ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。

あずももも

1章 僕が女装して配信することになったきっかけ

1話 女の子として勘違いされたらしい、ユニコーンとの出会い

「ありがとうございましたー……ふぅ」


僕は時計を見上げ、あとちょっとでシフトが終わるって気が付いてほっとする。


「バイトとは言え、さすがに3つ掛け持ちはキツいかなぁ……でも、あとちょっとだし」


時刻はもうすぐ夕方とあって、レジから眺める外の光景は学生服の集団――しかもこれ見よがしに「装備」を付けている……僕と同い年くらいの、放課後にダンジョンへ行く学生たち。


ダンジョン。


僕が子供のころに出現したそれは、今となっては適性さえあれば食べるのに困らないどころか、一攫千金も当たり前な世界。


当初は世界中で突然出現したダンジョンからあふれるモンスターで大変なことになってたらしいけど、今は全部のダンジョンの管理がされていて、その間引きを兼ねたダンジョン潜りが一大産業になっている。


それは、バイトしかできない学生でも……ううん、だからこそ、ただの店番なんて目じゃないお小遣いも稼げる。


しかもゲームよろしく武器とか魔法でばんばん戦って、仲間と楽しくやって、さらにネットで配信もすれば人気にもなれるっていう夢の職業。


学生のあいだのバイトとしても、その先の正規の職業としても。


だから、僕だってなりたかった。


……なりたかったんだ。


「僕も、適性さえあればなぁ……」


そう。


「ダンジョンへは、適性がなければ潜れない」。

そう決まっている。


だって、野生動物なんか目じゃない強さのモンスターと戦うには、一般人じゃ無理なんだから。


そもそも怖いし。


だからこそ適性があってレベルとかスキルを上げて、今や「初心者からどうやるか」っていう細かい情報があるから、その通りに潜って鍛えたら……普通のサラリーマンなんか目じゃない稼ぎ、らしい。


しかもダンジョン配信ってのが娯楽な時代だ、人気になるほどにそっちでの稼ぎも出るし、なにより有名になって人脈もすごいことになって将来も安泰……らしい。


らしい、らしい。


……当然だ、だって詳しくは知らないもん。


僕は学校の集団見学でスキルが発現しなかったんだから。

小学校から高校2年までの毎年、全部。


いや、実は厳密には違う。

悲しいからってウソはダメだよね。


発現はした――「らしい」んだけど、ダンジョン内で強くなるための条件が分からなかったから「保留」なんだ。


……小中高と何回も引率してもらって潜ってもダメだったんだ、多分僕に才能は無かったんだろう。


だからこうして、バイトを掛け持ちする生活になっている。


ダンジョンっていうきらきらした世界じゃなく、求人の少ない田舎で要求される技能が低いけど、時間の融通の利くっていうバイトと契約社員とを掛け持ちっていう生活に。


……ま、人生はそんなもんだろう。


ごく一部のきらきらした人たちは頭が良かったり運動ができたりしたり、会話が得意だったり何か得意なものがあるけども、大多数の僕みたいな「その他」は違うんだ。


もう慣れてるけどね。


それに僕は、こうして誰にでもできるルーチンワークってのをする人生も嫌いじゃないし……っと、お客さんお客さん。


「いらっしゃいませー」


「こんにちはー、今日もよろし……あれ、星野先輩?」

「あ、光宮さんだ」


入り口から入ってきたのは「元」後輩の光宮さん。


高校では文芸部の後輩「だった」、文芸部にしては垢抜けてて話すのが好きで……かわいいからすごくモテてるらしい子。


ほんとこの子、いつもおしゃれして来てるのに、なんで陰気で誰もしゃべらない文芸部なんか入ってたんだろ……いつもヒマそうにマンガ読んでたくらいだし。


「だから私、年下なんですから理央って呼んでって……って、あれ、先輩こんな時間にシフト入ってましたっけ?」


「あー、うん。 朝の人が来れなくなってね……」


寝不足と徹夜でぽーっとした頭で答える。


んー、なんかふわふわするー。


「えー!? まーたワンオペで十何時間ですか!? 無茶しちゃダメですよぉ……あー、もう、柚希先輩のかわいい顔にクマが……田中先輩も、こういうときくらい……」


――男に「かわいい」は褒め言葉じゃないんだけどなぁ……まぁ良いか、同性の男に「女みたいでなよなよしてる」って言われるよりは。


でもやっぱり傷つく。

僕だって、男だもん。


一応は男としてのプライドだってあるんだぞ。

ちっちゃいけど。


「あ、でも光宮さん来てくれたし、もうひとりも来たみたい」

「えー、せっかく一緒に入れると思ったのに……」


バックヤードから僕の次の……次のシフトの人が「お疲れさまです」って入って来る。


「あはは、残念だね。 でも僕、昨日の夕飯食べてからずっとだからぼーとしてるし、あんまり話せなかったと思うよ」


あー、やっと解放されるぅ……。


んーっと体を伸ばして、凝り固まってたのを知る。


「光宮さんも、ほら」

「……ほんと、残念」


唇を曲げながらほんとうに残念そうにしながらバックヤードへ向かう彼女は、1回ちらりと僕を見る。


……話し好きな彼女としては、元とは言え、ある程度高校の人間関係とか知ってる僕相手だと話が尽きない。


だから話し相手として好かれている……らしい。


……ま、光宮さんと話しているあいだだけは高校生活に戻った気がするから、僕としても嬉しいし。





「ふぅ……疲れた……」


とぼとぼと、十何時間ぶりの外の空気と光を浴びながら家へ向かう。


人工的な光から急に大自然のまっ昼間に出たから目が痛い。


「……資格取らないとなぁ……僕、勉強は得意じゃないし……そもそも、あってもこの田舎じゃ仕事なんてないかぁ」


聞けば、今は人手不足だという。

時給をいくら上げても人が足りないという。


……まぁ、それは都市圏の話。

僕の住む田舎には関係ない話。


なら都会に引っ越せばいい?


そもそもとして生活コストが上がるから、行く前に貯金が相当ないと無理。

そもそもとして僕の実家がこっちだから、家賃だけで稼ぎの何割も掛かる。


……そもそもとして療養中のお母さんのために働いているんだ、都会に出ちゃったら誰がお母さんの面倒を見るんだ。


あと、そもそもとして高2で転校はねぇ……。


――せめてお父さんさえ残ってくれてたら。


「……お母さんを捨てたやつのことなんて考えるな、僕。 十何年、1円だって振り込んでこないやつなんか」


バス停が中途半端に遠いから結局歩いての通勤の帰り道を、いつも通りの堂々巡り。


歩いて30分くらいだから、のんびりと。

僕はこういうのが好き。


――お母さんのために高校を休学しての、バイト漬け。


もうそろそろ同級生たちからは完全に置いて行かれて、光宮さんたちと同じ学年扱いになりそう。


留年とかやだけどなぁ……お母さんの薬、高いやつだから。

これでも田舎の自宅住みだから相当安いんだ、しょうがない。


「柚希先輩が同じクラスになるんだったら大歓迎です!」ってあの子は言ってくれるけど、実際に高校での留年生の扱いなんて考えなくても分かるし、そもそも僕は気が弱くて話が苦手だ。


きっと居心地悪いことは間違いないだろう。


ずっとこのままで居て良いわけじゃないけども、少なくとも母さんが外に出られるようになるまではこのままでも良いかな。


そう思って家の近くまで来てスーパーで食材の調達。

かさかさとビニール袋を両手に家に向かっていた僕は……。


「あれ?」


茂みから顔を出している……なんだろう、あれ……。


「ぬいぐるみ? いや、息はしてるみたいだし……生き物、だよねぇ」


白くて丸っこい何か。

それは、ふと僕に視線を送ってくる。


「……………………………………」


それが――僕が「ユニコーン」を偶然に見つけちゃって……見初められるきっかけだった。


◆◆◆


「男の娘をもっと見たい」「女装が大好物」「みんなに姫扱いされる柚希くんを早く」「おもしろい」「続きが読みたい」「応援したい」と思ってくださった方は、ぜひ最下部↓の♥や応援コメントを&まだの方は目次から★★★評価とフォローをお願いします。


また、本編に復帰した『TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。』https://kakuyomu.jp/works/16817330662854492372と世界観もノリも共有しています。どちらもお読みくださると少しだけさらにお楽しみいただけると思います。

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