195 ゲヘナデモクレスは暗躍する
「ぐぬぬぬ。主よ。なぜ我を召喚しない!? あ奴ら三匹を出すよりも、我を召喚する方が確かであろう!」
ゲヘナデモクレスは、一人嘆いていた。
あの飛んで行った四人組の居場所を突き止め、全知の追跡者のマーキングをするところまでは出来ている。
だがここから、どのように誘導しようか悩んでいたのだ。
しかしそんな時、ジンが城のダンジョンで守護者になり、大勢の侵略者たちと戦うことになる。
ゲヘナデモクレスは推しの一大イベントとばかりに、映像に釘付けになった。
そして四人組の強者が現れるや否や、自身の出番は近いとソワソワしながら見届けたのである。
だがしかし結果として、その希望は打ち砕かれた。
グインを筆頭に、ボーンドラゴン、バーニングライノスのAランクトリオが活躍してしまったのだ。
ゲヘナデモクレスは、頭を掻きむしりたいほどに憤怒する。
裏切られたと言いがかりを元に自傷するメンヘラの如く、自身の頭部を岩に叩きつけた。
「なぜだぁ! なぜなのだぁ! 我の事、もしかしてもう忘れたのか? いらないのか? 主には我が必要であろうに!!」
そして巨大な岩は、ゲヘナデモクレスの頭突きによって粉砕される。
単なる八つ当たりであるが、それは結果として、ある事態を招いてしまう。
「な、何だこいつは!?」
「お、おい! お前! 何者だ!」
「ま、待て、あいつは本当に人族か!? な、なんか違う気が……」
そう、あまりの衝撃と音により、冒険者たちに気がつかれてしまったのである。
「ぬぅ!? しまった。気がつかれたか。であれば、もはや是非もなし。我こそは城のダンジョンおわす魔将ジルニクス様一番の配下! ゲヘナデモクレスである! 宝珠を手にせし者を先んじて討ちにやってきたのだ!
「なぁ!?」
「敵襲! 敵襲!」
「城のダンジョンだと!?」
三人の冒険者が驚き戸惑っている間に、ゲヘナデモクレスは跳躍した。
そしてわざと重要な情報を喋り、三人を害すことなく駆けだす。
「我こそは城のダンジョンおわす魔将ジルニクス様一番の配下! ゲヘナデモクレスであーる!」
「何だこいつは!?」
「つ、強すぎる!」
「Aランク、いや、それ以上……」
ゲヘナデモクレスはもはやどうなってもいいと、冒険者たちの拠点で暴れ始めた。
更に手心を加えて、殺さない程度に抑えている。
これも全て、ジンに召喚してもらうためだった。
敵が多ければ、それだけ召喚の可能性が増すと考えたのである。
「ふはははは! 緑の宝珠が欲しければ、同色の矢印を辿って来るがよい!」
また先ほどの発言を
しかしそんな暴虐の限りを尽くすゲヘナデモクレスの元に、向かって来る者たちがいる。
「す、凄い気配だ。あの時倒したボーンドラゴン以上のものを感じる。いったい何者なんだ、こいつは?」
そう言ってまず現れたのは、金髪碧眼で十代半ばの美少年、ブレイブ。
手にはそれぞれ、聖なる力を宿す剣と盾を構えている。
「たくっ、先に行くなよな。これだから勇者様の仲間はたいへんだぜ!」
続いて赤髪褐色肌の美女。アネスが悪態をつきながらも、ブレイブの横へと並ぶ。
高身長で筋肉質な肉体に纏うのは、まるで水着のような真っ赤な鎧。ビキニアーマーだ。
更には重量級の武器、巨大な両手斧を軽々しく背中から抜いた。
「鑑定……通らない。たぶん、エクストラ級の妨害スキルをもっている……かも」
そう言って音もなく次に現れたのは、黒髪ボブカットの美少女であるヤミカ。
同色の瞳は少し眠そうであり、十代前半と年齢も最年少。
毒々しい色の短剣を手に取り、油断なくゲヘナデモクレスを見つめる。
「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっとぉ、私のこと置いてかないでよねっ! って何よこの邪悪な気配!? あれは悪の化身に間違いないわ!」
最後に息を切らせながら現れたのは、青い腰までの長髪と、同色のツリ目をした聖職者。名をセーラという。
セーラは見た目の美しさからは裏腹に、言葉の端々から荒さが見受けられた。
しかしこれは、仲間のいる時だけである。普段のセーラは、猫をかぶっているのだ。
「ほぉ? 貴様ら、少しは強そうであるな! 我こそは城のダンジョンおわす魔将ジルニクス様一番の配下! ゲヘナデモクレスである!」
ここぞとばかりに、ゲヘナデモクレスは名乗りを上げる。
「それ、遠くからでも聞こえてた……」
「俺も聞いたぞ」
「こいつ、同じことしか言えないのか?」
「所詮はモンスター。大した知能がある訳ないじゃない! どうせそのジルニクスとやらに教えてもらったことしか、言えないんだわ!」
四人は呆れたように、そう口にした。
名乗っただけなのに、散々な言われようである。
これに対してゲヘナデモクレスは怒りから震えるが、ここは必死に我慢した。ここでうっかり台無しにするわけにはいかない。
「ふははは! 我が
これを阻止したければ、緑の矢印が指し示す方へと進め! 時間は限られていると理解せよ! ではさらばだ! オーラオブフィアー!」
そしてゲヘナデモクレスは一方的に言葉を発すると、かなり弱めにスキルを発動する。
結果として周囲の心弱き者は、恐慌状態に陥った。
「ひぃいいいい!?」
「だれかぁ! だれかぁ!」
「ヤメロー! シニタクナーイ!」
「こ、こんなところに居られるか! 俺は帰らせてもらう!」
当然ブレイブたちにはあまり影響はなかったが、周囲に気を取られる一瞬の隙に、ゲヘナデモクレスを見逃してしまう。
「なっ!? いつの間に!?」
「なんちゅう速さだ。たった一瞬だったぞ?」
「目を離さなかったけど……追いつけそうにない」
「……な、何よあれ……あ、あれに勝てるの?」
若干セーラは恐怖状態であるが、完全に戦意を失った訳ではない。
そんなセーラを、ブレイブが抱きしめる。
「大丈夫だ。俺らなら勝てる。だって俺たちは、勇者パーティだからな!」
「ふぇ、そ、そうね。私も聖女。聖女だもの! ライトベール!」
ブレイブに抱きしめられたことで恐怖に打ち勝ったセーラは、そこで光属性魔法、ライトベールを発動させた。
それは半円状に広がっていき、恐慌状態にある全ての人たちを癒す。
同じ魔法を使えるグインでも、ここまで広げることはできない。
それだけ、セーラの魔法は卓越していた。
「ずるい。僕も……」
「あっ! あたしもあたしも!」
「おわっ!? ったく、困ったなぁ」
セーラが離れた隙に、ヤミカとアネスがブレイブに抱き着く。
「あー! ちょっと何してるのよっ!」
「セーラはさっきやってた。次は僕の番」
「そういうことだ! はっはっは!」
「三人とも、俺を求めて争わないでくれよ、やれやれ」
ゲヘナデモクレスが現れた緊張感は一気に払拭され、逆に周囲からは殺気の視線が集中する。
だがそれも既に慣れたものなので、ブレイブは全く気にはしない。
「それよりも、次の目的地が決まったな。城のダンジョンを目指そう。そして魔将ジルニクスというダンジョンボスを倒すんだ!」
「罠かもしれないわよ? それに、塔のダンジョンを勝手に攻略したことを怒られたばかりじゃない」
「大丈夫さ。俺たちは勇者パーティ。教会からのお墨付きもある。それに、あんなヤバそうなのが来たら、誰も反対できるはずないだろ?」
「確かに、ブレイブの言う通りだぜ!」
「僕は、お兄ちゃんに従う。反対なら、セーラはお留守番」
「なぁ!? 行くわよ! 私が行かなきゃ、皆野垂れ死ぬわよ!」
「よし、なら全員賛成みたいだし、早速直談判に行こう!」
そうして多数決に見えて、ブレイブの鶴の一声で決まった城のダンジョン攻略が、こうして始まるのであった。
しかしブレイブはまだ、このときは知らない。
魔将ジルニクス、ジンがどれだけの力を秘めた存在かということを。
そしてその配下であるゲヘナデモクレスが、それ以上にヤバイ存在という事実に、全く気がついていなかったのだ。
「ふはははは! 我は天才だ! これで主も、我を召喚せざるを得ないだろう! あの者たちは、中々に強そうだったぞ! ……だがしかし、これで本当に足りるのか? また、我無しで勝つのでは……?
であれば我を召喚するまで敵を集めれば、100%召喚されるはずだ! 我は止まらぬ! 待っておれ主よ!」
遠く離れた場所にいるゲヘナデモクレスが、そんな風に独り呟く。
「……だがもしもここまでの事を全て知られたら、主も流石に怒るであろうか?
う、うむ。これは主にとっても、良い試練になるだろう!
わ、我は主のことを思ってやっているのだ! 主を強くするのも、一番の配下である我の勤めである! ふはははは!」
最後にそう言い残して、ゲヘナデモクレスは荒野を駆けて行くのであった。
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これにて第五章は終了になります。
次回よりアンデッドの大陸後編、第六章が始まります。
またプロット整理のため、少々お時間を頂きます。
遅くても、9月の半ばから更新を再開いたします。
毎日更新していたこともあり私事ではありますが、色々と遅れていることもありますので。(^-^;
加えて再開後は、また隔日更新になると思います。
最後に評価やフォローして頂けると励みになりますので、よろしければポチッとして頂けると助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
<m(__)m>
乃神レンガ
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