3話 このモンスター、普通に飼えるらしい
「……そうですよねー。 就職ってなると、やっぱ都会に行かないと……」
「地元じゃあなぁ……」
「俺もその予定だしなぁ……」
あー。
久しぶりに高校生らしい会話した気がするー……。
それも同性の、気を遣わないのを。
最近の僕、バイト先の人としか会話してなくって、ほぼ年上……って言うか2世代くらい違うおばさんとおじさん、その上の世代だしなぁ……。
「じゃ、じゃあ、付近のモンスターの反応も無いし、解決したってことで良いかな」
2人がさっきからもじもじしてたって思ったら、どうやら立ち話で10分とか20分とか経っちゃってるみたい。
気が付けばこの子も寝ちゃってるし、軽いとは言ってもずっと抱っこし続けてたからなんだか腕がだるくなってきたし。
……そうだよ、僕、夜勤明けどころか半日以上働いててくたくたなんだった。
「あ、はい……ごめんなさい、来てもらったのにこんなに話し込んじゃって」
「良いよ。 君みたいな……ぐふっ」
「おっと済まん、コイツはバカなんだ」
「?」
仲が良いらしく、こづき合っている2人。
いいなぁ……僕、どこか遠巻きにされてたからなぁ……。
やっぱいじめの対象だったからね……小さいころからずっと。
いじめにしては運が良くって、ものすごく軽い感じだったけど下に見られててさぁ……。
けど。
「……あっ」
僕は、学校で習った知識をふと思い出す。
――モンスターはダンジョン外で、時間が経てば魔力を失って行って、弱って「消える」。
「あ、あのっ、モンスターはダンジョン外で魔力失って! それならこの子も消えちゃうんじゃ!」
つまり、この子も……!
「あ、大丈夫だろ。 そんだけ懐いてるんならもうテイムしてるはずだし、テイムしたなら君からの魔力で消えはしないはずだ」
「確かにな」
「本当ですか? 良かったぁ……」
ぬいぐるみみたいなこの子を見ると……この子を抱っこしてる胸が、なんとなくあったかい感じがする。
これがテイムしたってこと……なのかな。
うん、きっとそう。
胸で抱いてたぬいぐるみ、もといモンスターの赤ちゃんを首元まで持ち上げてぎゅっと抱きしめると、起こしちゃったのか「きゅいっ」ってほっぺにすりすりしてくる。
……んー、くすぐったいけど、ちょっとおでこのイボが気になる。
でも、その周りの毛がふわふわってしててこそばゆくって、何よりも良い匂い。
「わー、くすぐったーい」
「きゅ……」
「……天使……じゃなくてだな、テイムしたなら明日にでも役所に行って登録しておかないとだ」
「女神……じゃなくて、そうだぞ。 野良のモンスターなら、狩られたり連れて行かれたりしても文句は言えないんだ。 そうやっていつも一緒ってわけにもいかないだろ?」
「あ、そ、そうですか! 危なかったぁ……このままだったら連れて帰って、普通にそのまま育てるところでしたぁ……」
詳しくて優しい人たちが来てくれて良かった。
僕……ほら、「どうせダンジョンなんて潜れないし」って諦めてたもんだから、ダンジョン関係の授業とかろくに聞かずに内職してたからさ。
「……と、ところで……その……」
「あ、ああ! こっ、ここここれもっ」
「?」
お礼だけ言って別れようとしたら……真っ赤になっているふたり。
……どうしたんだろ?
スマホなんかこっちに向けて。
「ぐっ……」
「お、お前言えよ……」
あ、そうだったそうだった、帰ったら髪の毛切らないと……いつの間にこんなに伸びてたんだか。
まだ家にある散髪用のハサミは使えたはずだし、女の子に間違われることがないようにばっさり短くしてみよう。
そうすれば、こうしてパーカーで隠さなくても男同士堂々と話せるもん。
「きゅい?」
「あ、この子、何をあげたらいいんでしょう」
「連絡先……あ、そ、そうだな! 人間と同じもんで良いらしいぞ!」
「交換……そのモンスター……幼すぎて何になるか分からないけど、とりあえず消化の良いものとか野菜とかをいくつか並べてやると自分で選ぶ……らしいぞ! それでもダメならマメとか肉とか!」
「そうですか! ありがとうございますっ」
良かったぁ。
それなら僕のごはんを分けたら良いから、食費はそんなに掛からないね。
野菜ならご近所さんとか家庭菜園の分でなんとかなる……かも?
これでドッグフードとかモンスターフード?とかになってたら、もっとバイト増やさないと飼えないところだったし。
……お肉だったら、やっぱバイト増やさないとダメかもだけど……。
あ、そう言えば普通に飼うってことにしてる。
ま、まぁ、「2人暮らしで寂しいから、犬とか猫とかご近所さんからもらおう」ってお母さんと話してたし……?
モンスターでもテイムしてるって言えば大丈夫だと思うし……あんまり外で見せない方が良いとは思うけどね。
あ、でも、かわいければ大丈夫かな?
「改めて、ありがとうございました! 今日はこの子を家に連れてかなきゃですけど、この辺でバイトしてるので! 次に会えたときには何かおごりますね!」
「あ、ああ……」
「そ、そのうち……」
寝不足であんまり頭も回らないし、2人の顔もよく見てないけど、ちょうど良いタイミングだからって家へ向かう。
「きゅい……」
「ふふっ、帰ったらお母さんびっくりするかなぁ……」
◇
「……………………………………」
「……………………………………」
「……かわい、かったなぁ……」
「ああ……」
「でも連絡先……」
「バ、バイト先! バイト先が近くって教えてくれたから!」
「そ、そうだな!」
健全な高校生男子の2人は、たった今出会った相手に盛り上がると同時に「コイツには渡さねぇ」と密かに決意している。
「コイツよりも俺の方を見てたはずだ!」という、根拠不明の自身も手伝って。
「……けど、なんであの子、下校の時間なのに私服だったんだ……? 中学生だろ?」
「早く終わったとかじゃね? 別の学区だから分からないけど」
「そっか」
――ちなみに「ぬいぐるみ」を抱きしめていた、星野柚希の今日の服装は。
コンプレックスになっている「母親の幼いころの写真そっくりな顔」を隠すためのパーカー。
「新しい服買うのも高いし、別にこれなら恥ずかしくないから」という理由での、母親のお古のぶかぶかなズボン。
ワイドパンツという、普通の男子からすれば「都会の女子が来ていそうなスカートの亜種」と間違えても不思議ではないもの。
そして髪の毛は散髪をサボって肩より長くなっていて、前髪も長く――なによりも高い声に細い線に、低身長。
そのせいで高校生男子の彼らにとっては「背の低い」「中学生の女子」としか映っていなかったが――不運か幸運か、彼らがその本当の性別を知ることはなかった。
◆◆◆
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