079 決断の時


 周囲を見れば、多くの者がリードと同じように反対のようだった。


 普通に考えれば、無謀なので仕方がない。


 俺が一人が特攻しても、無駄死にするだけだと思っているのだろう。


 だが、これが最もこの国が助かる方法だ。


 時間が経てば経つほど、取り返しがつかなくなる。


 敵がこの国に進軍して来たら、おそらく耐えられないだろう。


 その前にツクロダを倒して、銃と輪を破壊しなければならない。


「リードが何と言おうと、私は行くよ」

「な、なら僕も行く! 君を一人にはできない!」

「それはダメ。正直言って、リードは足手まとい」

「なっ!?」


 俺の言葉に、リードが衝撃を受けたように驚く。


 だがこれは事実だ。リードがいない方が、スムーズに進む。


 まあ、これで納得はしてくれないだろう。


 なら、仕方がないか。


 転移者の秘密を、ここで言おう。


 全てが終わったら、この大陸を去ればいい。


 元々、一つの大陸にこだわっている訳ではないからな。


「これは秘密だったんだけど、ツクロダと私は元々同じ場所から来た存在なんだよね。向こうは理不尽な力を持っているけど、同様に私も理不尽な力を持っているんだよ」


 俺の雰囲気が少し変わったからか、周囲が静まる。


「この姿だって、決勝戦で出した大きな黒いモンスター、レフと融合した姿なんだ。私の正体はジンだよ。少し口調がおかしいのは、融合の影響かな」

「そ、それは本当なのか!?」

「ジンさん……だったのですか?」

「ねこのおねえちゃん、おにいちゃん?」


 その告白に、皆が驚く。


 だがそれを気にせず、俺は言葉を続ける。


「それに私は、一度に数百のモンスターを召喚できる。加えて今の私は、従えているモンスターたちよりも圧倒的に強い。だから私が単独で乗り込むのが、一番可能性が高いんだよね」


 言葉だけで現実味は無いだろうが、先ほどと空気が若干変わった。


「止めても無駄だからね。時間がないんだ。今からでも、私は行くよ」


 そう言うと、ハパンナ子爵が一度思案するそぶりをした後、発言する。


「わかった。ジン君……いや、今はジフレさんなのかな? 現状君に頼るほかなさそうだ。正直、話が本当なら他の街は壊滅状態だろう。このままでは、我々の未来は暗い。だからできることをしよう。何か頼みがあるならば、言ってくれ」

「と、父さん!」


 リードが声を上げるが、ハパンナ子爵は無視をする。


 その目は覚悟が決まっており、俺に全て託すようだった。


 結局のところ、今の状況が悪化しても、好転する可能性は極めて低い。


 であるならば、少しでも可能性のある部分に賭けたのだろう。


 信じてくれたのは、理不尽な事を目の当たりにしたからかもしれない。


 加えて俺が助けなければ、今頃命は無かったからだと思われる。


「ありがとうございます。では、地図と魔力を回復するポーションを頂けないでしょうか? この融合は常に魔力を消費しているのです。一度解除してしまえば、おそらくしばらく使えなくなりますので」


 俺は丁寧な言葉遣いを意識して、正直にそう答えた。


 レフとの融合は、ホワイトキングダイルの時よりも消費が少ない。


 けれども少しずつだが、魔力の消費が回復量を上回っている。


 戦闘を行えば、より魔力の減少は加速するだろう。


 ここでこの融合を解くのは、得策ではない。


 レフをしばらく召喚できなくなるのを考えれば、このまま特攻した方が成功率が高まる。


 またカード化できなくなるのも、戦力の補充という面で困るだろう。


 なので、魔力ポーションは必須だ。


「分かった。今すぐ用意しよう。もちろん、ポーションは量と質をそろえよう」

「助かります」

「構わないよ。私には、これくらいしかできないからね」


 ハパンナ子爵はそう言って、兵士の一人に命を下した。


 それからしばらくすると、地図と大量のポーション類の入ったマジックバッグが渡される。


 だがストレージに入れる都合から、マジックバッグから取り出すのは二度手間になってしまう。


 なので全て取り出して、ストレージに改めて収納した。


 ちなみにマジックバッグは、返却している。


 これで準備が整ったので、俺はさっそく出発することにした。


「ねこのおねえちゃん、行っちゃうの?」


 するとどこか悲しそうに、ルーナが近付いてくる。


 なので目線を合わせて、頭を撫でてあげるつもりでいた。


 しかしその時、レフが表面に出てくる。


「にゃーん」


 そう言って、ルーナの頬をペロリと舐めた。


「きゃっ、ね、ねこちゃん!」


 ルーナは俺の内にいるレフを感じ取ったのか、笑顔を浮かべる。


 だがしかし、傍から見たら幼女の頬を舐めた変態だった。


「レ、レフが出てきたみたいだね。ルーナとは仲が良かったから、悲しそうな顔を笑顔にしたかったみたい」


 そう、言い訳をするしかなかった。


 一部今のを見て興奮している者がいるが、気づかないふりをする。


「そ、そうか。ルーナも喜んでいる。ありがとう。一瞬責任を取ってもらおうかと、真剣に悩んでしまったよ」


 そう言うハパンナ子爵の目は笑っていなかったので、今の言葉はおそらく本気だろう。


 レフの行動で、全く酷い目に遭った。


 融合というのは、こういうリスクもあるみたいだ。


 身体の所有権はほぼ俺に渡されているが、完全ではないらしい。


 もしホワイトキングダイルとの融合だったのであれば、体の所有権を主張するのは大変だっただろう。


「ジン君、僕は今でも反対だけど、気をつけて。絶対に、生きて帰って来てほしい」

「うん。約束する。戻って来るよ」


 何はともあれ最後にはリードとそんな言葉を交わし、俺は闘技場の会場へと出る。


 ハイオークとオーク軍団は、このまま残しておく。


 また襲撃が無いとも限らない。


 そして待たせていたグリフォンに乗ると、いよいよ空へと飛び立つ。


 見送りは現状危険があるので、遠慮してもらっている。


 さて、目的地はラブライア王国の王都だ。


 おそらくそこに、転移者のツクロダがいるだろう。


 この大陸の未来のために、コイツには消えてもらうことにする。


「行くぞ」

「グルル!」


 そうして俺は、グリフォンに命じてラブライア王国へと向かうのであった。


__________


ご覧いただき、ありがとうございました。

これにて、第二章は完結です。


次回からは第三章が始まります。

そして更新ですが、しばらく一日一話になります。


また諸事情で、更新の再開は2/21からになります。

ご理解のほどよろしくお願いいたします。<m(__)m>


詳しい経緯は、活動報告に書いてあります。


最後にレビューや星を頂けると、大変励みになります。


引き続き、倒したモンスターをカード化! 通称モンカドをよろしくお願いいたします。


乃神レンガ

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