第三章

080 思わぬ遠回り


 ラブライア王国を目指す俺だったが、あることに気が付き、遠回りを余儀なくされていた。


 まず前提として、ツクロダを倒せば銃や輪が壊れる。


 しかしそれによって服従状態でなくなったリビングアーマーたちは、その場に残るのだ。


 結果としてリビングアーマーたちがそれで暴れ出した場合、一般人への被害は避けられない。


 襲撃により街の強者も排除されている可能性が高いので、止められる者はおそらく少ないだろう。


 なので俺は目的地を変えて、まず街を解放するためにオブール王国内を反時計回りに飛ぶことになった。


 正直これを実行すれば、ツクロダを倒すのが遠のくことになる。


 加えて仲間との連絡が付かないことで、ツクロダが俺の存在に気が付くかもしれない。


 だがそれでも、数多くの一般人の犠牲を覚悟した上で、ツクロダを倒そうとは思わなかった。


 とても歯がゆいことだが、仕方がない。


 そういう訳で俺は道中大きな街を見つけては、逐一ちくいち解放していく。


 中にはリビングアーマーに抵抗している街もあれば、降伏している街もあった。


 しかしいずれも、二次予選の決勝トーナメントに出場した者は、軒並み殺されている。


 やはりこの襲撃は、各街に致命的なダメージを与えていた。


 これで輪から解放されたリビングアーマーたちが溢れれば、大変なことになっていただろう。


 現状俺以外に街を解放できる者がおそらくいない以上、地道に回っていくしかない。


 また解放後は、その中で一番偉いものを見つけ、簡単な説明を行っておく。


 中には引き留める者もいたが、ハパンナ子爵の命で動いていることを出し、引き下がってもらった。


 しかし生き残りの中には、ハパンナ子爵よりも爵位が高いものもいる。


 そうした者が横暴な引き留めをした際には、以心伝心+で秘密を探り、その弱みを耳打ちして黙らせた。


 道中無数の貴族に出会ったが、ハパンナ子爵のような貴族は少数のようだ。


 大きな時間ロスは、だいたい貴族によるものである。


 正直、俺が助けたいのはハパンナ子爵たちであり、こいつらではない。


 ましてや、オブール王国のために動いている訳ではなかった。


 ハパンナ子爵には面倒を押し付けることになりそうだが、これが終わったらさっさと国を出ようと思う。


 でなければ確実に、この国に利用される気がする。


 全てが上手く行くとは限らない。


 こうした面倒事は、今後も訪れるだろう。


 俺にもっと力があれば、いろいろと変わったのかもしれない。


 だがそんな無い物ねだりをしても、現状はどうしようもなかった。 


 そう思いながら、何日もかけて国を回る。


 睡眠は数日しなくてもどうにかなったが、食事は頻繁に摂ることになった。


 これは途中で気が付いたことだが、食事を摂るとしばらく魔力の自然回復量が増える。


 それにより魔力の収支は一時的に黒字になり、現在でもレフとの融合をキープしていた。


 また襲撃により街が占領されていても、一般市民への危害は少ないようである。


 これは、一般市民たちの暴動をできる限り抑えるためだろう。


 襲撃者は少数であり、いくらリビングアーマーが強力だとしても限りがある。


 占領自体も、武力と恐怖による一時的なものだ。


 恒久こうきゅう的な占領など、そもそも考えてはいない。 


 襲撃者たちの占領は第二目標であり、できるだけ長く占領できればそれでいいようだ。


 優秀なテイマーやサモナー、その従えているモンスターたちの排除が第一なのである。


 つまり占領まで出来た時点で、襲撃者は既に目的を達成しているのだ。


 現在はオブール王国の立て直しを、如何いかにして遅らせるかが使命のようである。


 ツクロダを崇拝している襲撃者たちは、自分の命が失われることもいとわない。


 彼らは街の占領状態を死ぬ気で守るだろう。実際、俺が解放した街は全てそうだった。


 そうしてオブール王国が立て直しに奔走ほんそうしている隙に、ラブライア王国はドラゴルーラ王国を落としにかかるようだ。


 おそらく、主力部隊は全てドラゴルーラ王国側に展開されているのだろう。


 二国侵攻をしないのは、それだけドラゴルーラ王国が強敵だからだろうか。


 いや、今のオブール王国であれば、俺がいないことを前提にした場合、落とすのは難しくはない。


 であるならば、落とすことによるデメリットを計算に入れた結果、後回しにしたのだろうか?


 弱ったオブール王国であれば、後からでも楽に落とせると考えたのかもしれない。


 正直俺に軍事的な事は分からないが、この国があなどられていることはよくわかった。


 だがそれにより、俺が動きやすくなったのも事実だ。


 襲撃後にこの国へと進軍された場合、流石に手が回らなかった。


 ツクロダもまさかここまで盤上をひっくり返す者がいるとは、考えもしなかっただろう。


 同時にこれで、俺が未来視の魔道具に認識されていないことがよく理解できた。


 でなければ、ここまで自由には動けなかったはずだろう。


 そう考えながら、ハパンナ子爵からもらった地図を見て回った街にチェックを入れていく。


 地図はラブライア王国のものと、オブール王国のものが二枚ある。


 またオブール王国の地図には、二次予選が行われる大きな街の場所が載っていた。


 ちなみに解放した街で地図の確認もしてもらったので、間違いない。


 これで二次予選が行われていた街を、全て回ることができる。


 空から見れば、多少地図の位置がおかしくても発見できた。


 それから占領されている街でリビングアーマーを倒し続け、当然のようにカード化していく。


 そしてこれにより、新しい発見があった。


 どうやらモンスターのカード化上限は、一種類につきちょうど千枚のようである。


 それ以上は、どうやってもカード化しなかった。


 なのでカード化できなかった分は、仕方なくストレージに収納している。


 ちなみに色々と周囲の者に能力を見られたが、これはもうあきらめた。


 現状隠し続けた方が、後手に回る。


 最終的に国境門を通れば、おそらく二度と会わない人たちだ。


 そう割り切るしかない。


 またカードの合計所持上限は魔力量で決まるが、正直これはまったく余裕だった。


 おそらく感覚からして、あと一万枚くらいはカード化できる気がする。

 

 ただランクの高いモンスターの場合、一気に必要魔力量が増えるので、実際にはもう少し減るかもしれない。


 これは俺がデミゴッドであり、未だ魔力量が増え続けているのが原因だろう。


 普通の人族では、こうはいかなかった。


 それとリビングアーマーをここまでの枚数分集めた理由は、敵の軍隊と戦うことを想定してである。


 戦うことになるかは分からないが、備えておいて損は無いだろう。


 俺一人では、流石に数千の敵を倒すことは難しい。

 

 おそらく先に、体力と魔力が尽きるだろう。


 なので、俺にも数が必要だった。

 

 その分魔力はもちろん消費するが、結果的に一人で戦うよりも効率がよくなる気がする。


 大勢と戦う機会は今後もできるだろうし、今回はある意味良いチャンスだった。


 同種のモンスターを千匹カード化するのは、中々に大変だ。


 加えてリビングアーマーはCランクであり、人型で扱いやすい。

 

 ツクロダがリビングアーマーを選んだのにも、納得である。


 そんなことを考えながら俺は街を解放し続け、最後には王都へと辿り着く。


 ここを片付ければ、オブール王国での憂いは無くなる。


 確かここには、千体のリビングアーマーが投入されているらしい。


 だが流石王都というべきか、被害は大きいものの占領自体はされていないようだ。


 むしろ既に、リビングアーマーを倒しきっている。


 まあ予選に出ていない強者も、王都には数多くいたということだろう。


 おそらく中にはAランクモンスターを使役する者もいたのだろうし、これには納得だ。


 しかし本来はここから、他の街を取り戻すことが想定されていた。


 国を立て直すのは、かなりの時間が必要だったと思われる。


 だがそれも俺が解決したことで、国の立て直しもかなり早まるだろう。


 そういう訳でここは大丈夫そうだし、本来の目的地であるラブライア王国に向かうことにする。


 いずれ周辺の街から、情報も集まるだろう。


 俺がそう考えた時だった。


『上空を飛んでいる者よ! 今すぐここに下りてきなさい! 指示に従わなければ、実力行使に出させてもらう!』


 俺の脳内に直接、男の声が響く。


 これは、念話か何かか?


 そう思い周囲を見渡すと、強い視線を感じた。


 見れば、おそらく演習場のような場所で俺をにらんでいる者がいる。


 目を凝らしてみると、近くには背中に無数の茶色いこぶを持つ、巨大な赤サイがいた。


 あれはたぶんBランク以上、下手をすればAランクだな。


 なるほど。あれがいたから、リビングアーマーたちを撃破できたのか。


 なら、今の内容は脅しではないだろう。


 ここまでの経緯も直接説明ができるし、これは下りた方がよさそうだな。


 それに、戦闘をするのは面倒そうな相手だ。


 今はできるだけ、消耗を抑えたい。


 俺はそう思い、男の言う通り近くへと下りることにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る