181 休日のような三日間


 あれから三日経った。


 未だに、宝珠の指し示す場所は見つからない。


 もしかして通り過ぎたのかと思い、捜索中のアサシンクロウたちの元で宝珠を確認したりもした。


 しかし通り過ぎたことはなく、単にとても遠いだけのようである。


 だが一つ、青い矢印だけは違った。


 なんと、指し示す方向が変わっていたのである。


 いや、おそらく宝珠がある場所が移動しているのだ。


 移動するダンジョンも、この大陸にはあるのかもしれない。


 なので定期的にアサシンクロウの元に移動して、矢印の確認も行った。


 そんな事があり、俺はこの三日間時間を持て余す。


 故に拠点を拡張して、風呂やトイレ、倉庫まで作った。


 またこの数日で、拠点がダンジョンのように戻ることがないと判明したことも大きい。


 おそらく原因は、俺の魔力で作られた土塊の壁などが、関係している気がする。


 あとは、近場の廃墟街を巡ったりもした。


 けれどもそのいくつかは、他の冒険者によってボスが倒されていたりもする。


 普通は宝箱一つだとデメリットが大きいと思ったが、一定の強さがあればそうではないのかもしれない。


 ちなみに既に攻略していた二つの廃墟街も、未だにボスが再設置されていなかったりする。


 なのでボスが未討伐の場所の方が、案外少なかった。


 それでも二か所ほど、俺は未討伐の廃墟街を発見する。


 生憎モンスターは既存のもので、ボスもノーブルゾンビとスケルトンナイトだった。


 なお廃墟街のボスはボスと銘打めいうってはいるが、普通のモンスターである。


 特にエクストラは無いし、スキルも習得してはいない。


 故に、カード化する必要もなかった。

 

 それは街中の雑魚も、同様だ。ゾンビやスケルトンなど、カード化する必要はない。


 加えてそもそも、スケルトンは既にカード化上限の1,000枚である。


 仮にカード化しようとしても、無理という訳だ。


 まあ、それについてはどうでもいいことか。重要なのは、宝箱の方である。


 けれども結果として、二つの宝箱の中身は微妙な物だった。



 名称:ゾンビポーション

 説明

 適応できれば、種族をゾンビへと変更できる。


 名称:スケルトンソード

 説明

 この剣はスケルトンの骨を与える事で再生する。



 ある意味ゾンビポーションは当たりなのかもしれないが、使い道が無い。


 配下をゾンビにするのは、流石にかわいそうだ。


 それに適応できなければ、どうなるのだろうか? 死亡するのか?


 まあ、これはお蔵入りだな。


 ちなみにスケルトンソードは、骨の剣である。


 あまり強そうには見えない。実際もろそうだ。


 これも、ストレージの奥底に眠ってもらう。


 探索した成果は、これだけになる。


 あとやった事といえば、配下同士を戦わせたことだろうか。


 一応この後何があるか分からないので、死亡するようなことは禁止した。


 その中で、戦わせた感じである。


 訓練になるし、これで戦闘経験が積めれば進化も近づく。


 とりあえずアロマを除いたネームド限定で、総当たり戦をしてみる。


 アロマを除いたのは結果が分かり切っている事に加えて、怪我を治すための回復役という役割があるためだ。


 戦わせるよりも、そちらの方が経験が積めそうな気がした。


 そうして参加したのは、レフ・ホブン・グイン・アンク・ジョン・サン・トーンの七個体。

 

 一応加減しているとはいえ、戦いは苛烈かれつを極めた。


 どうやら、誰が一番強いか純粋に競っているみたいである。


 そして時間が過ぎ、ネームドたちの強さランキングが出来上がった。



 1位グイン(ホワイトキングダイル)A

 2位レフ(グレネスレーヴェ)B

 3位ホブン( エリートゴブリン)C


 4位ジョン(キャタピラーモンキー)D

 5位サン(サン・デビルズサーヴァント)D

 6位トーン(ネクロトレント)C

 7位アンク(アサシンクロウ)C



 ネームドたちの中で優勝したのは、グインである。


 ランクが一番高いのもあるが、出会った当初よりも断然強くなっていた。


 もし仮にあの時の俺が今のグインと戦っていたなら、負けていただろう。


 またボーンドラゴンとの戦いを経て、グインは更に成長していた。


 近距離では強力なあぎとと、ライトウェーブで対処できる。


 中距離は水弾連射、長距離はウォーターブレスもあり、更にはライトベールで状態異常も寄せ付けない。


 自然治癒力も高く、狂化という奥の手や縮小という意外性もある。


 ゲヘナデモクレスの件があるが、本来グインはかなり強いのだ。


 優勝も、必然かもしれない。


 そして二位のレフだが、かなり健闘していた。


 だがグインのライトウェーブと全体的に相性が悪く、敗れてしまう。


 ダークネスチェインはかき消され、シャドーアーマーも破壊されてしまった。


 これは今回の事で気がついたのだが、シャドーアーマーは光属性の攻撃に弱い。


 俺のカオスアーマーも、その点には注意しようと思う。


 そうして三位になったのは、最古参であるホブンである。


 ダンジョンボスとランクアップモンスターのエクストラを持つホブンを、同じCランクと思ってはいけない。


 能力的には、並みのBランクであれば倒せるだろう。


 レフには敗れはしたものの、四位と圧倒的な差で勝利した。


 そんな四位は、意外な事にジョンである。


 なぜ四位まで上がれたのかというと、当然ながら魔導銃のおかげだ。


 しかし当たらなければ、どうという事はない。


 ジョン自体はこの中では弱い方なので、接近されたらお終いだ。


 ちなみにグインとの戦いでは、ウォーターブレスによって一発で敗北した。


 手加減されていなければ、即死だっただろう。


 続いて五位のサンも、緑斬リョクザンのウィンドソードの力が大きい。


 相性の問題で、ホブンとは結構良い勝負をした。


 ホブンの遠距離攻撃は、小波という低威力の無属性魔法だけである。


 なので序盤は、空中から攻撃可能であるサンの優位に事が進んだ。


 けれどもそれは、ホブンが隙を伺っていただけである。


 ホブンは隙を見つけて一気に跳躍すると、見事な一撃でサンを叩き落とした。


 サンも空からの遠距離攻撃が有利といっても、少しの油断が命取りになる事をこれで学んだだろう。


 負けはしたものの、サンにとってこれは良い経験になったはずだ。


 そして次の六位は、進化したばかりのトーンである。


 骸人形で数を増やせるが、やはり決定力が足りない。


 また足が遅く、相手の攻撃でじりじりと削られていった。


 それでも耐久面では有利であるものの、やはり装備の差が大きい。


 ジョンとサンに、一方的に攻撃されて負けてしまった。


 これには、トーンもかなり落ち込む。


 特に空を飛ぶサンには、手も足も出なかった。


 ジョンには物量でもう少しだったのが、先にトーンの傷が看過できないほどになったので、俺の判断で負けとしている。


 どの道あのままでは、カードに戻っていただろう。


 トーンは単体よりも、仲間と連携することで力を発揮するタイプだ。


 なのでこの順位でも落ち込む必要はないのだが、まあ難しいだろう。


 ランクが上で進化したばかりだとすれば、負けて落ち込むのも理解できる。


 この結果を上手く消化してもらい、トーンが成長できるようサポートに勤めよう。


 そうして最後に、最下位になったのはなんとアンクである。


「ざこは、あーしだった……わからせ、られた……」


 アンクがそう呟いたのが、何とも印象的だった。


 アンクもまさか最下位になるとは、思ってもいなかったみたいである。


 だが、この順位も仕方がない。


 そもそもアンクは、正面から戦うのに向いていないのだ。


 隠密からの暗殺スキルによるコンボが、凶悪なのである。


 またこの中でアンクだけが、エクストラを持っていない。


 加えてグインを除いて、アンクはこの中で進化もしていなかった。


 ユニーク個体としてのスキルも、鷹の目と声真似は今回の戦闘だと生かしづらい。


 体力上昇(小)はあるが、結果が大きく変わる要因ではなかった。


 更に装備も無く、実力も他のアサシンクロウより多少強い程度である。


 なのでもう一度言うが、この順位でも仕方がない。


 だが仕方が無くとも、最下位という事実にも変わりはなかった。


 アロマは立場が少し特殊なため、勝っても誇れるものではない。


 故にアンクは、この結果にそうとう堪えているみたいである。


「あーし、もしかして、いらないこ?」

「いや、そんなこと無い。アンクは他の配下にはできない事がたくさんできる。強さだけが、全てではない」

「ほんと?」

「ああ」

「ガァ。でも、つよくなりたぃ」


 偵察などのサポートや、声真似による唯一性。だがそれがあっても、モンスターであるからか、アンクは強さを求めてしまう。


 普段は少し困ったところのあるアンクだが、アンクなりに色々考えていたみたいだ。


 故に強くなりたいのであれば、俺がその機会をやろう。


 経験を積ませ、進化に導くことを決める。


「分かった。なら、これから頑張っていこう。アンクが進化できるように、俺も協力する」

「ガァ……ありがとう。あーしのダーリン」


 そう言ってアンクが俺の肩に乗ると、羽をこすりつけてくる。


「にゃぁ!?」

「きゅいぃ!!」

「********!!!」


 するとそれまで見守っていたレフとアロマが、声を上げた。


 加えてよく分からない怨念おんねんのようなものが、どこからか聞こえたような気がする。

 

 ジョン・サン・トーン・ホブンは、微笑ましいものを見るような、そんな感情を纏っていた。


 ちなみにグインに関しては、我関せずという感じである。


 そんな風に僅かな間ではあるが、休日のようなものを満喫した。


 いつでも動けるように派手な事はせず、なるべく体も休める。


 他にも料理や物作り、配下たちとの交友を深め、有意義な三日間を過ごす。


 そうして宝珠の指し示す場所の一つが見つかったのは、ちょうどその翌日、俺が見つからないと悩み始めた少し後の事だった。


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