キミが咲う

かがみゆえ

プロローグ

 .





 現在いまより昔。

 それよりずっとずっと昔。


 世に鬼が存在した時代。


 人間が牛や豚の肉をしょくすように、鬼は人を喰らった。

 鬼にとって、人間は食料だった。


 そんな時代、人間が大好きな鬼がいた。


 そう。これがこの物語の全ての始まりである。


 知っているかい?

 物語ってのは連鎖しているんだ。


 あなたは母だった。

 貴女は友だった。

 そして―――…。


 連鎖により、悲しみが……憎しみが……、負の感情が世界を包み込む。


 さぁ。この忌まわしい連鎖を止める為。

 今、1人の青年が立ち上がった。


 例え、どんな結末が待っていようとも。

 どうか、どうか。


 後ろを振り返らないで。

 ただ前へと歩み続けて。


 だって、アナタは───…。





.





 あるところに、一組の男女がいた。

 男の容姿は平凡だった。

 女の容姿は美しかった。


 男は悲しい顔をしていた。

 女は微笑んでいた。


「…行くのか?」


 男が問う。


「うん、行くよ」


 女は答える。


「だって、相手は……」

「大丈夫だよ」


 言葉を濁す男に、女は笑顔で答える。


「しかし……」

「ねぇ。じゃあ約束」

「約束?」

「必ずまたここに帰って来るよ」

「え?」


 自分を引き止める男へ女は告げる。


「アナタのもとに戻って来る。何があっても、どうなっても、絶対に戻って来るから」

「…本当か?」

「約束する。だから、アナタは待っていてくれないかな?」


 女は右手で拳を作り小指だけ開いて男に付き出す。

 男は女の右手を見つめる。 


「…分かった。待っている」


 男は意を決したように女の右手の小指にゆっくりと自分の右手の小指を絡めた。


「ありがとう」

「……約束だからな」

「うん」

「お前から約束したんだからな」

「うん」


 合図することなく、互いの右手の小指が離れた。


「じゃあ、行って来る」

「ああ、行ってらっしゃい」


 男は見送り、女は歩み出す。

 男は女が見えなくなるまで見送った。

 女は後ろにいる男へ振り返らずに歩み続けた。

 そして、男と女は別れた。


 互いにまじえた約束を信じて。


 しかし……。


 “女”が再び男の目の前に現れることは───二度となかった。


.

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