三章 幻想侵犯
魔手と警告
三章開始です
――――――――――——
「……集まったな」
暗闇が円卓を覆う。
窓から差し込むのは寒々しい静寂と微かに途切れそうな月明かりのみ。
昼は活気に溢れ、夜も違った賑わいを見せる都に建っていると言うのに、ここには音は届かない。
そしてこの室内の音もまた、都には届かない。
「大聖帝からの勅令だ」
議長とでも言えばいいのか。一際豪奢な椅子に腰かける彼が纏う物々しい甲冑は月明かりで鈍く光り、白銀の鎧は綺麗を通り越していっそ不気味だ。
彼の声は低く響いて円卓に波及すると、彼以外の十一人の顔に一瞬緊張が見えた。
だがそれも一瞬。
聖都で起きた劇的失敗を憂うようなこのタイミング。呼ばれる理由は一つだろう。
「——七人目の
返ってきた声に男が「いかにも」と頷けば、半数が肩を竦めたのがわかった。
「そんなことだろうとは思ったけどさ~」
「時間の無駄です。議論の経過、終着点が見え透いた会議など睡眠にも劣る時間の浪費」
「ま、ま、そう言わずに話聞きなって。
「……はやくおわらせて」
十人十色とはよく言ったもので、誰もかれもが様々な感想を述べて空気が弛緩するのがわかった。
「殺せ、とのお達しだ」
『……はぁ』
何人かのため息が重なり、また何人かがつまらなそうに各々のやりたいことをし始める。
一見纏まりが無いように見える彼らだが、招集に応じて形式的にだけでも話を聞こうとするのは
彼の存在が大聖帝の懐刀である『彼ら』を一つにまとめ上げているのだ。
「——静粛に」
それだけで、彼らは私語や私用を排して再び円卓に向き直った。
基本彼らを自由にしている
「っとと、
「どうやら、一概に無駄と一蹴するわけには参りませんね」
「だから言ったのに……話聞こって」
重く口を開いた
ふわりと魔力が地図から浮き上がり、立体的に中空へ映し出される。
神聖皇国アルヴァリム。その白亜の王城が映し出され、ほんの少しの眩しさに彼らは目を細めた。
「『七人目の
「……お、おいおいおいっ!」
「成りましたか」
「……やっかい」
「最悪、最低」
「なるほどですね」
「だからこその――『師団長会議』なわけだ」
目の色が、変わる。
値踏みするようにその情報を咀嚼して、全員の胸の内にぞわりとした吐き気が這い上がる。
「どうやら聖都の司祭が奴らの釣り針に引っ掛かり、
「はぁ~、使えね~っ! 何してくれちゃってんのそいつ!」
「狂骨って……
「バリバリのS。『あいつら』ん中でもさらに厄介な方だってんだよ」
「うひゃ~、処刑処刑っと」
「司祭程度では
口々に嫌味や怨恨を溢す彼ら。
そして
「——七人目が、奴らに迎合する。故に、殺す」
『了解』
十一人が寸分違わずに承知する。
それほどまでに、成った
「しかしながら、狂骨が同伴となると……」
「無理無理、俺だったら下手すりゃ返り討ちだわ。向こうさんの土俵じゃ万に一つも勝ちはないね」
「孤立したところを、というのが一番手早いですかね」
言いながら、一人の騎士が卓上に薄い板を放る。
「んだこりゃ」
「魔道具です。電子街から取り寄せました」
「ほへ~……未来国は違うね」
「……ほしい」
「あんたはすぐ壊すからだーめ」
やいのやいのと騒ぎ出す同僚たちを眺めながら、騎士は
「これまでの戦績、成果、被害を統計し、レートを精査いたしました。御覧ください」
「拝見しよう」
画面をつぶさに確認し、
「周知させて良かろう。概ね同意だ」
「ありがとうございます」
興味深そうに一つの画面に食い入る騎士たちは先ほどの様子からは一転、真剣にその情報を頭に叩き入れていく。
「僕らの狙い目は二人。
「芽を摘むって話でしょ? 賛成賛成!」
「でもよ、全員で行くのは無しだろ? ってことは……」
「——私が出ましょう。純粋戦闘ではなく暗殺ならば、私でしょう」
手を上げたのは暗闇で光る金の髪を結った女。
他から異論は出ず、
「それでは——
「お任せを」
大聖帝の懐刀。
過去、代を変え、人員を減らしながらも――数百の
普段は世界に君臨する帝国騎士団の一兵卒として紛れる彼らは、ただそのためだけに存在する。
「必ずや、
身を翻す女の背に、
「——待て」
普段ならあり得ない行動に、師団長たちは息を呑む。
「……『七人目』は、天使を殺した成功者だ。……気を、付けろと……それだけだ」
それだけで、彼らは脳裏に焦りを募らせる。
「……はっ。胸に刻みます」
こつこつとヒールの音を立てて去る第六師団長に、誰もが視線を送る。
「なんか……今日
「思った」
「まさか……あの
「ない。ありえない」
「いや……どうかな」
伝播する。
嫌な予感が。焦燥が。不安が。
七人目の
その嫌な響きに、彼らは舌を打つ。
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