158 偵察で集まった情報


 休憩も終え、机と椅子もストレージにしまう。


 また偵察に出したアサシンクロウたちから、様々な情報が集まってくる。


 やはりというべきか、この大陸は荒れ果てているみたいだ。


 人がいる村や街は無く、過去にあったであろう残骸や廃墟のようなものだけが残されている。


 モンスターもアンデッドだけであり、まるで滅んだ世界を彷彿ほうふつとさせた。


 もしかしたらこの大陸には、生ある者が暮らしていないのかもしれない。


 生きた虫一匹すら、見かけないのだ。


 これは、食料調達も絶望的だろう。


 食べられるものを現地調達するのは、難しそうだ。


 まさか、アンデッドモンスターを食べるわけにもいかない。


 これから食料は、節約していった方がいいだろう。


 しかしそうは思ったが、正直食料についてはそこまで心配をしていない。


 モンスターの肉こそ大量にユグドラシルへと渡したが、全てではないからだ。


 それに非常食や野菜に果物、パンや簡単な料理などをストレージに収納している。


 俺一人であれば、当分心配する必要はない。


 加えて水は生活魔法で出せるし、塩はソルトタートルから手に入る。


 また俺にはアプルの果実や、トーンシロップもあるので問題はない。

 

 栄養は少し偏るだろうが、飢えることはないだろう。


 それと得た情報から知ったのだが、この大陸には無数に小さな国境門があるみたいだ。


 既にいくつか発見しており、おおよそこのようなパターンになっていた。



 1.アンデッド軍団が攻め込んでいる。

 2.アンデッド軍団と人型種族が戦っている。

 3.人型種族が拠点を築いている。

 4.何もいない。



 どうしてこれほど小さな国境門があるのかは不明だが、面倒ごとの臭いがする。


 特に人型種族がいる場所には、近づくのは止めておこう。


 おそらく他の国から侵攻して来ているのだろうし、何となく関わればもめる気がする。


 場合によっては別の国境門から来た人型種族同士で、戦うこともあるだろう。


 だとすれば見知らぬ俺がやってくれば、面倒ごとは避けられない。


 情報収集のために、アサシンクロウに遠くから見守らせる程度でいいだろう。


 ちなみに、骨だけの鳥であるボーンバードは偵察に適さない。


 理由は、感覚を共有しても視界と音を確保できないからだ。


 ボーンバードは、生命探知のスキルで情報を得ているみたいである。


 なので生き物がいるおおよその方向や数は分かるのだが、それだけだ。


 ちなみに俺の命令は声に出さなくても伝わるので、問題ない。


 ゆえに偵察は引き続き、アサシンクロウたちに行わせる。


 また感覚の共有と言えば、サンについてだ。


 サンも骨の体だが、視力と聴力が両方あった。


 視力については、眼窩がんかの奥にある金色の光が関係していることは理解できる。


 だが聴力に関しては、疑問が残った。


 なので感覚を共有しながら集中してその点を確かめてみると、あることが判明する。


 どうやらサンの頭蓋ずがいの中にある魔石が、その役割を果たしているらしい。


 であればボーンバードは、なぜそれが出来ていないのか気になった。


 なので試しに、他の骨だけのモンスターとも感覚を共有してみる。


 すると、結果としてその理由が分かった。


 Dランク以上の骨だけのモンスターは、そこに目や耳が無くとも、視力や聴力を魔石を通して代用できるみたいである。


 だが逆にEランクとFランクの骨だけのモンスターは、魔石の質が低くてそれが難しいようだ。


 とても不思議な現象だが、そもそも骨だけのモンスターが動いている前提があるので、そうしたこともあると納得するしかない。


 俺は別に学者では無いので、これ以上探求する気はなかった。


 ある程度分かれば、そういうものだと割り切ることにしている。


 そう言う訳で少し話が脱線したが、アサシンクロウたちには引き続き探索を任せることにした。


 特にダンジョンを重点的に探してもらう。


 ダンジョンはおそらく、大きな街だった場所の近くにある可能性が高い。


 これまでの経験から、大きな街の近くにはダンジョンがあった。


 なので探すなら、そうした場所になるだろう。


 エルフの国ではあまり戦えなかったので、この大陸ではネームドたちと共に、戦闘経験をどうにかして稼いでおきたい。


 ゲヘナデモクレスといずれ戦うことを念頭に、しばらくは仲間たちを進化させる事を目標にしようと思う。


 時間だけは十分にあるので、準備だけはしっかりとしておくべきだ。


 故にダンジョンを見つけたいところなのだが、どうにもダンジョンが見つからない。


 いくつか大きな街の残骸や廃墟は発見済みなのだが、アサシンクロウがいくら探してもそれっぽいものが見つからなかった。


 これは、困ったな。


 見つからないように隠されているのか、それともそもそも存在しないのか……。


 とりあえず、見つからないなら仕方がない。


 それならダンジョンでなくとも、強敵がいそうな場所に行けばいいだけだ。


 俺はそう割り切ると、現状アサシンクロウが見つけた中で一番大きな街に向かうことにする。


 一度ネームドたちをカードに戻し、召喚転移を発動した。この方が魔力の消費が抑えられるのだ。


 そうして瓦礫がれきと、崩れかけの建物が多く建ち並ぶ廃墟街へとやってきた。


 周囲には、無数のアンデッドが徘徊はいかいしている。


 もしかしてこのアンデッドたちは、この街の住民だったのだろうか?


 とりあえず俺は、そのうちの一体に鑑定を飛ばす。



 種族:ゾンビ

 種族特性

【生命探知】【身体能力上昇(小)】



 弱い。おそらくEランクだろう。


「ヴぁぁあ!!」


 すると俺の存在に気がついたのか、ゾンビが襲い掛かってくる。


 即座に緑斬リョクザンのウィンドソード抜き、ゾンビの首を飛ばした。


 それにより、ゾンビは倒れて動かなくなる。


 だがこれを切っ掛けに、周囲のアンデッド、ゾンビたちが俺とレフの存在に気がつく。


「ヴぁあ!」

「ヴおお!」

「がぁあ!」


 加えて気配感知のネックレスを通じて、周囲から大量のゾンビが集まってきていることを感じ取った。


 本来なら恐ろしいホラー展開だが、俺にとってはボーナスタイムだ。


 ネームドたちを召喚して、ゾンビの群れに向かわせる。


「グルオウ!」

「グォオ!」


 グインとレフは、当然のように無双状態だ。


「ゴッブア!」

「ざぁ~こ♡ ざぁ~こ♡」


 ホブンも問題ないようであるが……おい、アンク、その声真似どこで覚えた? まあ、気にしないことにしよう。問題なく戦えている……。


「うきぃ!」

「ギッギ!」

「きゅぃ!」

「――!」


 対してジョン・サン・アロマ・トーンは、少々苦戦気味だ。


 一対一なら問題ないが、やはり数が多いと難しい。


 なので四体一組として、戦わせることにした。


 トーンをタンク、ジョンとサンをアタッカー、アロマをヒーラーとする。


 すると、次第に状況が改善されていった。


 特に、アロマの回復が良い働きをしている。


 アロマの発動するヒールアロマは対象を選べるので、味方だけを回復可能な点が大きい。


 加えてゾンビは馬鹿なのか、攻撃をされるとその対象に一直線に向かっていく。


 トーンが根や枝でゾンビを叩き、攻撃を一身に受ける。


 硬化とエナジードレイン、そこに再生とアロマの回復が合わさり、タンクとしては十分すぎる役割を果たしていた。


 そしてジョンとサンがその隙に、一体一体を各個撃破していく。


 ただジョンとサンは決定打となる攻撃系スキルを持っていないので、少々時間がかかっていた。


 まあ、これは仕方がないだろう。


 けれども、成果としては十分だ。この四匹の組み合わせは、思ったよりも良いかもしれない。


 しばらくは、この四匹を一組として運用していこう。


 そうして俺は全体を見ながら、抜けてきたゾンビや面倒な場所にいるゾンビを狩っていく。


 するとその中に、ゾンビの上位種もいた。



 種族:ハイゾンビ

 種族特性

【生命探知】【闇属性適性】

【身体能力上昇(小)】【毒爪】



 見た目は普通のゾンビとたいして変わらない。だが、動きがなめらかだ。


 おそらく、Dランクだろう。


 身体能力だけで言えば、Cランク相当の可能性もあった。


 目の前の邪魔なゾンビをどかそうとして、腕ごと引きちぎっている。


 そして何を思ったのか、その腕をムシャムシャと食べ始めた。


 見ていて吐き気のする光景だ。


 けれどもそんなハイゾンビも全体として数が少なく、戦況を変えるほどの相手ではない。


 なのでできるだけ、ジョンたちに回しておく。


 相手としては、ちょうどいいだろう。


 そうしてしばらく戦い続け、ようやくゾンビたちの襲撃が止む。


 辺り一帯、ゾンビだらけだ。とても臭い。


 素材としての価値もなさそうだし、戦力としても微妙だな。適当に処分しよう。


 俺はそう思い一度全てカード化してから、ゾンビたちをカードごと消し去って処分する。


 もちろん、一度カードに目を通してユニーク個体がいないか確認もした。


 結果として、ユニーク個体はゼロ。


 やはりこの大陸には、ユニーク個体がいないのかもしれない。


 一応ゾンビを10枚、ハイゾンビを20枚ほど確保しておく。


 そして自身とモンスターたちに、生活魔法の清潔を発動して臭いを消す。


 ついでに、周囲にも発動しておいた。


 これで臭いについては、もう大丈夫だろう。


 それとゾンビはザコだったが、数が多かっただけに良い戦闘経験になった。


 特にジョンたちDランクモンスターは、進化まで大きく前進したと思われる。


 こうした戦いを何度か経験すれば、進化する日も近いかもしれないな。


 俺はそう思いながら、静かになったこの廃墟街をとりあえず探索することにした。


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