071 オブール杯二次予選 ②

 午前の試合が終わり、現在は昼休憩である。


 リードも無事に決勝トーナメントに進んだようで、とても喜んでいた。


 それから俺とリードは、ハパンナ子爵たちと合流する。


 ちなみに貴賓席には街の有力者たちもおり、挨拶を交わすことになった。


 ハパンナ子爵の屋敷で世話になっているので、とても注目されてしまう。


 だがそれは仕方がないことなので、諦める。


 それから貴族や有力者が使う食事用の部屋に案内されて、そこに俺も同席することになった。


 当然色々と質問されたので、当たり障りのない返答をしておく。


 またグレートキャタピラーを納品したことも知られているようで、その過程を聞きたがる者が多くいた。


 おそらく俺が納品したグレートキャタピラーの素材の一部は、この者たちの元にも流れるのだろう。


 その際の事前交渉で、俺の情報が多少知られてしまうのは仕方がない。


 討伐者と納品者を一切明かせないとなると、流石に不審がられてしまうだろう。

 

 なのでとりあえず、知られても問題のない箇所かしょだけの説明で、なんとか乗り切った。


 それとこの二次予選には、ルーナも見に来ている。


 モンスター同士の戦いを怖がって来ないと思っていたので、これは意外だった。


 ちなみに貴賓席に着いた瞬間に、レフを出してほしいとルーナにお願いをされてしまう。


 だがレフとはいえ貴賓席周辺でモンスターを召喚するわけにはいかないので、当然断っている。


 かわいそうだが、ルーナには諦めてもらった。


 リーナにも諭されていたので、大丈夫だろう。


 その代わりレフが試合に出たときは、是非応援してほしいと言っておく。


 するとルーナは頷いて、レフを応援すると気合を入れていた。


 それから昼食も終わり、もうすぐ時間が来る。


 決勝トーナメント表は既に出来上がっており、貴賓席に戻れば壁に貼りつけてあった。


 それを確認すると、リードが声をかけてくる。


「ジン君と当たるのは、決勝戦みたいだね」

「そのようですね」

「これは、ジン君と戦うまで負けられないな。決勝までお互いに頑張ろう!」

「はい。頑張りましょう」


 そう言って、リードは笑みを浮かべた。


 だがその時、トーナメント表に書かれた名前の一つに気が付く。


 見つけたのは、アミーシャという名前。


 アミーシャか。こいつは忘れもしない。ノブモ村で準優勝した女だ。


 決勝をせずに負けを宣言したのは、今でも思い出せる。


 どうやら、決勝トーナメントに残るほどの実力者だったらしい。


 順調に勝ち進めば、二戦目に俺とぶつかるな。


 おそらく今度こそ、戦うことができるだろう。


 そしてこの決勝トーナメントに優勝か、準優勝することで、王都での本戦出場資格を手にすることができる。


 よし、優勝して、王都の本戦に出るぞ。


 俺は気合を入れて、決勝トーナメントの試合に望むのだった。


 ◆


 時間がやって来ると、俺とリードはまず闘技場の中央へと移動する。


 そこでは、選手の紹介が行われた。


 どうやらマイクのような魔道具があるようで、この広い闘技場でもよく響く。


 そして選手で一番の人気は、やはりリードだった。


 ハパンナ子爵の次男であり、容姿も優れている。


 特に女性人気が凄く、闘技場が黄色い声に包まれた。


 それと意外にも俺も人気があったみたいで、男女問わず声援が届く。


 だがそれに紛れて、鑑定が無数に飛んできた。


 もちろん全て抵抗したが、人が多過ぎて誰が発動したのか目視では分からない。


 発動した者も、それを理解しているから鑑定を飛ばしてきたのだろう。


 これは、モンスターも鑑定されそうだな。


 一応偽装はかけているが、それ以前に能力を覗き見ることはできないだろう。

 

 何故ならモンスターは俺のカードから召喚されているので、鑑定の抵抗に俺が直接干渉できるのである。


 多少自分自身よりも抵抗力は弱まってしまうが、それでもそこいらの者には突破は不可能だろう。


 なので、周囲の鑑定はあまり気にしなくてもいい。


 そうしているうちに選手の紹介が終わり、俺たちは二手の控室に分かれる。


 対戦相手とは、別室で待機するようだ。


 その振り分けにより、残念ながらリードとは分かれてしまった。


 試合は一組ずつ行われ、制限時間は三十分だ。


 俺は第二試合なので、一試合待つ必要がある。


 ちなみに第一試合には、アミーシャが出場するようだ。


 どのようなモンスターを出すのか気になるが、選手は公平性を保つために見ることができない。


 また控室の周辺は、係りの者以外は進入不可となっている。


 なので、おとなしく待っているしかない。


 そしてしばらく待機をしていると、ようやく俺の番が回ってくる。


 係りの者に連れられて、俺は会場に入った。


 対戦相手は、三十代の男性。


 恰好は冒険者そのものであり、革鎧を着ている。


 また頬には傷があり、おそらくモンスターと共に戦っているのだろう。


「少年。よろしく頼む」

「ああ、こちらこそ」


 最初に向かい合って軽く声を交わすと、お互いの立ち位置へと移動する。


 さて、まずはド派手に行くか。


 俺は出すモンスターをさっそく決めると、審判の合図と共に召喚した。


「ギシャア!!」


 俺が出したモンスターは、ソイルセンチピート。



 種族:ソイルセンチピート

 種族特性

【地属性適性】【地属性耐性(中)】

【顎強化(中)】【食い溜め】

【眷属出産】【集団指揮】



 広く場所を使える決勝トーナメントだからこそ、出せるモンスターだ。


 対して男性は、小さなハンドベルを鳴らした。


 すると男性の後方から、一匹のモンスターがやって来る。


 それは、巨大な二メートルを超えるカマキリだった。


「ギギギ!!」


 カマキリか。それとベルを鳴らして登場させるのは、ハンデを無くすためだろう。


 手持ちが事前に見られてしまうのは、テイマー側が圧倒的に不利だからな。


 鳴らしたベルによって、事前に決めたモンスターを出すようにしているようだ。


 加えてあのベルは、魔道具だと思われる。

 

 でなければ、この距離から音が届くはずがない。


 決勝トーナメントからは、こうした物も用意もされていたのだろう。


 俺は一応サモナーで登録しているので、そういうことは聞かれなかった。


 まあ、それは良いとして、問題は相手だな。


 あの大きなかまは、良く切れそうだ。


 おそらくCランク以上だろう。


 単体の戦闘能力では、向こうの方が強そうだ。


 しかし、それはあくまで単体であればになる。


 さっそく一つ札を切ることになるが、仕方がない。


 俺はソイルセンチピートに、命令を下す。


 その瞬間、ソイルセンチピートが口から何かを無数に発射する。


 当然男性は警戒して、巨大カマキリに注意を呼び掛けた。


 だがそこで動かなかったのが、致命的なミスになる。


 ソイルセンチピートから発射されたのは、眷属出産により生成された卵だ。


 加えて普通の卵とは違い、あっという間に孵化をする。


「「「キシャ―」」」


 そして無数のソイルワームたちが生まれ、巨大化していく。


 本来ここまでの効果は無く、実際カード化する前も発動をしてこなかった。


 発動しなかった理由としては、魔力の不足である。

 

 既に出産を終えていた当時のソイルセンチピートに、発動をする余裕はなかったのだろう。


 また即座に成長をしているのは、事前に食い溜めで魔力を補充していたからである。


 種族特性の食い溜めは、取り込んだエネルギーを蓄えることができた。


 そしてカード化したモンスターは食事が不要であり、俺の魔力をエネルギーとする。


 これが上手く噛み合い、大量の魔力を事前に溜め込むことができた。


 なので本来の数倍以上の魔力を使うことにより、一瞬でソイルワームを生んで成長させることができるのである。


 ただしこれによって生まれたソイルワームは、短命で三日も持たないようだ。


 ちなみに種族特性などによる眷属を増やす行為は、大会での使用が認められている。


 あくまでもモンスターの能力であるということが、やはり理由として大きい。

 

 そんなことを考えている間に、ソイルワームたちが巨大カマキリへと襲い掛かった。


 だが所詮はソイルワームなので、時間稼ぎ程度にしかならない。


 しかし、それが狙いだ。


 ソイルセンチピートが、次々にソイルワームを生み出していく。


 最終的に巨大カマキリの捌ける量を超過したことで、一気に形成が逆転する。


 このままでは喰い殺されるのが目に見えていたので、男性は巨大カマキリの負けを宣言した。


 問題はソイルワームの引き上げだが、ソイルセンチピートの一鳴きで一斉に戻ってくる。


 今更だが、観客はドン引きしていた。


 試合を見ているルーナのトラウマに、なっていなければいいが……。


 そう思いふと貴賓席に目を向けると、ルーナの姿は無かった。


 おそらく、誰かが見せないように移動させたのだろう。


 正しい判断だ。


 それと見ていて思ったことだが、ソイルセンチピートは口から卵を生むんだよな。


 しかも相手を必要とせずに、単体での出産が可能だ。


 モンスターゆえの、不思議な生態としか言いようがない。


 あとこの一戦で俺の人気が一気に減少したが、まあ仕方がないだろう。


 けれども少しくらいは、出すモンスターを考えた方が良かったかもしれない。


 試合中に聞こえた観客の悲鳴を思い、俺は多少出したことを後悔するのだった。

 

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