謀略と標的

「——『大聖帝』。新たに隣国に発現した“天使”系才能タレントの回収、恙なく終了いたしました」


「……ご苦労」


 武の『剣帝けんてい』。魔の『星主帝せいしゅてい』。

 その二人と肩を並べ、現代三帝の一人に数えられる老翁、『大聖帝たいせいてい』。はるか昔から連綿と受け継がれてきた大聖堂のトップを証明する帝の冠だ。


 司祭からの報告を聞き終えると、労いの言葉を一つ。司祭を下がらせ、彼は片手に持った豪奢な装丁のなされた分厚い書物を徐に開いた。

 パラパラと紙を捲る音だけが、暗幕の閉め切られた部屋に流れる。


 その音が、ぴたりと止まった。

 大聖帝は目的のページをまじまじと見つめ、ほくそ笑む。


「——『天使エンジェル』」


 卓上に無数に置かれた人型を模した駒を撫でる。


「『大天使アークエンジェル』」


 二枚の大きな羽を持った駒を弾く。


「『権天使プリンシパリティ


 大盾を携えた駒を置く。


「『能天使パワー』」


 悪魔と天使の羽を持つ駒を放る。


「『力天使ヴァーチュー』」


 美しい女の駒を叩く。


「『主天使ドミニオン』」

 

 最も大きな駒を動かす。


「『座天使スローン』」


 唯一人型ではない、車輪の駒を転がす。


「『智天使ケルブ』」

 

 頭と羽を四つ持った歪な駒を大切に包む。



 そして――。


「————『熾天使セラフ』」

 

 六枚の羽と剣を持った駒を持ち上げる。


 大聖堂において信仰される天界ラノスガルド

 異界に等しいその場所に存在する九種の存在。それが天使。

 神という概念は存在するが不確定ではないこの世界において、実在を確認、証明されているその生命体こそが神に等しい存在であるのだ。


 だが男はその姿を、に例えた。

 大聖堂において絶対不可侵の存在である天使は彼にとって――大聖堂の力に他ならなかった。


 天使降臨。その方法を知っている彼にとっては、天使とは崇める存在ではない。


 言うなれば、

 人間であれば抗えない破滅を齎す、悪魔に等しい生命体。

 恐怖こそすれ、崇め奉るなど馬鹿馬鹿しい。


 そんな生き物を、彼は大聖堂の戦力に数えているのだ。


「——首尾は、如何ですか?」


 大聖帝が誰にでもなく問えば、暗闇から声が返ってくる。


「——計画の最重要点回収のため、現在、ヴェーム大森林にて交戦中です……が、旗色はどうにも芳しくないようで」


「……と、いうと?」


「我々は七人目の崩人クズレビトを侮っていたようです。次回からの警戒度上昇を検討するべきかと」


「十歳の子供と言えど……崩人クズレビトということですか。……と接触されると手が付けなくなりそうですね。はてさてどうするべきか」


 知識と力が足りないうちに、手を打たなければ。

 そう判断した彼は、卓上の駒の一つに手を掛けた。

 それは、変哲もない人型の駒。


「——アルヴァリムの大聖堂に、を」


 『天使エンジェル』の駒を虚空に差し出せば、


「——了解いたしました」


 二つ返事でそう返ってくる。


使と並行して、新たな崩人クズレビトの排斥も一挙に行ってしまいましょう」


 余裕はある。

 確証もある。

 七人目の崩人クズレビトなど、取るに足らない。

 だが、大聖帝の脳裏にチラつくのは、『竜骸』と呼ばれる崩人クズレビトの姿。


「間に合うと良いのですが……先に動かれていた場合、厄介ですねぇ」


 どこか楽し気に、大聖帝は闇を仰いだ。




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