♡妄想♡

 家の外に出る。

 目の前の道路には雛乃が立っていた。

 眠そうに欠伸を一つして、上の空じゃないけど、ぼーっと空を見ている。


 インターホンを押して呼ばれたのに、いざ扉を開けてみたら居ませんでしたって、それはそれで困っちゃうけど。


 雛乃は可愛い。

 今までもそう思っていたしわかっていたけど、今までとは感じ方が少し違う。

 今までは客観的に可愛いよなぁと思っていただけ。

 言ってしまえばただの感想に過ぎなくて、特にそれ以外の感情を抱くことはなかった。


 うーん、そうだなぁ。

 アイドルや俳優さんに「カッコいい」という感情を抱くのに似ていたのかもしれない。

 憧れ混じりの可愛いだったと思う。

 けど今私が抱いている可愛いは違う。


 そりゃ今だって雛乃は可愛いと思う。

 けど憧れが混じった可愛いとは大きくかけ離れている。


 可愛い、欲しい、私だけを見ていて欲しい。

 そうやって思い、そして願ってしまうのだ。


 恋をするとはこういうことなのかと気付かされた。

 意識するともわっと顔が熱くなる。

 頬が火照る。


 けど、ダメだ。ダメダメ。


 私は雛乃と友達でいないといけない。

 可愛いなと思うのは良いけど、それ以上の感情を抱くのは良くない。


 意識するだなんてもってのほかである。

 私は一度深呼吸をする。


 「雛ちゃん、これと仲良くしてあげてね」


 後ろから母親の声がする。びくっと体を震わせる。

 本当にビックリした。

 あまりにもビックリし過ぎて本気で心臓止まるかと思った。

 そのレベル。


 母親はとんとんと私の肩を叩いてから奥の方に消えていく。


 「おはよう」


 雛乃はひらひらと手を振る。


 「うん、おはよう」


 私も手を振る。


 気丈に振舞う。


 内心はドキドキバクバクだけど。

 恋とはとても恐ろしいものだ。


 私をこうやって大きく変えてしまうのだから。


 なにがあってもどうでも良い、どうにかなる、頑張るだけ無駄、そう思っていたというかそれが私の信条のようなものだったのに、どうでも良いとか、どうにかなるとか、頑張るだけ無駄とか、そういうことは一切考えなくなっていた。


 むしろ逆転している。


 雛乃にこの気持ちを見透かされないように頑張ろうとしているし、バレることをどうでも良いとも思っておらず、バレてもどうにかなるとも思っていない。


 今までの私とは真逆なのだ。

 人はきっかけ一つでここまで変わることができる。

 せっかく変われたのに、それを活かす機会はまぁ来ないんだけど。


 「行こう?」


 雛乃は指差す。

 私は首を縦に振る。


 歩き出す。




 雛乃の一挙手一投足が可愛くて、妖艶で、見惚れてしまう。

 ただ歩いてるだけなのに、揺れるポニーテールが可愛いなとか、すらっとした体型が魅力的だなとか思ってしまう。

 特に強調のないおっぱいが私を癒してくれる。私は人並みにあるからこそ、雛乃のおっぱいの小ささには羨望の眼差しを向けてしまう。

 肩こりとかとは無縁そうだなぁとか、洋服とかも気にせずに着られそうだなぁとか。

 利点だらけなのに、おっぱいが小さいことを恥じらう。

 恥ずかしそうに胸元を両手で隠す雛乃に対して私は「そんな小さい胸でも可愛いと思うよ。私は愛でたい」とか言っちゃって。

 そして雛乃はさらに照れて、顔を真っ赤にするんだ。

 でもって、私の胸元を睨む。

 雛乃は「このおっぱい星人が」とか言って私のおっぱいを揉みしだく。

 もみもみと。

 最初は洋服の上から揉むんだけど、雛乃は不満そうな表情を浮かべながら服の下に手を入れてブラジャーの上からおっぱいを触るんだ。

 で、私は「いやん、えっち~」なんていうふざけた言葉を出して笑う。

 雛乃に火がついてブラジャーの下に手を潜らせる 。

 私のそこそこなおっぱいを直接触るのだ。

 そして雛乃におっぱいを揉まれることに喜びを感じる。

 触られたからこそ、雛乃の小さなおっぱいを触れる権利を得られる。

 目には目を、歯には歯を、おっぱいにはおっぱいを。

 ってことで、雛乃の小さなおっぱいに触れる。

 もちろんブラジャーの中に手を潜らせて、触る。

 こりこりと触って、弾力のない皮膚も撫でる。

 紅潮しながら「やめてよ……恥ずかしいから」だなんて雛乃は言っちゃって。

 私はそれに対して「恥ずかしいことなんてないよ」と慰める。

 それで雛乃は気弱そうに照れながら、上目遣いで私のことを見つめて、心を許す。




 うおー、なんだこれは。

 最高じゃないか。


 「唯華?」


 雛乃は私の隣でどうしたのと首を傾げる。

 自分の世界に入り込んでしまった。

 良くない。


 「なんでもないよ」

 「本当?」

 「うん」

 「なんかぼーっとしてたけど」

 「な、なんでもない。本当になんでもないよ」


 あはははー、と笑う。

 我ながら下手くそな誤魔化し方だなと思うけど詮無きこと。


 「本当?」

 「大丈夫、大丈夫」

 「風邪でも引いたの?」

 「そういうのじゃないから。本当に大丈夫」

 「本当に?」


 雛乃は心配そうに私を見つめ、すーっと手を伸ばす。

 そして私の額に手を当てる。

 眉を顰め、すぐに手を離す。


 「本当だ。熱はなさそう」


 「だ、だろ。だから言ったでしょ。別になんでもないんだって」


 私は少しだけ雛乃から距離をとる。

 雛乃が手を離した瞬間にぼわっと私の顔と頭は熱を持った。

 危なかった。

 あと少しでより面倒なことになるところだった。

 大丈夫だとは思うけど、もう一回触られたりしないように距離をとっておく。


 「なにか考え事でもしてたの?」


 信号に引っかかり、二人で足を止める。


 「そうだね。そうかな?」


 一度頷いてから、ふと考える。

 考え事で良いのかなと疑問を抱く。

 あれは考え事というよりも妄想だ。

 雛乃が気にしてる小さなおっぱいを合法的に触る妄想。

 考え事というにはあまりにも煩悩だらけだったと思う。

 おっぱいを触られて、おっぱいを触る妄想。

 改めて、私はなんてことを考えていたのだろうかと思う。

 苦笑してしまう。

 というか苦笑するしかない。


 「そうだね」


 おっぱいを触る妄想をしてたんだよ! だなんて言えるはずもなく、私は考え事をしていたということにしてしまう。

 抽象的な答えだ。

 信号が青になるのを願う。


 「そうなんだ」

 「そうそう」

 「どんな考え事?」


 信号が青になり歩き出す。

 私も雛乃も歩き出すけど、話をこれ以上進めることはできない。これ以上先に進めたらきっと雛乃に「唯華って変態なんだ……」なんていう不当な評価をされてしまう。

 ちょっとそれは嫌だなぁって。

 不当ではないか。

 おっぱいを触って触られる妄想をする奴なんて変態という評価を下されて当然だ。


 「秘密」


 歩き出すけど、立ち止まる。

 これができているうちは、私の好意はバレないだろうなぁ。

 半分くらいはそうであって欲しいという願望なのだけど。


 まぁ、良いよね。

 思うだけなら無料だから。

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