第10話 三人目のエルフ
それは圧倒的な光景でした。
主様の精緻な魔力制御で編まれた極細の魔力の糸により、賊達はいとも容易く倒されていく光景がそこには広がっていました。
そしてそんな中、アルファ様は尋問する相手を吟味し確保をしておられます。
あの様な魔力の糸が舞う中で活動するという事は、二人の間に相当の信頼関係が無ければ成り立たない作戦である事は、ここ最近訓練を受け始めた私でも理解出来ます。
何時か私もアルファ様の様に、主様に並び立ち活躍できる様になれるのでしょうか。
今回の襲撃も特に問題なく終える事が出来た。
尋問する対象もアルファが既に確保済み。
後は腐肉病患者と確保した尋問対象者を連れて撤退するだけだ。
「じゃ、前回と同じように尋問をするわ。
ベータついてきなさい。
私なりにだけれども尋問のやり方を教えるから」
「はい、お願い致しますアルファ様」
では、治療を開始しようか。
今回はどんな人が腐肉病になってしまったのかな?
莫大な魔力を放出し対象に干渉、暴走した魔力を一息に沈静化させると、腐っていた肉体が元の肉体へと戻っていく。
その様は逆再生する動画の様だ。
「身体が…」
そこには全裸の黒髪黒目のエルフの美少女がいた。
私は又エルフの少女かと思いつつ用意して置いた服を彼女に差し出しながら声を掛ける。
「まずはこの服を着て貰えるかな?」
「え?」
一瞬キョトンとした表情を見せた後「きゃ」と可愛らしい声を上げて蹲る少女。
「事情説明は後でするからまずは服を着ると良い。
私は少し席を外すから、着替え終わったら呼んでくれ」
暫くすると、
「着替え終わりました」
と、声が掛った。
私はその声を聞き先程治した少女の元へと足を向ける。
「あの、私の事を治して下さったのは貴方なのですか?」
「その通りだよ」
「有り難う御座います!」
「さて、身体も治ったことだし、今後の話しをしようと思うのだけれど良いかな?」
「はい」
「まず、君が腐肉病になる前の身の上の話しは私は干渉するつもりは無い。
それは相当に酷な話になると思うから。
その上で問いたい。
君は今後私達と活動を共にする気はあるかい?」
「活動を共に…
どの様な活動をしているのでしょうか?」
「今は情報を収集しながら同じ志を持つ仲間を集めている最中だよ。
そして、私達の敵…まあ推定の範囲を出ないのだけれど、それはテトラグラマトン教団と名乗っているらしい、と言うところまでは掴んでいる。
現状では雲を掴む様な状態での活動だけれども、どこへともなく連れ去られてしまう腐肉病患者を見つけて治すという方針は不変の目的として変ることは無いだろうね」
「そうですか。
私の様な存在が居なくなる様な活動をされているのですね。
解りました。
私も貴方に助けられた身です。
腐肉病となり帰る場所も無くした身の上でもあります。
少しでも私の様な不幸な身の上の方々のためになるというのなら、この身をお好きにお使いください」
そんな話しをしているとアルファとベータが戻ってきた。
「其方の話しはまとまったようね」
「ああ、彼女も私達と一緒に活動してくれる事になったよ。
そういえば君にはまだ自己紹介していなかったね。
私は、この辺りの領地を治めている男爵家の嫡男、ゲヴァイト・ヴァクストゥムという、これからよろしく」
「私はアルファよ」
「私はベータです」
「さて、こちら側の自己紹介が済んだことだし君の名前も聞きたいところだけれど、察しているとおりアルファとベータは本名では無い」
「はい」
「二人は自らのことを一度死んだ身として考えて、私に新しい名前を貰いたいと願い私が名前を与えた形だ。
君はどうしたい?」
「であるならば、私もそれに習い新しい名前を戴けますでしょうか?」
「解った。
今から君の名前はガンマだ」
「ガンマ…それが私の新しい名前」
「さて、取り敢えずガンマの事は今後ゆっくり話をしようか。
アルファ、報告を」
「解ったわ。
先ず結果から言うと入手できた情報は前回と同じ。
聖堂騎士やら上級下級騎士に従士がついていると言うことだけ」
「末端の情報しか手に入らなかったか」
「そういうことになるわね」
「何時になったら、核心的な情報を持ってる対象に出逢えることやら」
この日の天気は彼等の行く末を暗示する様に曇り空だった。
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