Net:idol Group:T/O/P

ふぇりか

第一章 Mainstage編

第1話 Net:idol

 

 

 ネットアイドル。

それは歌や踊りで人を魅了、人気が全ての職業でありファンの夢を体現した存在。

数多いるネットアイドルの頂点こそ、プロネットアイドル……か。

 

「Phantomさん、そんなにポスターを見てどうしました? あ、そこポスター貼れそうですね!」

 

「天歌、1枚、とって。」

 

「はいどうぞ、Octoberさん!」

 

「ん。」

 

歌や踊りで人を魅了。

 

「天歌、あと何枚?」

 

「えっと……30ぐらいです」

 

歌や踊り。

 

「早く終わらせないと、次はオーディション会場の開設手伝いもある、から。」

 

歌。

 

「あ! そういえばその後って呼び込みもあるんでしたよね、うぅ……この間は全然出来なかったからなぁ」

 

踊り……。

 

「俺達も、一応ネットアイドルだよな?」

 

「はい!」「うん。」

 

「じゃあ何で! どうして! アイドルらしい事してないんだよーッ!」

 

 

 

 分かっていたよ、昔とは違うって事ぐらい。

 

『このオーディションライブを突破すればプロだ、いつも通り全力で、そして思いっきり楽しんで合格してやろうぜ!』

 

あの頃と今じゃ、何もかもが違うんだ。

それにしてもだ、あまりに違いすぎないか?


 五感全てを接続する進化したインターネットこと"ネット"では様々な物が流行っている。10年前に発売されたゲームは今でも大人気な訳だが、最も流行っているのは7年前にネットでの個人によるエンタメ規制緩和によって現れたネットアイドルだ。

 

「私達まだ駆け出しですし、歌や踊りの仕事なんて貰えませんよ……あ、Octoberさんそことかどうですか? 目を引きそうです!」

 

「ダメ。ここは貼れないエリア。」

 

ネットアイドルが流行った原因はいくつかあるが、俺はこれまで禁止されていた歌や踊りと言った物が開放された反動じゃないかと思う。後は機械類の介入が出来ないから声を偽ったり表情を作ったり機械的な事も出来ないって全員の共通認識上にあるネットアイドル達の本物の笑顔と歌声が心に響いたから、とかじゃないかな。

調べた事無いから知らないけど。

 

「Phantomさん!」

 

「ど、どうした天歌、近いぞ」

 

「今ネットアイドルが、ううん、女の子がしちゃいけない顔してましたよ! 面倒くさいって顔に書いてあるのが見え見えです!」

 

「うぐっ……」

 

「Phantom、貴女はネットもアイドルも初心者だから知らないかもしれない、けれど、現実の自分と表情や声はリンクしてる。涙を流せばここでも流れるし、笑えば笑う。だからそんな顔してたらどんな感情なのか一目で分かる。」

 

「ほらいつもの可愛いPhantomさんに戻ってください!」

 

両頬に置かれた天歌の手からは温かさを感じる。

今の現実には無くなってしまった物だ。


「ほらほら笑って下さい! Phantomさんのアバターは可愛いし、声だってそんじょそこらのネットアイドルより可愛いんですから!」

 

「うん。Phantomは、女の子としてのレベルが、素で高い。自身持って。」

 

ネットで自分の動かすアバターは自由に作る事ができる。

だがいくら可愛いアバターを作ってもそれを動かすのは自分であり、声を変えるツール等が使用できない関係上だいたい自分の性別に合わせた外見に作る。

 

だが、俺は男だ。

正真正銘、男。

 

男なのにこんな声だから、学生時代はずっと虐められ続けて、何とか入れた会社からも追い出されて、ひどい目にあってきたんだ。

でも、ここなら、ネットならこの声が生きる。

誰にも真似されないこの声だけが、俺の武器だ

 

「さぁPhantomさん、ネットアイドルらしく笑顔で仕事しましょう、星の数程ネットアイドルがいる中でポスター貼りの仕事が出来るだけでも感謝しないといけませんから!」

 

「そうだけどよ……」

 

「ウチが、取ってきた仕事なのに。」

 

「そうですよ! Octoberさんが頑張って取って来てくれたんですから、私達も頑張りましょう」

 

「やります、やりますよ! ありがとな、October」

 

「ん。」

 

そっぽ向きやがって。

天歌を見習ってお前も少しぐらい笑えよ。


「それにPhantom、その言葉遣い止めたほうがいいって何回も言ってる。女の子の話し方じゃない。」


外見は作れても中身まで作れる程器用じゃない。

一時的に作れても後からキャラ崩壊なんて大惨事起こすぐらいなら、演じやすいありのままの自分でいるべきなんだ。

……できるならやるべきなんだけどな。

 

「俺は」

 

男なんだっての!

でも、コイツらにその事は言ってない、言うつもりもない、万が一聞かれたって女だと答える。

仲間を信じるって事は、何の意味も無くリスクを背負う事だって俺は誰よりも理解しているから。

 

「はいはい二人共、その話は拠点に戻ってからにしましょう!」

 

「わかった。じゃ、Phantom、後でお説教。」

 

「Phantomさん、Octoberさんを怒らせないで下さいね。今日はプロネットアイドルになる為に必要な事を教えてもらう予定なんですから……あと怒ると結構怖いし」

 

「天歌。」

 

「あー、あはは。そ、それじゃあ頑張ろー!」

 

コイツらだって、あいつらと変わらない。


「Phantomさん」

 

「ん?」

 

「絶対、プロになりましょうね!」

 

アイドルらしい明るい笑顔。

 

「プロになる為にも、一歩一歩進む。足踏みしてる暇は無い。」

 

プロになるって精神。

 

そう、変わらない。

こんな奴らこそ、裏切るんだ。

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