アム・スタークストゥン

Uzin

異世界転生

第1話 最強になりたくて

 私は幼い頃より最強を求めていた。

 何故そんなものに憧れていたのかというと、アニメやマンガに登場する主人公達の様になりたかったからである。

 それ故に幼い頃から様々な習い事を親にせがんでやらせて貰った。

 武道・武術に飽き足らず、知識も貪欲に吸収し、それでも足らず芸術の世界にも足を踏み入れたりもした。

 それでも、私は物語の中で活躍するような…物語の主人公の様な存在にはなれなかった。


 時は流れて私の年齢は三八歳。

 長年の努力の成果のお陰で若かりし頃に大学教授としての立場を確立し、今は表向きは平穏無事な生活を送っているが、この心の奥底には未だに最強の主人公に憧れる強い思いが燻っていた。


 大学の長期休暇を利用して私は恒例となっている山籠もりを今年も行っていた。

 禄に装備を持たずに山へと籠もり、自らを追い込み更なる高みへと到るための行為である。

 一歩間違えれば即死に繋がるような行為ではあるが、未だに最強への路を諦めきれない私にとって、最早これは儀式の様なものとなってしまっていた。

 そして私は自らの無力さを知る事になる。

 大自然の驚異に揉まれてしまう事になってしまうのだった。

 その日猛烈な雨に見舞われてしまった私は雨から逃れる様にして、山籠もりの際に活用している洞窟へと避難していた。

 轟轟と降る雨風に意識を傾けていると、何やら不穏な気配が…

 周囲の地面から音が聞こえ始めていたのだ。

 私は急ぎ外へと出て避難しようとしたが間に合わなかった。

 私は物語に出てくるような主人公にはなれなかった様だ。

 土砂災害に巻き込まれて死んでしまう、そんなちっぽけな人間だった。

 身体全体を襲う痛みは一瞬。私の意識は次の瞬間には完全に事切れてしまったのだった。


 ふと気がつくと私の意識は覚醒した。

 だが、そこは見知らぬ場所だった。

 日本家屋らしからぬ場所であり、病院でもない場所。

 ここは何処かと周囲へと意識を向けると私は誰かに抱き抱えられている様だった。

 私へと慈母の如く微笑みを向けてくる女性に抱き抱えられる私。

 私はふと疑問に思った。

 私はこれでも成人した男性である。

 そんな男性を抱き抱える見知らぬ女性。

 何処ともしれない場所、誰だか解らない人、私はここが何処かと検討し始めた。

 そして、荒唐無稽な考えが頭の隅をよぎった。

 これは転生というヤツなのではないかと。

 それが何故解ったのかというと、私の今の身体は成人男性のそれではなく、生まれたばかりの赤ん坊だと言う事に気付いたからだ。

 さらに言えば、私へと話しかける女性の言葉が理解出来なかったのだ。

 これでも、最強へと到るために様々な言語を習得している私が、一切理解出来ない言語を操る存在。

 恐らく今世での母親となるだろう存在からの言葉。

 この事からもしかして私は異世界へと転生してしまったのではないかと推測した。

 そして、この推測をさらに確定付ける証拠が見つかる。

 私の目に見える不可思議な光。

 それは私の周囲に存在する全ての人に備わっていたのだった。

 そしてそれは私自身も同様であった。

 生まれたばかりの小さな手を見てみると私自身の手も、不可思議な光に包まれていたのだった。

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