193 賞賛と報酬


 侵入者たちとの戦いは、大勝利と言っても過言ではないだろう。


 事実捕まえた五人を除き、敵を全滅させている。


 ここまでの大勝利は、この城でもほとんどないらしい。


 なので、女王が絶賛するのは当然だった。


「本当に助かったわ! まさかここまで強いなんて、予想外! ジン君を敵に回さなくて、本当に良かったわ!」


 話し合いをしていた部屋に戻って早々、女王がそう言って俺の手を両手で握る。


「がはは! 活躍ぶりは歴史の英雄、魔将ジルニクスそのものだったぞ! 一度垣間見た一閃からして、ジン殿自身も相当強いとみた! 今度時間がある時はどうか手合わせをお願いしたいほどですな!」


 エンヴァーグも俺の肩を叩き、喜びの声を上げた。


 俺の活躍ぶりが、自分の事のように嬉しいみたいである。


 そういえば今更だが、魔将ジルニクスと名乗る暇がなかったな。


 まあ、そのうち名乗ることもあるかもしれないし、その時に名乗ることにしよう。


 俺がそう考えている時、これまでやけにおとなしかったヴラシュが口を開く。


「ね、ねえ……ジン君ってもしかして、僕と同じ転移者なのかい?」


 その言葉に、一瞬静寂が訪れる。


 やはりあれだけ活躍をすれば、ヴラシュでも気がつくか。


 守護者をする上で俺が転移者だと発覚することは、いずれにしてもあり得たことだ。


 それが、早かっただけのこと。


 一歩前に出てヴラシュと向き合うと、俺はそのことを肯定する。


「ああ、その通りだ。俺も、ヴラシュと同じ転移者になる」


 問題は、これでヴラシュがどう動くかだ。


 俺は何が起きても大丈夫なように、気を張り巡らす。


 そして、ヴラシュが動いた。


「わぁ! やっぱり転移者なんだ! 初めて会ったよ! 僕とは大違いだなぁ。やっぱり戦闘系のエクストラスキルを取っておくべきだったかも。

 いや、でも僕じゃ活かしきれそうにないし、ヴァンパイアのデメリットを打ち消すのにポイントを使っちゃったんだよね。

 ジン君はどんな感じだった? 僕はね――」

「ちょ、ちょっと待て!」


 興奮したヴラシュが、俺に急接近して言葉をまくし立てる。


 隠れている前髪のスキマから、綺麗な赤い瞳が見えた。


「うわっと、ご、ごめんよ。つい興奮しちゃって」

「はぁ、嬉しいのは分かったが、安易にキャラクターメイキングの事を言うんじゃない。これは、仲間内でもだ。

 俺はこれまで複数の転移者と出会ってきたが、そのほぼ全てが面倒な奴か悪人だった。だから今後もし他の転移者と出会っても、絶対に神授スキルやキャラクターメイキングの事を言わない方がいい」


 俺はヴラシュがいつか絶対に大きなミスをすると思い、ついお節介にもそう口にしてしまう。


「う、うん! 分かったよ! でも、僕は運が良いよ。だってジン君は、良い人だからね!」

「そ、そうか……」


 なんだかヴラシュの態度に、俺は毒気が抜けた。


「なに男同士でイチャイチャしてるのよ! 私も混ぜてよね!」

「い、イチャイチャしてたかなぁ……?」

「していたわよ。ヴラシュ君はまるで、恋する乙女みたいだったわ! 私は応援するわよ!」

「へ!? そ、それはしなくていいです! ほ、本当に! 僕にその気はありませんので!!」

「そこまで必死になっちゃって、あやしいんだぁ!」


 あわれヴラシュ。好きな相手に勘違いされた上に、応援すると言われるとは……。


 まあ、女王もふざけて言っているだけなので、大丈夫だろう。


 エンヴァーグも二人のやり取りを、微笑ましそうに見守っていた。


 しかし現状ヴラシュに対して、女王が恋をしている様子は無さそうである。


 ヴラシュはここから、女王のハートを射止めることができるのであろうか?


 そもそもアンデッドである女王が、恋愛感情を抱くのかすら分からない。


 どちらにしても、ヴラシュにとっては過酷な挑戦になることだろう。


 ここからどのようにヴラシュが女王にアプローチしていくかは、ある意味楽しみでもある。


 まあ俺としては、ヴラシュの恋を応援しよう。


 レフたちもヴラシュの恋が実ってほしいと、強くそう想っているみたいだ。


 ただこれまでの旅の出来事を加味して、どうかこれが悲劇にならないことを祈るばかりである。


 そうした一幕がありつつも、話の内容は俺の報酬へと変わっていく。


「今回挑戦者たちを倒した報酬だけど、これになるわ。本当にありがとうね!」


 女王がそう言って、テーブルを介して俺に袋を渡した。


 中身は当然、聖金貨数百枚だ。


 一気に大金持ちになったな。けどたぶん、これで終わりじゃないはず……。


 すると俺が思っていた通り、例のアレが起きる。


『神授スキル【二重取り】が発動しました。報酬が倍になります』


 そして目の前に、聖金貨の入った袋がもう一つ現れた。


 女王とエンヴァーグは、何の反応も示さない。


 だが、転移者であるヴラシュは違った。


「えぇ!? ふ、増えた!? 袋が増えたんだけど!?」


 やはり二重取りは、転移者にはおかしなことに映るようだ。


 もしかしたら神授スキルの有無が、関係するのかもしれない。


「ヴラシュ君どうしたの? そんなに慌てて」

「え? いや、袋が増えたんですよ? どこからともなく現れて……おかしくないですか?」

「ヴラシュよ。何がおかしいのか、儂には全く分らんが? 増えたからなんだというのだ」

「そうね。何かおかしかったかしら? ヴラシュ君、少し疲れている? ごめんなさい。アンデッドの私は疲れないから、そういうの疎かったわ」


 哀れヴラシュ。好きな相手に奇行だと思われ、疲れているのだと慰められてしまった。


 だがこれについては、ヴラシュは一切悪くない。


 故にここは、助け舟を出そう。


 安易に言うなと先ほど口にした手前思うところがあるが、まあ仕方がない。


「ヴラシュ。これは俺の神授スキルが関係している。おそらく転移者でなければ、この現象に疑問を持つことはないぞ」

「へ? じゃ、じゃあ僕がおかしいという訳じゃなかったんですね! よ、よかったぁ」


 ヴラシュは本当に安堵したのか、大きく息を吐いた。


「神授スキルって確か、ヴラシュ君が所持している創造神様に賜ったっていう、特別なスキルよね?」


 どうやらヴラシュは神授スキルについて、女王にある程度話していたみたいだ。


「まあ、そうだな。これまでしっかりと意識したことはなかったが、神授スキルを与えたのは創造神の可能性が高いだろう。実際神授スキルは、エクストラスキルを超える強力なものだ」

「やっぱりそうなのね。ヴラシュ君は何も知らないみたいだけど、転移者はなぜ創造神様に神授スキルを与えられて、この世界にやってきたのかしら?」


 女王の疑問は最もだ。俺もこれまで旅をする中で、その理由についてはいくつか予想ができている。


 それが正解かどうかは不明だが、現状ではそうだとしか思えない。


 転移者について落ち着いて話す機会が無かっただけに、これは俺の想像に過ぎなかった。


 だが他の者とこうして意見を交わすことにより、俺の考えに足りない何かが得られるかもしれない。


 そう思った俺は、女王に自分なりの答えを口にする。


「これは想像に過ぎないが、おそらく転移者の中から神を選ぼうとしているのだろう」


 様々なヒントや状況を加味した結果、この答えに辿り着いた。


 神は言い過ぎかもしれないが、大きく外れてはいないだろう。


 いずれにしても、それに準ずる何かに成れるのではないかと、そう予想していた。


 俺のこの発言に、周囲は息を飲む。


 そして最初に、転移者であるヴラシュが反応を示すのだった。


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