第4話 Net:idol
『ごめん! すっごくいい声なんだけど経験者募集なんだ!』
『プラカード見ましたか? ライブ実績とファン人数の条件書いてありますよね?』
『気持ちは嬉しいけれど、初心者じゃ……ねぇ?』
俺のアバターが変わったようにネットアイドル世界も変わっていた。
グループの募集要項を見ると。
"千人以上の箱でのライブ実績がある方"
"他のグループで活躍していた実績のある方"
"ソロ活動で実績があり、自分で仕事が取れる方"
実績。
これが無いと話にならない世界になっていた。
ネットに来て2日目の俺がグループに入りたいと言っても冷やかしだと思われ、どれだけ入りたいと頼み込んでもダメで。
実力には自身があったからテストを受けさせてくれと言ってみたけど、耳を傾けてはくれなかった。
気がついた時には頼めるグループなんてもう1つも残ってなかった。
「俺は現実でかなり練習したけど、ネットでライブの経験が無かったから何処にも入れなかったんだ」
「ソロは、何で、しなかったの。」
「うーん、俺の実力じゃソロでプロは無理だって分かってるし、友達とは仲良くしてたいだろ」
「つまり、その友達が、ソロのネットアイドル?。」
「そんな感じ」
全部嘘だが、彼女は信じてるみたいで助かった。
金の事とかはあまり話さない方がいいって、誰かが言ってたような思い出があるし……。
「それで……」
昔はこんなのじゃなかったと思い、壁にもたれかかってた時。
『あのっ! 一緒にネットアイドル活動やりませんか!?』
隣に立っていたメイド服の、薄い赤色の髪をした女が声をかけてくれたんだ。
『俺、実績無いんですけど』
『わ! すごく可愛い声!』
『あの……』
『あ、ごめんなさい。私は天歌、呼び捨てで大丈夫ですから』
『どうも、天歌さん』
『その、実績が無いって言ってましたけど、つまりどこにも所属してないって事ですよね!?』
『近っ! そうですから少し離れて下さい』
『す、すいません興奮しててつい……えっと、実績とか関係無いです! 過去は過去でしかありませんから!』
天歌の第1印象は、"笑顔の素敵なバカ"ぐらいだったが彼女は俺を救ってくれた。
実績を過去は過去と切り捨てるなんて……バカだなって。
『あ、ありがとうございます』
『それで、何でネットアイドルになろうとしたんですか!?』
『それは……』
生活の為。
復讐の為。
夢の為。
三つある理由のうち、話せるのは2つだけ。
生活の為だと答えたかった。
だが、こんなの金持ちになる為にギャンブルしてますと答えるのと殆ど同じだ。
頭の悪い奴だと思われるし、何より薄っぺらい。
『私はね、プロになりたいの』
『プロ……ですか?』
俺に質問しといて自分の話をする天歌だったが、彼女の目は本気だと、覚悟を決めた人間にしか出来ない目をしていたんだ。
『はい! ほら今年プロオーディションあるじゃないですか、そこでプロになりたくて』
『そんなに簡単じゃないですよ』
『分かってます、でも、ならなきゃいけないんです』
ふざけて言ってる訳じゃない。
さっきまで色々なグループの話を聞いていたが、アイツらは本気でプロになれるなんて思ってない、ただ自己承認欲求で動いている所ばかりだった。
でも、目の前の天歌は違う。
『プロにならなきゃいけない理由って』
『それはですね……グループに入ってくれるなら、そしてもう少し仲良くなったら教えてあげちゃいます!』
初めて天歌の笑顔を見たのはこの時だった。
普通ネットアイドルは表情の練習をするから笑顔なんて誰でも出来る、だが多くのネットアイドルの笑顔からはどこか"作ってる"感が滲み出るんだ。
俺も最初はそうだった、心から笑えるようになるのにかなり時間がかかった。
彼女の笑顔のレベルは、俺を超えていたんだ。
1番難しい笑顔をここまでやるなんて、かなり実力のあるネットアイドルなんだろう。
俺はツイてる!
そう思って。
『わかりました。どうか、俺をグループに入れてください』
『はい、喜んで! それで、何て呼べばいいですか?』
「って感じで、まぁ何処にも入れなかった俺を天歌が拾ってくれたんだよ」
「まって。グループ?。その頃って、ウチがPhantom達に出会うより前、だよね。他にも人、いたんだ。」
「それがさ、天歌はネットアイドル活動を一緒にやりませんかって言ってんだよな。グループに入りませんかって誘ってなかったんだよね」
天歌をフレンド登録して、連絡を簡単に取れるようにした。
二人で話している中で、まだグループじゃなかったって知った時はもう、本気で泣いたね。
「その後、お前を見つけたんだよ」
「Phantom、騙された。情けない。」
「うるさい! で、お前はいったい」
バタバタと階段を降りる音がする。
天歌め、もう帰ってきたのか。
「天歌、戻ってきたから、また今度。」
「おまっ!」
「Phantom、秘密もネットアイドルの、魅力のうち。そう友達は言ってなかった?。」
「言ってないな」
「そう、ならウチが教えたげる。聞かれた事、ペラペラ答えるだけじゃ、武器を捨ててる事に、なる。質問1つ答えるだけ、でも、その質問が自分にとって、有利になるか、武器にならないか、しっかり考えるの。」
「それは、お前の友達が言ってたのか?」
Octoberはクスクスと笑って、俺に背を向け、リビングの方に向かっていく。
「質問に答えろっての!」
「言った事、もう忘れた?」
「コイツ!」
「ここは答えない方が、Phantomがまた、構ってくれそうだから、答えない。」
Octoberがリビングに入ったタイミングで、天歌が玄関まで戻ってきた。
「遅くなりました!」
「早い! もっと時間かけろ!」
「ふぇえ!? 頑張って探したのにぃ!」
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