「・・・そうか」
「なにか問題でもあったのか? だったら教えてほしいんだけど・・・」
「いや、特にはない。あとは投げ込んで練習すれば使い物になると思う」
高史はなにか考えたような素振りをしたが、何でも無いようなので、俺達は通常のトレーニングに戻ることにした。
■■
(初めて投げてあの精度か・・・)
俺は風呂で今日のことを思い出していた。司がカーブを投げたいと言ったのでそれを受け、驚愕した。初めて投げたというカーブは右打者に当たるという軌道だったが、途中で大きく垂直気味に変化をして低めギリギリに収まった。バックドアという軌道だった。
(どうやらまだあの方向しか上手く投げられないようだけど、上手く行けばインコースからボールゾーンへ行く、フロントドアもできるだろう。あいつのストレートと合わせれば滝上先輩も三振にできるかも)
あの滝上先輩が三振するのは想像できないが、司なら可能だと思った。
(俺も頑張らないと! 置いていかれてたまるか!)
俺は決意を胸に風呂から上がった。
■■
「磯辺先輩! 行きます!」
「こい!」
俺は小1のピッチャーの相手をしている。小1といってもただの小1ではなく、あの滝上先輩の弟、
「ありがとうございます! 磯辺先輩!」
「いや、大丈夫だ。しっかり基礎トレーニングしておけよ!」
「・・・どうすれば野神先輩のようになれますか?」
進の目線の先には川谷とカーブの練習をしている野神がいた。進むは野神に憧れている。去年の紅白戦を見に来ており、野神の投球を見てピッチャーになることを決めたらしい。
「あいつはお前の兄さんみたいに怪物の類だ。焦って目指すとろくなことにはならないぞ」
「そうですね! 自分のペースで頑張ります!」
そう言うと進はランニングをしに行った。そして俺は野神の投球を見ていた。
(カーブ、いやドロップカーブだっけかな。だんだんとコントールできるようになっている。あれを上手くリードできれば・・・)
俺はそう思うと川谷達の元へ向かった。
■■
今年の紅白戦が終わり、俺は家に帰って部屋で横になっていた。もちろんその手にはボールを握って。
(学年が上がれば俺はいよいよリトルリーグへ挑戦することになる。ついに公式戦、何かワクワクしてきたな!)
いよいよ俺のリトルリーグ挑戦が始まった。
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